戦型:右シェーク裏粒
強くなるための手段として、環境を変えることは重要だ。特に、近年の卓球界では、戸上隼輔(明治大)や宇田幸矢(明治大)など、ヨーロッパのクラブへの移籍をキッカケに飛躍を遂げる例が多くなっている。
写真:戸上隼輔(明治大)/撮影:ラリーズ編集部
だが、「ヨーロッパでプロになれるのは元々強かった人だけ」「強くない人にはそもそもチャンスがないのではないか?」と考える人もいるかもしれない。
極端な例を出せば、一般入試で国公立大学に入学した選手から「全国大会での実績はゼロなんですけど、ヨーロッパでプロになれますか?」と質問をされて、「Yes」と答えられる人はほとんどいないだろう。
かくいう私も、この問いへの答えは「No」だった。
一般入試で国公立大学に合格し、勉強のために留学したチェコでプロ選手になった砂川さんの話を聞く前までは。
【砂川朝博(すながわ ともひろ)】高知工科大学卓球部所属。沖縄の宮古高校から、一般入試で高知工科大学に入学。国際経済を学ぶために留学したチェコで、「TJ Sokol PP Hradec Králové」からチェコリーグに出場した。(提供:砂川朝博)
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ネットで検索したクラブに自らアプローチ
今はそれを利用して、チェコで留学生活を過ごしています。
そのときに僕も「確かに、せっかくなら向こうでも卓球したいな」と思ったので、滞在先の町の名前と「table tennnis」で検索して、ヒットしたチームに自分で連絡しました。
写真:砂川さんが滞在しているチェコの「フラデツ・クラロべ」の街並み/提供:砂川朝博
とはいえ、選手としてバリバリやるつもりはまったくなくて、最初は「勉強の合間に卓球の練習ができたらいいな」ぐらいの気持ちだったんです。
けど、いざ最初に練習に行ったときに、一番はじめに「競技レベルか?」って聞かれてたんですよ。
そのときはなんとなく「はい」って答えたんですけど、その練習にはクラブのオーナーさんも来られていて、僕のプレーの動画も撮っていたんですよね。
僕からすると「え?」って感じだったんですけど、今思えばあの練習が入団テストだったんでしょうね。
1試合が最大18マッチ!?
チェコリーグの仕組みを簡単に説明すると、トップリーグは「Czech Extraliga(チェコエキストラリーガ)」と呼ばれていて、これが1部リーグに相当します。
その下に2部相当の「1st League(ファーストリーグ)」、3部相当の「2nd League(セカンドリーグ)」、4部相当の「3rd League(サードリーグ)」があるんですけど、僕はこの中の「セカンドリーグ」でプレーしています。
僕が所属しているチームも1部~4部に1つずつチーム(A~Dチーム)を持っているんですけど、僕は基本的には3部所属のCチームでプレーしています。
さすがに多すぎませんか?(笑)
形式としては、最初の2マッチはダブルスで、残りの16マッチがシングルスです。基本的には1試合4人で戦うので、ダブルスを含めると最大で1人5試合出場可能です。
1000人以上が詰めかける「プレーオフ」
しかも、プレーオフ自体はトーナメント方式なんですけど一発勝負ではなく、プロ野球のクライマックスシリーズみたいに先に3勝したチームが勝ち上がれる仕組みなんです。
ちなみに、決勝戦も3本先取ですか?
ちょうど昨日プレーオフの決勝があって、チームのオーナーに連れて行ってもらったんですけど、お客さんが1000人以上入っていて、ものすごく盛り上がってましたね。
写真:チェコリーグプレーオフファイナルの様子/提供:砂川朝博
チェコの人口は日本の10分の1ぐらいなので、日本の人口に換算したら1万人ぐらいですかね。
しかも、僕としてはホットドッグとかフランクフルトみたいな軽食をイメージしていたんですけど、ビーフシチューや本格的なチェコ料理が出てきて、びっくりしました。まさに「VIP」って感じでしたね(笑)
写真:VIP席で実際に提供された料理/提供:砂川朝博
1部リーグにはあのレジェンド選手も
写真:2021年のパンアメリカン選手権男子団体で銀メダルを獲得したフェリペ・オリバース(チリ)/提供:ETTU
写真:2002年のドイツオープンで元世界ランク1位の王皓(ワンハオ)に勝利したマレック・クラセック(チェコ)/提供:チェコ卓球協会
写真:砂川さんとコルベル/提供:砂川朝博
チェコリーグと言えば、少し前だと森薗(政崇)さんも参戦していましたよね?
写真:森薗政崇(BOBSON)/提供:ittfworld
あと、アジア人だと台湾の江宏傑(ジャンホンジェ)も参戦していたみたいですね。
江宏傑(ジャンホンジェ)は2016年にエキストラリーガのTTCオストラヴァに所属して、24勝5敗の成績を残した(写真はTリーグ・琉球アスティーダ所属時)/提供:YUTAKA・アフロスポーツ
「練習なしでダブルス」は“ヨーロッパあるある”
あと、これはたぶんヨーロッパあるあるだと思うんですけど、練習なしでいきなり「お前、ダブルス行ってこい」って言われて(笑)
けど、そのときは調子が良くてシングルスで3勝したんです。
写真:砂川さんは所属チーム初のアジア人選手だったそうで、後日試合の内容が記事化された/提供:砂川朝博
強くなくてもチャンスはある
なので、高知工科大学にも一般入試で入りましたし、今回も経済を学ぶためにチェコに来ました。卓球をやめることはないですけど、選手としてバリバリ続けようとは今は思ってないですね。
写真:高知工科大学卓球部で試合に出たときの砂川さん(写真奥)/提供:砂川朝博
日本での就職も考えていますが、その場合でも海外出張がある会社がいいですね。卓球はヨーロッパならどこでもできるということが、今回わかったので。
あと、僕みたいな一般生で勉強にも力を入れながら卓球をやっている選手や、めちゃくちゃやる気はあるけど実力がそこまで高くない選手って多いと思うんですけど、そういう方々には「卓球が強くなくても、海外でプレーするチャンスはいくらでもあるよ」って、伝えたいです。
仮に将来卓球選手にならなくても、ヨーロッパで選手としてプレーした経験は、就職活動やその先の社会人生活で間違いなくプラスになると思うので。
インタビューを終えて
約1時間ほどのインタビューは、本当にあっという間に終了した。
異国の地で選手としてプレーすることの楽しさや大変さは経験した者にしかわからないが、この記事を通して、ほんの少しでもその感覚を味わってもらえれば、幸いだ。
そしてなにより、「今は強くなくても、やる気があって行動を起こしさえすれば海外でプレーするチャンスはある」という事実は、これからさらに成長したい学生選手や、もっと長く現役でプレーを続けたい社会人選手など、数多くの卓球人の背中を押すものとなってくれるだろう。
最後に、後日砂川さんから送られてきたメッセージで、この記事を締めさせていただく。
この記事が公開されることで、僕のような勉強も頑張りたい国公立大生、地元の宮古島のような離島や僻地で頑張る選手たちのモチベーションになってくれると嬉しいです。
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