「できないを叱らない」 農業用倉庫から3年で全国出場 富丘卓球クラブが目指す"農スポ連携"とは | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)
「できないを叱らない」 農業用倉庫から3年で全国出場 富丘卓球クラブが目指す“農スポ連携”とは

写真:富丘卓球クラブ集合写真/提供:富丘卓球クラブ

卓球×インタビュー 「できないを叱らない」 農業用倉庫から3年で全国出場 富丘卓球クラブが目指す“農スポ連携”とは

2025.03.04

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この記事を書いた人
Rallys編集長。学生卓球を愛し、主にYouTubeでの企画を担当。京都大学卓球部OB。戦型:右シェーク裏裏

2022年4月に北海道千歳市で発足した富丘卓球クラブは、“農業用倉庫”を改装した卓球場が拠点という全国でも珍しい地域密着型のジュニアクラブチームだ。

幼児から高校生まで約40名が一緒に練習するクラブの代表は海野義幸(うんの よしゆき)さん。北の大地でキノコ関連の農業法人を経営する傍ら、チーム発足3年目でクラブを全国大会に導いた。

今回は、富丘卓球クラブ誕生の経緯や、海野さんが作り上げた「選手も指導者も成長できるチームづくりの秘訣」に加え、北海道の立地を活かしたクラブの将来計画についてもお話を伺った。

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はじまりは娘のため 農業用倉庫を改装した父の物語

写真:富丘卓球クラブの練習場の様子/提供:富丘卓球クラブ
写真:富丘卓球クラブの練習場の様子/提供:富丘卓球クラブ

山下
チーム発足の経緯をお伺いさせてください。
海野義幸さん
長女が小学生の頃から卓球をしていたのですが、コロナ禍で卓球ができる場所がなくなってしまったんです。そこで、私が経営している会社の農業用倉庫の2階部分を改装して卓球台を置いたのが始まりでした。

その後、娘が入学した中学に女子卓球部がなく、一緒に卓球を始めたいという子が他にもいたので、2022年4月に富丘卓球クラブを設立しました。

写真:富丘卓球クラブの練習場の様子/提供:富丘卓球クラブ
写真:富丘卓球クラブの農業用倉庫での練習の様子/提供:富丘卓球クラブ

山下
もうすぐクラブ発足から3年ですね。日頃どのように活動していますか。
海野義幸さん
元々6名の子どもたちと活動をスタートしたのですが、2年目には約20名、3年目に入った今は約40名の大所帯となってきました。

写真:富丘卓球クラブ集合写真/提供:富丘卓球クラブ
写真:富丘卓球クラブ集合写真/提供:富丘卓球クラブ

海野義幸さん
ほとんどが生徒や保護者からのご紹介や口コミで増えていますので、そこはチームを立ち上げて本当に良かったと思えたところの一つですね。

卓球台も当初2台だったのですが、高校で使わなくなった台を譲っていただくなどして、今は6台にまで増えました。地域のご協力のおかげで毎日楽しく練習が出来ています。

山下
どのように練習を行っているのですか?
海野義幸さん
生徒たちは学校が終わった夕方4時から8時の間で、毎日好きな時間に来て練習しています。

平日は近くの中学校のすぐ隣に公共の体育館があるので、そちらで練習することが多く、土日祝日は倉庫の卓球場で練習できます。

写真:公共の体育館での練習の様子/提供:富丘卓球クラブ
写真:公共の体育館での練習の様子/提供:富丘卓球クラブ

山下
希望すれば毎日練習ができるというのは恵まれた環境ですね。
海野義幸さん
はい。卓球に向き合うスタンスが選手それぞれですので、強制ではなく、やりたい時にやりたいだけ。それぞれのペースに合わせて練習できることを大切にしています。

毎日練習してトップを目指したい選手、勉強や習い事の合間に来る選手、コツコツやって部活動で頑張りたい選手など、いろいろな目的の子たちがいますので、指導も選手のスタンスに合わせて行うようにしています。

写真:富丘卓球クラブの練習の様子/提供:富丘卓球クラブ
写真:富丘卓球クラブの練習の様子/提供:富丘卓球クラブ

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選手だけでなく、指導者も個人目標を持つ

山下
チームの指導については、どのような特徴がありますか?
海野義幸さん
「上の子が下の子に指導することが自分のためになるんだよ」という話をよくしているので、中学生が小学生の面倒を見るなど、生徒同士でもよく教え合っている姿が見られます。

また、現在指導者は私を含めて4名が登録していて、コーチそれぞれにやりたいことや目標があるのが特徴ですね。

指導者にもそれぞれに「どういうことがやりたいの?」とヒアリングして、指導者自身がやりたいことを応援するのもチームの方針です。

写真:指導の様子/提供:富丘卓球クラブ
写真:指導の様子/提供:富丘卓球クラブ

山下
選手だけでなく指導者もそれぞれが目標を持つというのはユニークですね。具体的にはどんな目標を持たれているのでしょうか?
海野義幸さん
例えば「ホカバで全国大会に出場する選手を育てたい」という目標があるコーチには小学生を指導してもらう。

