卓球で得たものを社会人生活に活かすたったひとつの方法 日学連新会長就任・菱洋エレクトロ社長 中村守孝氏インタビュー【後編】 | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

写真:中村守孝氏(菱洋エレクトロ代表取締役社長)/撮影:伊藤圭

卓球×インタビュー 卓球で得たものを社会人生活に活かすたったひとつの方法 日学連新会長就任・菱洋エレクトロ社長 中村守孝氏インタビュー【後編】

2024.03.16

この記事を書いた人
1979年生まれ。2020年からRallys/2024年7月から執行役員メディア事業本部長
2023年-金沢ポート取締役兼任/軽い小咄から深堀りインタビューまで、劇場体験のようなコンテンツを。
戦型:右シェーク裏裏

かつて三越と伊勢丹の経営統合を牽引した男が、いま、半導体商社の世界の風雲児として、菱洋エレクトロとリョーサンの経営統合に臨んでいる。

菱洋エレクトロ代表取締役社長・中村守孝は、卓球部出身である。めずらしい。

その中村守孝社長が、日本学生卓球連盟の会長に就任したというニュースが飛び込んできた。

日本には大学で卓球部に所属する学生が約7000人もいる。「ぜひ卓球をしている若い人にアドバイスを」と話を振ると、返ってきたのは意外な言葉だった。

>>卓球・日学連新会長はプロ経営者 菱洋エレクトロ社長 中村守孝氏インタビュー【前編】


写真:菱洋エレクトロはTリーグのオフィシャルスポンサーを務めている/撮影:ラリーズ編集部

中村守孝(なかむら もりたか)氏・略歴

1959年生まれ、東京都出身。慶応大学卒業後、伊勢丹(現三越伊勢丹)に入社。2016年常務執行役員。2017年菱洋エレクトロに特別顧問として入社、2018年より代表取締役社長。2024年4月リョーサン菱洋ホールディングス代表取締役社長就任予定。

卓球で得たものを社会に活かせるのか

――経営者として、卓球部の学生や若い社会人に向けても、ぜひアドバイスをください。
中村守孝社長:卓球界の諸先輩方には怒られてしまうかもしれないけれど卓球で得た何かを社会に活かしてくださいって言っても、単にそのことだけではあまり活かせないような気がするんですよ。

卓球部だったら培えるけど、同好会だったら培えないことってあるんですかね。ラグビー部だったらこれが培えて、卓球部だったらこれが培えます、そんな単純なことですかね、社会に出るって。


写真:中村守孝氏(菱洋エレクトロ代表取締役社長)/撮影:伊藤圭

「社会は好きとは限らないことや理不尽さだらけ」

――ひとつのことをずっと続けられる持続力、とかでしょうか。
中村守孝社長:だって、好きでやってきたんでしょう、卓球を。好きなことだからこそ理不尽なことにも耐えられたかもしれない、という意識が仮にあるなら、好きなことばかりとは限らず、かつ理不尽さだらけですよ、社会は。

運動部におけるシゴキに耐えられたから社会のいろんなことに耐えられるなんていうのは、せいぜい平社員の段階です。そんな経験しかない人間は、管理職になった瞬間に人を潰してしまいます。そして、最後は自分が潰れます。

――なるほど。
中村守孝社長:敢えて言うならば、卓球にスポーツとして向き合う中で、チームの一員としての他のメンバーへの貢献、リーダーシップ、協働関係、戦術、クラブのあり方全部含めて、常に自分の目で見て、自分の意見を持って物事を考える癖をつけることですね。
――自分の頭で考えること。
中村守孝社長:自分の頭で考えて自分で動く、ということを卓球の中から身につけていただければいいんじゃないでしょうか。

他人の頭で考えたことを倒れるまでやらされ、というような、かつての一部の運動部にあった意味不明な理不尽さは、人間をおかしくさせてしまうと思いますね。最近の日本のチームスポーツを海外出身の監督やコーチがオリンピックに導く様子を見ていてもそう思います。


写真:菱洋エレクトロはTリーグのオフィシャルスポンサーを務める/提供:T.LEAGUE/アフロスポーツ

「自分の頭で考えて自分で動く」

――中村社長の中に、自分で考えないこと、他人の言いなりで生きることへの怒りがありますね。
中村守孝社長:多くの人が、雨の日も風の日も会社に来て、人間関係などのストレスがかかる環境で、人生のかなりの時間を過ごすわけですよね。

だからこそ、このことだけは自分は胸を張ってやれたとか、あのとき自分は自らの強い意志に基づいて勇気を持って立ち向かったんだとか、そういう思い出がない30年、40年間って、いったい何のための時間だろうと私は思うんですよ。

