卓球・水谷隼、30代突入で極める"オトナの戦い方" 3つの敵を倒せ | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)
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2019.07.31

卓球・水谷隼、30代突入で極める“オトナの戦い方” 3つの敵を倒せ

写真:水谷隼(木下グループ)/撮影:ラリーズ編集部

日本の男子卓球界を牽引し続ける水谷隼(木下グループ)が、今年6月で30歳の誕生日を迎えた。

1月の全日本選手権シングルスで前人未到のV10を達成。3月にはTリーグでチームを初代王者に導き、自身もMVPを受賞するなど、そのプレーも円熟味を増す。

男女とも10代の若手選手の台頭が著しい卓球界において、30代に突入した水谷はどう戦うのか。東京五輪の代表枠を懸けて、ワールドツアーを転戦する水谷が過密日程の合間を縫ってインタビューに応じてくれた。

卓球アスリートにとっての30代


写真:2005年世界卓球、男子シングルス出場時の水谷隼/提供:アフロスポーツ

水谷が15歳で史上最年少(当時)の世界選手権日本代表に選出されてから約15年。

30歳を迎えた今も尚、世界のトップランカーに名を連ねることができる秘訣について水谷は「とにかく(年齢を)意識しないようにしています。20代後半になってきた時から他の同年代の選手もパフォーマンスが低下してきたと聞くし、年齢を重ねると筋力、持久力も低下してしまう。そこで意識してしまうと、『歳だからしょうがない』と自分に甘えが出てしまう。だから今後も意識しないでいきたいですね」とメンタリティの大切さを説く。

一方で「意識しない」と言いつつも、グローバルな視点で卓球アスリートの傾向を冷静に分析し、その対策に余念は無い。

「世界のトップ選手たちのプレースタイルも日々進化してきますし、今の早い打点、スピーディな卓球、なおかつボールが(セルロイドからプラスチックに)変わってラリーが続きやすくなってきたので、スタミナも重要。なので(テクニック重視だった)昔よりも“歳を取ると強くなる”というのは難しくなっている。

ただ、卓球選手の選手寿命はプレースタイルによりますよね。フォアを主体としてフットワークで勝負するアジア人の寿命は短いし、30より手前で引退する人が多い。どうしてもフットワークの限界はありますから。逆にヨーロッパの選手は(フォアとバックの)両ハンド。だから長くやれる」とバックハンド”の活用が30代プレーヤーにとって活躍の鍵となることを明かす。

>>【新連載】なぜ中国は卓球が強いのか?<Vol1.水谷隼>

そんな水谷が現在、強化を続けるのがフォアハンドとバックハンドの連携だ。「自分はフォア主体で体を使っていくスタイル。最近ではフォア、バックの切り返しを特に意識してますね。フォアで打つのかバックでいくのかの判断。そこを良く邱監督とも話します。どうしてもフォアで打ちたい自分のクセがあって、でもやっぱり今の速い卓球ではフォアで回り込む時間が無いので、フォアで打とうとしてバックを使ってしまってバックで強打できないことが多い。フォアとバックのバランスを良くしたり、バックハンドで強く打てるようにしなきゃいけない」。

これまでの経験から課題を明確に把握し、的確に対応していく。「強いモノが生き残れるのではない。環境に適応できるモノが生き残ってきた」とダーウィンが唱えた「進化論」を地で行く水谷が喫緊の課題としていることがある。

それは昨年からワールド・ツアーに導入された新ルール「マルチボール」への対応だ。

>>卓球・水谷隼を直撃 「6キロダイエット宣言」の真意

逆転頻発の新ルール「マルチボール」への適応


写真:水谷隼(木下グループ)/撮影:ラリーズ編集部

「6月は香港オープンの張本、ジャパンオープンのリャンジンクン(中国)の試合もそうですけど、逆転負けをするゲームが多かったのでそこがかなり悔やまれますね。集中力というか、自分が100パーセント試合にのめり込めていない感覚がある」。

