実業団のエースが退社しプロ転向 安藤みなみが今、Tリーグに挑戦する理由 | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

写真:安藤みなみ(トップおとめピンポンズ名古屋)/撮影:田口沙織

卓球×インタビュー 実業団のエースが退社しプロ転向 安藤みなみが今、Tリーグに挑戦する理由

2021.02.06

この記事を書いた人
Rallys編集長。学生卓球を愛し、主にYouTubeでの企画を担当。京都大学卓球部OB。戦型:右シェーク裏裏

過去に伊藤美誠や石川佳純を破るなど卓球ファンには名の知れた選手が、人知れず大きな決断を下していた。

実業団・十六銀行のエースである安藤みなみがプロ転向を選んだのだ。

安藤は2021年1月31日付で十六銀行を退社し、2月1日よりTリーグ・トップおとめピンポンズ名古屋に所属のプロ卓球選手となった。なぜ今、プロ挑戦を決意したのか。


【安藤みなみ(あんどうみなみ)】1997年2月12日生まれ。愛知県出身の女子プロ卓球選手。専修大学では2年連続全日学2冠、十六銀行では2019年前期日本卓球リーグで最高殊勲選手賞を受賞。バックの変化系表ソフトとフォアスマッシュという独特の戦型で活躍。世界ランキング最高29位。

なぜ安藤は、安定を投げ捨てプロへ挑戦するのか


写真:安藤みなみ(トップおとめピンポンズ名古屋)/撮影:田口沙織

安藤はつかみどころがない不思議な選手だ。凛々しくクールに話すのかと思えば、お茶目な冗談を言って場を和ませることもある。プレースタイルも独特で唯一無二だ。福原愛さんが愛用した球質変化の大きい表ソフトラバーをバック面で操り、フォアは強烈なスマッシュを連打する。

全日本選手権では、5年連続でランク入りを果たし、2017年には優勝候補の伊藤美誠にも勝利している。さらに、2019年5月には世界ランキング29位にも到達し、世界で通用することも証明している。


全日本選手権では5年連続ランク入りを果たした

申し分ない成績を残し、実力的にはプロと遜色ない。しかし、以前取材した際「引退するまでに全日本で表彰台に上がりたい」とどこか現実的な目標を掲げていた。実業団選手として高みを目指していくのだろうとてっきり思っていた。だから「安藤みなみが十六銀行を退社しプロになる」という情報が入ったときは驚いた。

エースとして活躍できる立場、卓球に専念できる環境、専用の練習場もある。さらに実業団ならば安定した月々の給料に加え、引退後も働き口がある。それらを投げ捨て、今、なぜプロの世界に飛び込むのか。取材冒頭でその疑問をぶつけた。


プロ転向の思いを語ってくれた/撮影:田口沙織

「もう一つ上のランクで卓球ができるならそこに行ったほうが良いのかなって。自分も長く現役をできるとは思っていない。だったら行けるときに行って、限界までできたらいいなと決めました」。

理解はできる。だが、Tリーグの何がそこまで安藤を掻き立てるのかはわからなかった。

忘れられなかった「Tリーグの楽しさ」


写真:Tリーグ1stシーズンでの安藤みなみ(トップおとめピンポンズ名古屋)/提供:©T.LEAGUE

実は、過去に安藤はTリーグの舞台に立っている。2018年、専修大学4年生だった安藤にトップ名古屋から声がかかった。当時、大学で独自のプレーに磨きをかけ、全日本学生卓球選手権(全日学)でシングルス、ダブルス2冠を獲得していた。

「実業団に行って、年が来たら現役を終えるんだろうな」。そう漠然と考えていた安藤にとって、この誘いは青天の霹靂だった。「最初はすごくびっくりした。でも迷わず出たいと思った」。