「卓球の楽しみを伝えたい」というコーチには、初心者の指導をしてもらうという感じです。

写真:指導の様子/提供:富丘卓球クラブ
写真:指導の様子/提供:富丘卓球クラブ

海野義幸さん
指導者は皆本業と並行してボランティアで指導を行っているので、だからこそ自身のやりたいことをやってもらいたいと思っています。

4名のコーチが活動できる時間はそれぞれ異なりますが、コーチ間で定期的な情報共有を行い、指導の質を高める努力をしています。うちのコーチは皆卓球が大好きな指導者たちばかりですよ。

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設立3年で全国出場の秘訣は「できないを叱らないこと」

写真:北海道予選で優勝した千歳市立富丘中学校/提供:富丘卓球クラブ
写真:北海道予選で3位となった千歳市立富丘中学校/提供:富丘卓球クラブ

山下
チームを立ち上げてから特に印象に残っている出来事を教えて下さい。
海野義幸さん
やはり昨年出場した全中(全国中学校卓球大会)です。中学校から卓球を始めたメンバーで中体連の団体戦で全国大会に出場できたことは自信になりましたし、試合では日本一の星槎中学校(神奈川)とも対戦することができ、素晴らしい経験を積ませていただきました。

写真:全中での千歳市立富丘中学校/提供:富丘卓球クラブ
写真:全中での千歳市立富丘中学校/提供:富丘卓球クラブ

海野義幸さん
実は全中に出場してラリーズに取り上げてもらうことも子供たちと目標にしていたので、叶って嬉しかったです(笑)

日々の頑張りが1つの形になったと感じて、今までやってきてよかったなと思えた瞬間でしたね。

山下
チーム設立から3年という短期間で結果を残せた要因や日頃から意識している点を教えてください。
海野義幸さん
選手たちに卓球を楽しんでもらう。これに尽きます。

もちろん練習態度や礼儀など人として大事なことに関しては厳しく注意することもあります。一方で、卓球の技術や勝ち負けについて選手を怒ることは絶対にしません。「技術的な部分で出来ないことがあるのは、我々指導者の力不足だ」と指導者間でよく話しています。

写真:イベントの様子/提供:富丘卓球クラブ
写真:イベントの様子/提供:富丘卓球クラブ

海野義幸さん
コーチにも、卓球の技術指導だけでなく、アンガーマネジメントなど、指導に必要なことは常にアップデートしていこうという意識づけをしています。

最近では多賀少年野球クラブ(滋賀県)さんの事例をよく勉強させて頂いています。指導者の怒声を禁止したり、監督から選手へのサインを禁止したりして自主性を育むことで、部員数も増えて日本一にも何回もなられているんですよね。楽しく強くする野球をモットーとしていて、一つのモデルケースにさせて頂いています。

写真:指導の様子/提供:富丘卓球クラブ
写真:指導の様子/提供:富丘卓球クラブ

山下
他にもクラブチーム運営で特に心掛けていることはありますか?
海野義幸さん
とにかく保護者の負担を軽くすることです。具体的には保護者会や保護者の当番制などを作らないことにしました。

お子さんがチームに所属する際に、極力負担にならない仕組みを整えています。

もちろん入ったら「子供の応援がしたい」ということで協力やサポートしてくださる保護者の方が多くいらっしゃいますが、保護者の負担が少ないことで子供が卓球を始めやすく、続けやすくなるのかなと。

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地域に応援されるチームに

写真:指導の様子/提供:富丘卓球クラブ
写真:指導の様子/提供:富丘卓球クラブ

山下
改めて本日お話を伺っていると海野さんから卓球への強い思いが伝わってきます。その原点はどこにあるのでしょうか?
海野義幸さん
私は中学で卓球を始めました。卓球に出会ってスポーツが苦手な自分でも勝つ経験ができました。全然強い選手ではなかったので、できない子、勝てない子の気持ちもわかります。

できるのが当たり前なんて全く思っていませんが、子供でも大人に勝てるスポーツですし、努力が報われるスポーツであることもよく分かっています。

卓球がもっと好きになり、好きなことをやって、気がついたらチームを作っていました(笑)。

写真:アドバイスを送る海野さん/提供:富丘卓球クラブ
写真:アドバイスを送る海野さん/提供:富丘卓球クラブ

山下
最後に今後のクラブの展望についてもお聞かせください。
海野義幸さん
実はチームTシャツを作るときに、保護者の皆さんにうちのチームカラーを聞いたら、オレンジ色とのことでした。

明るく仲良い太陽のような雰囲気がオレンジなんだと。

今後ももっと仲間を増やし一緒の体育館で仲良く楽しく練習していきたいです。そして指導者や子どもたちがそれぞれの目標を達成できるような環境を整え続けたいと思います。

写真:農業
写真:農業を体験する富丘卓球クラブ/提供:富丘卓球クラブ

海野義幸さん
それから、私たちは地域の方々の様々な支援を受けながら活動していますので、より地域の方々に応援されるチームを目指していきたいと考えています。

例えば、地域のイベントに参加したり、地元企業と協力して活動の幅を広げることも検討しています。

また、少し先の話になるかもしれませんが、「農スポ」といって農業とスポーツの連携を目指すことを構想しています。普段は人手不足の農業の働き手として貢献しながら、指導者として卓球クラブに携われるようなモデルが作れないか、考えているところです。

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