今、私はサラリーマン生活が終わっても多分あまり悔いがないんですよね、結構たくさん、凡人なりに乗り越えた、どちらかと言えば多くの苦しく悔しい思い出がありますから。

菱洋エレクトロとリョーサンの経営統合

――菱洋エレクトロとリョーサンとの経営統合も、大きなチャレンジの一つですね。
中村守孝社長:それは案外単純な話なんです。

まず、弊社は単独1社ではここまでの成長が限界です。それは社長になった6年前に宣言していました。やや閉塞した業界、二十社も上場していろんなことを分け合っている形の中で、非常に日本的な古い世界になっている。

いま、世界で旬な商材である半導体やICTを扱う中で、もっと商社の存在意義を高めていくためには一定の質・量両方の拡大が必要だということで、経営統合の機会をうかがっていたわけです。

――保守的な業界だと、その決断は大変だったんじゃないですか。
中村守孝社長:私がまったく外の異業種から来て勝手にものを言える門外漢だったということ、経営分野に長く身を置いてきたということ、何よりも多くの修羅場を経験してきたということが大きかったと思うんです。

経営者にとっては、従業員たちが先々も安心して夢を持って働ける場を残していくというのがひとつの責務じゃないですか。

自分が延命するだけなら、私は楽ですよ。ただ社内に居座って、それで数年報酬をもらうことはできるでしょう。でも、それはあまりにも無責任かつ虚しいことです。なぜならそこには“他利”がないからです。仕事はまず自分以外の誰かのためにやるものです。


写真:中村守孝氏(菱洋エレクトロ代表取締役社長)/撮影:伊藤圭

「愛社精神はあまりない」

中村守孝社長:一方今でも私は弊社に対して、情緒的、感傷的な愛社精神はあまりないです。前職は百貨店ですし、もともとマスコミ志望の人間なので。口はばったいですが、会社や業界の区別なく通用するジェネラリストでいたいと思っています。

従業員はとても大事ですよ。でも会社や業界の風土は私の本来の感性とはあまり合わない。合わないんだけれど、一方で、大きな感謝がありました。

――感謝、ですか。
中村守孝社長:愛着のあった前職を離れた私を、菱洋エレクトロのみんなが受け入れて、わけのわからない他所者をリーダーとしてここまで一緒にやってきてくれた、その感謝は大いにあるわけです。

だったら恩返しとして、みんなが安心して働き、成長できる環境づくりをしておきたいなと。


写真:菱洋エレクトロはTリーグのオフィシャルスポンサーを務めている/提供:T.LEAGUE/アフロスポーツ/アフロ

「常に孤独」

――それだけ大きな改革を推進していくと、寂しさや孤独はないんですか。
中村守孝社長:常に孤独ですよね、正直言えば。本音で接してくれる人ばかりでもありません。

社長は強いんだ、絶対大丈夫なんだ、と周りは思ってるから、解消のしようがないです。(笑)この6年よく大病もせずにやりましたよ、振り返ると。


写真:中村守孝氏(菱洋エレクトロ代表取締役社長)/撮影:伊藤圭

――そうなんですね。
中村守孝社長:リーダーをやっていると、それはもうほとんどストレスのかかることだらけです。

でもそのプレッシャーに打ち勝つことがやり甲斐なんだと思うわけです。そのうちプレッシャーそのものが快感になったり(笑)。

――はい(笑)。
中村守孝社長:人はそれぞれたった1回の人生じゃないですか。

私、自分の人生あんまり後悔したくないので。

だから楽しく、存分に力を出して、できるだけやって、それで物事がうまく行かなかったら、いつでも私は退く覚悟はできています。

会社は、自分で借金をすることもなく、ちゃんと給料をもらいながら、やりたいことをやって人生を充実させることができる場所であると考えると、仕事は本来とても楽しいものではないでしょうか。


写真:中村守孝氏(菱洋エレクトロ代表取締役社長))/撮影:伊藤圭

取材を終えて

「あとは好きなようにまとめてください、末永くよろしく」

忙しいプロ経営者は、清々しく風のように去っていった。時計を見ると、あっという間に2時間が過ぎている。

かつて、伊勢丹と三越という、水と油と言われた異文化同士の企業統合を牽引した男。いま、半導体商社の業界で、菱洋エレクトロとリョーサンの統合を発表し、台風の目となっている。

このプロ経営者の手腕にかかれば、例えば卓球業界の懸案のひとつ、日本卓球リーグとTリーグが統合していく未来もあり得るのではないか、そんなことも夢想した。


写真:中村守孝氏(菱洋エレクトロ代表取締役社長)/撮影:伊藤圭

(終わり)