「誰も練習してない」チームを"絶対王者"へ 愛工大名電高卓球部・今枝一郎監督の指導論 | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

写真:今枝一郎監督(愛工大名電高校)/撮影:槌谷昭人

卓球×インタビュー 「誰も練習してない」チームを“絶対王者”へ 愛工大名電高卓球部・今枝一郎監督の指導論

2022.01.01

この記事を書いた人
Rallys副編集長。学生卓球を愛し、主にYouTubeでの企画を担当。京都大学卓球部OB。戦型:右シェーク裏裏

ついに“絶対王者”愛工大名電高校卓球部の練習に潜入した。

8月のインターハイ、編集部の山下がRallys Tシャツを着て会場をうろうろしていると、開会式前のふとしたタイミングで今枝一郎監督と会場ですれ違った。「卓球界のためなら何でもしますよ」。そう声をかけていただき「ぜひ取材させてください」とお願いすると電話番号を教えていただいた。

意を決して取材日程調整のために9月頭に電話した。「Tリーグ、国際大会の国内予選、海外リーグなどでほとんど選手が揃わないんだよね(笑)」。今枝監督はそう笑いながらも、取材日程を調整してくれた。

そして10月末に1日だけ、Tリーグベストペア賞の篠塚大登、インターハイ3冠王の谷垣佑真、全日本ジュニア王者の濵田一輝の3人が揃う日があった。編集長の槌谷、編集部の山下は、名古屋市にある練習場に足を運び、3選手と今枝監督に話を聞いた。まずは今枝監督のインタビューをお届けする。


【愛工大名電高卓球部】愛知県の卓球強豪校。2021年のインターハイ学校対抗では5連覇、男子シングルスで谷垣佑真、男子ダブルスで谷垣佑真/篠塚大登ペアが優勝し、谷垣は3冠を達成した。松山祐季(協和キリン)、木造勇人(愛知工業大学)ら日本卓球界の最前線で活躍する選手を輩出している。今枝一郎監督もOBで過去には全日本卓球選手権でシングルス優勝に輝いている。

「自分の母校とは考えられないチーム」からのスタート


写真:今枝一郎監督(愛工大名電高 /撮影:槌谷昭人

――取材ご調整ありがとうございました。今回は愛工大名電の強さの秘密を探りに来ました。

今枝監督はコーチとして母校に帰ってこられたんですよね?

今枝監督:最初にコーチとして来たときは、誰も練習してない。自分の母校とは考えられないチームでした。

落ちるとこまで落ちてて、でもインターハイは団体ならベスト8くらいは入ってたんですけど、個人は愛知県予選を1人通過できるかどうかぐらいでした。


写真:今枝一郎監督(愛工大名電高)/撮影:槌谷昭人

――そこからガラリと立て直したんですね。
今枝監督:少しずつの積み重ねですよね。最初は、今愛み大瑞穂高の監督をしている神谷(卓磨)が1人で残って練習してくれてて、一緒に夜練習をやり始めて、もう1人、190㎝ぐらいある齋藤(美一)という選手にも、ドライブのフォームを教えるところからスタートしました。

2人がみるみる強くなるから、他の選手も夜の練習に一人ずつ「僕も入れてください」とだんだん増えていったのが最初でしたね。


神谷卓磨監督(愛み大瑞穂高) 以前の取材で今枝監督への感謝を語っていた

――最初はそんな状況だったんですね…
今枝監督:本当に少しずつ評判を良くして、一気に流れが来たのが、自分が卓伸クラブ出身ということもあって、松山(祐季・協和キリン)が入ってくれたこと。そしたら木造(勇人・愛知工業大学)も髙見(真己・愛知工業大学)も来てくれた。

松山らで全国高校選抜で日本一になって、木造たちも続けて日本一になって、今のような状況になりましたね。


「弱い頃も教え甲斐があって楽しかったですよ(笑)」

強くなる選手の要素とは?

――今年のインターハイも3冠王が生まれて、学校対抗も5連覇達成でした。
今枝監督:今の高校3年生たち、僕はべた褒めなんです。努力もできるしセンスもある。

今日は試合でいないですけど、岡野も全日本ジュニアで3位になりましたし、今いる3人はほんと三者三様で、真面目真面目の濱田と、おちゃらけの谷垣と、もうそれをちゃんと観察していいものを取り入れる篠塚。全員が人間として魅力的ですね。