百戦錬磨の水谷が試合に集中できないとは驚きだ。

原因を尋ねると「やっぱりマルチボールの影響がすごく大きいですね。あっという間に点数が行ったり来たりする。自分も逆転することも多くなったんですが、逆転されることも増えたんですよね。2点3点が簡単に動いてしまうのがマルチボールの怖さ。練習試合のような感じでどんどんサーブを出して、相手もサーブ出してくる。自分が何をしようと考える時間もない。以前はここにサーブを出して、こう返ってきたらこうしようと違うパターンを3つぐらい考えていたところが、今は1パターンぐらいしか考えられないし、それを振り返る時間も無い。あっという間に点数が動いてしまって、気づいたら逆転されていることがある」。

>>【水谷隼#5】「東京五輪以降は起業、代表は退く」水谷、2020年以降の仰天プラン

マルチボールとは、文字通り複数のボールを使って試合を進行するルールで2018年から国内外の大会で導入がされた。ラリーが終わると審判から次のボールが手渡され、テンポよく試合が進んでいく。このルールが導入されるまでは、卓球の試合は1球のボールを使って進行され、ラリーが終わるとコートに転がったボールを選手自身が拾いにいっていた。

この“球拾いタイム”こそが選手にとっての“作戦タイム”となっており、次の1本をスタートするまでの間に戦術を整理できていたというのだ。

「(マルチボールが導入された今は)自分は目の前の1本に集中している。今までだったら7-10だったら次の1本をこうして8-10にして、その次どうするという戦術があった。最近は目の前の1本を取る事に集中していて、次のことは考えていない。取ってからどうしようと。今はそれだけ考える時間が無いということ」。

卓球競技はその発展を目指す過程で、運営効率化やエンタメ性向上のためルールがめまぐるしく変わっていく。その度に対応を迫られるトップアスリートの苦労が垣間見える。

>>卓球界のレジェンドが語る “2019年 新トーナメントが五輪代表争いに与える影響とは?”<宮崎義仁氏・特別インタビュー 前編>

視界とプレースタイルの関係


写真:水谷隼(木下グループ)/撮影:ラリーズ編集部

30代となって初めて迎えた今シーズンの目標については「昨シーズンはTリーグが開幕して本当に充実していて楽しかった。今年はワールドツアーがどうしても優先。来年にはオリンピック代表を確定させた状態にして、Tリーグのファイナルを迎えて連覇したい」と明確にゴールを見据える。

一方、理想とするプレースタイルについて尋ねると「目の影響が大きいですね。ラリーになった時はどうしても不利なんで、だからこそ最近は早く決めなきゃいけないという意識を強く持っています。改善できればもう少しラリー志向になるかもしれない」と返ってきた。実際、今、水谷の目の状況はどうなのだろうか。

「色々テストしていて良い方向に向かっている感覚があります。明るい場所や暗い場所を行き来すると、瞳孔がパッと反応する。僕の場合はそれが敏感なので、(瞳孔の動きをコントロールするために矯正用の)コンタクトをつけて寝て、起きたら外すという治療をしています。(3月の)カタールオープンではボールが消えることがあった。でも(会場がショーアップされて暗かった6月の)香港オープンでは見えにくかったけど、消えるということは無かった。もちろん会場が明るかったチャイナ(オープン)でも札幌(開催のジャパンオープン)でも問題なかった。照明の環境は大会によって結構違うんですよね。ワールドツアーは大体3回戦ぐらいからは暗くなって厳しい環境になることが多いので3回戦まで確実に勝ち上がることが大事」。

30代を迎えた水谷隼。想像を絶するプレッシャーの中「年齢」「ルール」「環境」という自身ではコントロールできない敵と戦う水谷は「言い訳は一切できない。最高の練習環境を用意してもらっているので。やるだけですね」とインタビューを締めくくった。

>>【水谷隼#2】「実は1年間、球がほとんど見えない」深刻な目の症状を告白

文:川嶋弘文(ラリーズ編集長)

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