2019年夏、インターハイ初出場校が会場中の視線を釘付けにしていた。
学校対抗3回戦、6連覇中の王者・四天王寺高校を茨城県代表があと1点まで追い詰めていたのだ。それが大成女子高校だ。
コアな卓球ファンなら見覚えのある高校名かもしれない。2019年全日本ジュニア女王・出澤杏佳を擁するからだ。
意外にもインターハイ学校対抗は初出場だったが、大エース出澤を軸に勝ち上がり、7連覇を狙う四天王寺高を窮地に追いやった。あと1点届かず、惜しくも敗れたが、初出場でベスト16と立派な成績を収めた。
そんな大成女子高校卓球部を取材した。取材後、史上初のインターハイ中止が決まってしまったが、あえて言いたい。大成女子は“立派な優勝候補”だった、と。
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スポーツ推薦だけでなく一般入部の選手も活躍する
JR水戸駅から車で10分ほど、綺麗な校舎が見えてきた。出迎えてくれた顧問の齋藤洋晴先生の案内の下、卓球場へ足を運んだ。校舎の地下にある練習場では、4台の卓球台が並べられ、取材時には新2年生、新3年生の8名が練習に汗を流していた。
写真:大成女子高校メンバー/撮影:ラリーズ編集部
チーム強化に取り組み始めて6年目、2019年夏のインターハイで学校対抗にようやく初出場を遂げた。強豪校らしくスポーツ推薦の部員が大半を占めるが、一般入部の部員も中にはいる。
「部の強化始めるときに学校長からは『スポーツ推薦だけのチームにしないでくれ。誰が来てもいいチームにしてくれ』と言われています。なので、うちは普通科と家政科と看護科があるんですが、将来看護師になる看護科の一般入部の部員もいます。それでもチームと同じように練習をこなしてます」と斎藤先生は説明する。
写真:目標が壁には掲示されている/撮影:ラリーズ編集部
監督を務めるのは吉村真晴の同級生
中学高校と卓球経験のある斎藤先生に加えて、監督を務めるのが新潟大学出身の澤畠雅孝さんだ。澤畠監督は、小学生のときは茨城県・東海クラブでリオ五輪銀メダリストの吉村真晴とプレーし、文星芸大附高時代に全日本ジュニアベスト16に入った実力を持つ。
「出澤と試合すると五分五分ですね(笑)」。照れ笑いを浮かべる澤畠監督だったが、多球練習で球出しをしながらの技術指導や、実際に練習パートナーとして打ち合うなど、精力的に部員の指導にあたる。
写真:澤畠雅孝監督/撮影:ラリーズ編集部
齋藤先生も澤畠監督の指導に目を細める。
「澤畠くんは、文星芸大附高で3年のときに関東大会で優勝してる。外部コーチとしてはもう3年くらいやってもらっていて、非常勤講師として入ってきたのは2019年からです。茨城国体のあとから監督として現場を見てもらっています。指導者がいるので私はマネジメントに徹してやれているし、順調に強化してる成果は出ているのかなと」。
王者を追い詰めた、2019年夏
強化の成果が表れたのが、2019年夏のインターハイだ。学校対抗の部で初出場し、群馬代表の樹徳高校、山梨代表の日本航空高校を破り、6連覇中の王者、大阪代表の四天王寺高校と対戦した。
写真:出澤杏佳/撮影:ラリーズ編集部
前半のシングルス2本でカットマンの3年生佐藤幸美、2年生エースの出澤が2連勝を収め、いきなり王手をかける。
続く3番ダブルスは、出澤と1年から組む小林莉歩(2年)とのペアが登場するも「2-0で回ってきたことで、緊張して全然上手くいかなかった」(小林)、「ダブルスは競れるかなと思ったら結構ボコボコにやられて、もうだめかと思った」(出澤)とゲームカウント0-3で敗れてしまう。4番シングルス島貫紗羽も敗れ、チームの命運は5番の小林に託された。
写真:ストレッチ中に取材に答えてくれた小林莉歩(大成女子高)/撮影:ラリーズ編集部
小林は当時の心境をこう振り返る。「ダブルスですこすこにやられたことで、逆に吹っ切れた。やっぱ強いんだなと再認識できました。普通にやったら絶対勝てない相手だけどやれるだけやってみようと思った。前半で出澤も佐藤先輩も勝っていたし、やってみなきゃわかんないなと。格上だったけど向かっていくしかないなと思ってプレーしたらいい勝負になりました」。
相手はその夏、ダブルスインターハイ女王に輝くこととなる大川真実(四天王寺高)だ。小林はいきなり1ゲーム目を先取すると、交互にゲームを奪い合い迎えた最終ゲーム、9-5とリードする。その後、追い上げられるが、10-9とマッチポイントを奪った。
写真:あと1本が遠かった小林莉歩/撮影:ラリーズ編集部
あと1点で初出場校が、6連覇中の王者を下す“ジャイアントキリング”を起こす。「観客の目がうちのコートにどんどん集まってきていた」と齋藤先生が語るように、会場も異様な雰囲気に包まれていた。
プレーする小林もその雰囲気に飲まれてしまっていた。「マッチポイントをとってから動揺してしまった。勝っちゃうかも、と。油断ではないですけど、メンタルが揺れて弱気になりました」。小林は10-9、11-10と2度のマッチポイントをものにできず、大番狂わせを演じることはできなかった。
写真:大成女子高校メンバー/撮影:ラリーズ編集部
「『あ~やっぱ勝てなかったか』というような変などよめきがあったのは覚えてます。種目違うけどスラムダンクみたいに感じちゃった(笑)。勝てなかったけど非常に頑張ったねって。出澤の活躍もそうですけど、うちのチームは出澤だけじゃなくて頑張ってるので、今後もなんとか茨城のトップとして引っ張っていきたいですね」。齋藤先生はそう笑った。
そして、最後の夏は
出澤、小林らは2年生ながら王者をあと1歩に追い詰めるも届かず、苦杯を嘗めた。「次こそ、あの1点を取ろう」。最後の夏に懸け、この一年腕を磨いてきた。
そのインターハイが中止となったのは、ご存知の通りだ。リベンジの機会は訪れなかった。
脳裏に、取材時の彼女たちの練習姿が浮かぶ。そこに費やしてきた時間、懸けてきた思いを考えると、取材者の私も表現する言葉を失う。
絶対王者にあと1点を取るため、仲間たちと青春を懸けて努力した。それは大会があろうとなかろうと、確かな事実だ。
あの1点は、それぞれの次の人生のステージで取ろう。
それまでのお預けだ。
写真:独特のポーズで笑顔を見せる大成女子高卓球部メンバー/撮影:ラリーズ編集部
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