安藤はシングルス4勝7敗、ダブルス3勝5敗の成績を残した。シングルスでは石川佳純から勝ち星を挙げるなど、ポイントゲッターとしてチームに貢献した。


写真:Tリーグ1stシーズンでは単複合わせて7勝をあげた/提供:©T.LEAGUE

「1季目出させてもらってTリーグの楽しさは一度感じていた。勝った時は本当に嬉しくて、それでチームが勝つともっと嬉しくて。試合もそうですし、選手もスタッフも温かくて、トップ名古屋というチーム自体がすごく楽しかった」。この経験が心の中にずっと残っていた。


「トップ名古屋というチーム自体がすごく楽しかった」/撮影:田口沙織

「十六銀行が大好きだった」でも「挑戦したい」

Tリーグ1stシーズンを終え、専修大を卒業後、安藤は実業団の十六銀行を進路に選んだ。


写真:十六銀行でプレーする安藤みなみ/撮影:ラリーズ編集部

「2季目以降もTリーグの試合を見ていて、もう一回試合したいな、うらやましいな、と思っていた。Tリーグは海外トップ選手も参戦していてレベルが高い。1ランク上でできるならやりたかった。でも両方出るのはなかなか難しかった」。

十六銀行には、Tリーグと掛け持ちでプレーする選手はいない。「雰囲気や応援も今までで一番良いと思えるチームだし、十六銀行が大好きだった」。安藤の気持ちは揺れ動いていた。


「十六銀行が大好きだった」

十六銀行の河田靖司監督は、その安藤を静かに見つめていた。「安藤にもっと上に行きたい気持ちがあれば、Tリーグで戦いたい気持ちもわかるから」。

入社1年目の2019年、安藤は前期日本リーグでチームを2期ぶり5度目の優勝に導き、最高殊勲選手賞を受賞した。チームはそのまま初の年間王者に登り詰めた。2020年は後期日本リーグ、ファイナル4ともに安藤はシングルス全勝の活躍で、十六銀行を2年連続の年間王者に導いた。


プロへ転向することを安藤は決意した/撮影:田口沙織

ファイナル4で優勝後、安藤は河田監督に告げた。

十六銀行を退職し、Tリーグに行こうと思います」。

河田監督は安藤の希望を受け入れた。

「今年の実業団の試合で安藤は10戦全勝。アスリートとして強い相手と戦うステージを求めるのは理解できる。チームにとっては非常に残念なことではあるけれど、安藤自身を応援していきたい」。


写真:ファイナル4優勝時の十六銀行(写真右端が河田監督、左から3番目が安藤)/撮影:ラリーズ編集部

「勝ってみんなを驚かせたい」のぞかせた少しの自信


写真:安藤みなみ(トップおとめピンポンズ名古屋)/撮影:田口沙織

安藤が加入するトップ名古屋は、今季2勝12敗で最下位(2月5日時点)と苦しんでいる。紙一重の差で落とした試合も多い。チームにとって日本リーグ優勝経験の持つ安藤の加入は大きい。

「十六銀行の団体戦での経験は貴重だった。徳永(美子)も山本(怜)さんも加藤(知秋・杏華)姉妹もいつも大事なところで勝って試合を決めてくれた。誰かが負けても自分が取るんだという気持ちが伝わってきて、すべてが感動する試合ばかりだった。みんながかっこいい姿を見せてくれて、団体戦ってこうやって戦うんだというのを知りました」。

個の力だけではない“団体戦の勝ち方”を知っている安藤は、今季のみならず来季以降にも繋がる貴重な戦力となるだろう。


Tリーグで再び戦う安藤は今、何を思う/撮影:田口沙織

最後、安藤にTリーグで戦う率直な思いを聞いてみた。

「負けるのが怖いという不安な気持ちと、自分がまたTリーグでどこまでできるのか楽しみという気持ちと両方です」。

そしてこう続けた。

勝ってみんなを驚かせたいですね」。

照れ笑いしながら少し自信ものぞかせる。安藤のプロとしての挑戦が幕を開けた。


「勝ってみんなを驚かせたい」/撮影:田口沙織

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