「プライドを捨てるのが大事」"広報兼選手"井林茉里奈が語る元アスリートの仕事論 | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

写真:井林茉里奈(トップおとめピンポンズ名古屋)/撮影:田口沙織

卓球×インタビュー 「プライドを捨てるのが大事」“広報兼選手”井林茉里奈が語る元アスリートの仕事論

2021.02.22

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Rallys副編集長。学生卓球を愛し、主にYouTubeでの企画を担当。京都大学卓球部OB。戦型:右シェーク裏裏

引退から約1年半後、井林茉里奈(いばやしまりな)は異例の現役復帰を遂げた。元々トップおとめピンポンズ名古屋の広報として働いてたため、選手と広報を兼任するシーズンを送った。さらに2020年6月には結婚もして、家庭も持っている。

選手100%、広報100%、家庭50%ぐらいでやってます(笑)」。

広報専任時代と比べると250%でフル稼働する井林に、兼任選手の働き方や広報としての心構えを尋ねた。


【井林茉里奈(いばやしまりな)】1992年3月24日生まれ。長野県出身。右シェーク攻撃型。青森山田高、淑徳大学と進み、大学時代には全日本選手権シングルス3位に輝く。世界卓球パリ大会日本代表。実業団に進み、2019年に引退するも2020年にTリーグ・トップおとめピンポンズ名古屋で現役復帰を果たした。チームでは広報も兼任する。(撮影:田口沙織)

>>インタビュー前編 井林茉里奈、異例の“二刀流”現役復帰の真相 「誰かいないか」たどり着いた答えは“自分”

Tリーグチーム、広報の働き方


写真:井林茉里奈(トップおとめピンポンズ名古屋)/撮影:田口沙織

井林は、選手としてだけではなく、広報としてもトップ名古屋を支えている。今回の取材も“広報”井林宛にメールで依頼し実現したものだ。

「今のトップ名古屋の事務局の仕事は、チームのファンを増やすことだったり、試合を多くの方に見に来ていただくことがすごく大事。どうしたらチームが良くなるかを考えて、施策を打っています」。


写真:井林茉里奈(トップおとめピンポンズ名古屋)/撮影:田口沙織

地域と連携した施策やメディア対応、SNSでのキャンペーン企画など広報業務は多岐にわたる。地域のスポーツセンターでの講習会や近隣小中学校での卓球教室も、井林から名古屋市へ打診し実施にこぎつけた。他にも「一緒に愛知県を盛り上げたい」という気持ちから、Jリーグ・名古屋グランパスのガールズフェスタへ参加したこともある。

一番大事なことは「プライドを捨てる」


写真:井林茉里奈(トップおとめピンポンズ名古屋)/撮影:田口沙織

1人のアスリートであるとともに1人の社会人でもある井林を支えているのは、十六銀行で選手を引退してからの“半年間”だ。

実業団の十六銀行で選手を一度引退した井林は、2019年4月から10月の半年間、一般社員として銀行で勤務していた。井林が所属したのは、営業統括本部お客さまサービス。新入社員や中途社員へのマナー講師など、一般行員の見本とならなければいけない部署だ。


写真:井林茉里奈(トップおとめピンポンズ名古屋)/撮影:田口沙織

「他の行員の見本となる部署なので、上司も見習うところばかりで、こういう人間になりたいなと働きながら思いました。周りにも気を遣えたり、一つ一つの仕事が丁寧だったり。見本になる人がいっぱいいたので、ただただ緊張しました。食事の食べ方も、他の行員さんの見本になるようにしないといけないので、お昼ご飯の味は一切しなかったです(笑)」。


写真:井林茉里奈(トップおとめピンポンズ名古屋)/撮影:田口沙織

実業団の卓球選手から、他の行員の見本となる部署へ。初めて卓球界の外に出て味わったこの厳しい経験は、井林にとっては新鮮でもあった。

「本当にキツかった。でもそこで直面しました。卓球やってたと言っても、『何?卓球選手だったの?へーそうなんだ』みたいな。ショックでしたけどプライド捨てなきゃやっていけないなって」。

そして、これこそが井林自身の望んだ環境でもあった。


写真:井林茉里奈(トップおとめピンポンズ名古屋)/撮影:田口沙織

「半年間があったからこそ、今の自分がいる」

卓球しかやってこなかった。だからこそ、辞めた後は、自分が何も知らない世界に飛び込みたかった。


写真:井林茉里奈(トップおとめピンポンズ名古屋)/撮影:田口沙織

「最初はかなりキツかったです。でも、自分が選んだ道。覚えることがたくさんで、少しでも先輩方に追い付かないとという気持ちが大きくて、プライドも何もなかったです」。

世界選手権代表、全日本社会人優勝など卓球界で積み重ねた誇りと実績は、銀行業務では全く必要とされなかった。この経験が今の広報兼選手という立場にも活きている。


写真:井林茉里奈(トップおとめピンポンズ名古屋)/撮影:田口沙織

「十六銀行での半年間があるから、裏方として選手から要望があったときサッと動ける。一回プライドを置いてきたので。選手に、普通の仕事をやるときに一番大事なことはと聞かれたら、“プライドを捨てるのが大事だ”と答えますね。半年間があったからこそ、今の自分がいる」。

卓球界の新しい選択肢へ


写真:井林茉里奈(トップおとめピンポンズ名古屋)/撮影:田口沙織

広報としても選手としても井林は、トップ名古屋のために走り回る。業務、練習を終えて帰宅すると22時を過ぎていることもざらにある。家事をこなすと就寝が24時を越える日も珍しくはない。それでも井林は「現役復帰してよかった」と語る。

現役復帰して、こういう道もあるんだと思ってくれたら、もっと選択肢が広がるかなと思う。話題性という面でも良かったかな」。自らの復帰を「話題性」と広報らしい捉え方で表現した。


写真:井林茉里奈(トップおとめピンポンズ名古屋)/撮影:田口沙織

来季以降は、と尋ねると、ひときわ楽しそうに笑った。

「年齢も年齢なので出産とかも考えると、現役は今季までかな(笑)。でも、例えば出産して落ち着いて、また復帰もあるかもしれないですよ(笑)」

プライドという荷を下ろして、社会と卓球の交点に飛び込んでみれば、意外と元選手は自由だったりする。


写真:井林茉里奈(トップおとめピンポンズ名古屋)/撮影:田口沙織

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写真:鈴木李茄/撮影:田口沙織

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