全員が全国で表彰台に並ぶ。こういう恵まれた状況にあるのが本当にありがたいですね。


写真:篠塚大登(愛工大名電高) この代の主将を務めた/撮影:槌谷昭人

――今枝監督から見て強くなる選手というのはどういう選手でしょうか?
今枝監督:一番はスポーツマンであることですね。

人の目を見て挨拶できる礼儀の部分や、話を聞いて吸収して、日々前進していく子でないと強くはならないと思います。今の時代は、自分で強くなる理由をたくさん取り入れなきゃいけない。それができる子というのは、スポーツマンなんじゃないかなと僕自身は思ってます。


写真:練習中、濵田一輝に声をかける今枝一郎監督(愛工大名電高)/撮影:槌谷昭人

――愛工大名電のようなスポーツマンの集団の中でも飛び抜けて強くなる選手がいると思います。そういう選手はどういう要素があるのでしょうか?
今枝監督:私たちの考えにプラスして自分自身の考えをプラスできる人です。

例えば、ゲーム間にベンチでアドバイスするとき、効いている戦術があっても、試合の展開は読めないですから、何対何のときにやれとは言えない。でもなかなか結果が出せない選手は0-0でそのアドバイスを実行しようとするんですよね。


写真:木造勇人(愛知工業大学) 愛工大名電高ではインターハイ3冠王に輝いた/撮影:ラリーズ編集部

今枝監督:ですけど例えば、木造だったらそれを最後まで残しておいて、一番大事なところでやるべきことをやってくれる。

いつ使うかは、要するに自分の状況を知り、相手を観察してるからこそできることだと思うんですよね。自分の考えをちゃんとプラスしてくれている。いつも木造の試合を見てそう思ってました。

レギュラーは投票制


写真:愛工大名電の練習風景/撮影:槌谷昭人

――監督になりたての頃と今とでは変わった部分はありますか?
今枝監督:まず真田浩二先生(愛工大名電中監督)が入ってきたことは名電として大きなことでした。最初は一人でやってましたから。

卓球に対すること、生徒に対すること、許していいこと許しちゃいけないことなどを2人で学習してきたから今があるんじゃないかなと思います。


写真:2021年全国中学校卓球大会での真田浩二監督(愛工大名電中)/撮影:槌谷昭人

今枝監督:昔は、生徒より自分の方がエネルギッシュで、毎日力が入ってました。でも今は僕も真田先生ももう全く。

「一生懸命今日はやれないの?じゃあやめようか」くらいのスタンスです。生徒も平気で「今日集中力ないんで帰ります」って言いに来ます。全然卓球をやらせている感じはない。

――その変化は、基礎がある子が入ってくるようになったことに加えて、時代の変化もあるんでしょうか?
今枝監督:時代の変化はめちゃくちゃ大きいと思います。無理に言っても「はい」って言うだけで全然聞いてない。

監督をやって感じたのは、自分が生徒以上に必死なうちは勝てないということ。僕らより本人たちが必死になってやる状況を作らなきゃいけない。気づいたら彼らの方が一生懸命やってるという状況に導かなきゃいけないという風に答えが段々なりました。


写真:今枝一郎監督(愛工大名電高)/撮影:槌谷昭人

――なるほど、生徒たちが自ら強くなりたいと思うからこそ強くなるんですね。
今枝監督:自分がいないと何もできないというチームではなく、自分がいなくてもさらに成績が伸びるような方法がないだろうかと考えてきました。卒業後もずっと一緒にいられるわけじゃないので。

だからレギュラーも僕が決めてなくて生徒たちの投票制です。僕がいないときに適当にやってる子や集中力がない子は投票されずにレギュラーになれません。

――それは意外な決め方でした。
今枝監督:選手同士が見張ってて、緊張感持てているんじゃないかなと思います。

いつも言ってるのは「僕のチームじゃなくて、おまえたちのチームだ」ということ。「悪いけど俺には来年もインターハイがある。だけどあなたたちにはない。だから今を大事にしなあかん」というスタイルでやるようにはしてます。

――今枝監督の監督としてのモチベーションはどこにあるんでしょうか?
今枝監督:お世話になった名古屋電気学園にとにかく恩返しがしたいのが一番最初の思いです。また、自分が生徒と接していて、選手が終わってもドキドキハラハラさせてもらって、一緒に喜び分かち合えて、こんなにありがたいことはないです。

こんな私を信頼して、名電を信頼して、子どもを預けていただいた親御さんの期待に応えたいという思いもあります。行かなきゃよかったなんていう風に終わってほしくない。

そういう一つ一つが完全にモチベーションになってますね。


写真:今枝一郎監督(愛工大名電高校)/撮影:槌谷昭人

物腰柔らかで冗談も交えながらインタビューに答えてくれた今枝監督。選手からの信頼感も厚い。

その今枝監督が絶賛するのが、主将を務めた篠塚大登(愛工大名電高3年)だ。

続いては篠塚のインタビューをお届けする。

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