実業団を辞めた町飛鳥(鹿児島県体育協会)は現在、Tリーグを主戦場とするプロ卓球選手としてプレーしている。
日本では、数年前までプロ卓球選手として活動できるのは、世界の第一線で活躍する一部のトップ選手に限られていた。日本代表として世界卓球や五輪で結果を残すためだけに戦い、30歳前後で競技生活を終える。そんな光景が当たり前だった。
だが、Tリーグの誕生により大きく様相が変わった。Tリーグの恩恵を受け、従来とは異なるプロ卓球選手が生まれようとしている。町もその1人だ。(取材:槌谷昭人/ラリーズ編集長)
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町の描く新たなプロ卓球選手像
町は今もナショナルチーム候補として名を連ねており、プロとしてもちろん上を目指している。だが、見据えるのはさらに先だ。
写真:岡山リベッツでプレーする町飛鳥/撮影:ラリーズ編集部
「一番の目標は、なるべく現役でプレーできる時間を長くすること。30代過ぎてから強くなる選手もいると思うので、何歳になっても向上心を持ってやっていきたい。今も、吉田海偉選手(東京アート)が40歳近くでプレーしている。そういう選手目指していて、できるところまで楽しみながらやっていきたい」。
写真:Tリーグではダブルスで安定した成績を残した/撮影:ラリーズ編集部
選手寿命が長いプレーヤーを目指すにあたり、Tリーグというプロ卓球選手の“職場”が日本卓球界に誕生したことは大きい。
今後Tリーグは、トップリーグのチーム数拡大や下部リーグの整備を進めることを目指している。「Tリーグ構想」では、世界トップレベルの選手を擁するチームから、趣味でプレーする地域のチームまでが、各カテゴリーに分かれて存在する未来を描いている。
写真:Tリーグ・岡山リベッツでプレーする町飛鳥/撮影:ラリーズ編集部
「これからの日本はもっと選手寿命を長くできると思いますし、自分の意識や考え方で実力を保ちながら続けられるかなと思います。今ではストレッチの時間が増えましたし、ケアするためのグッズには興味持つようになりました。シーズン中は試合が続くので中々練習も十分に出来ないんですけど、まずケガをしないことを一番大事にして、無理をしすぎないようにしています」。
町を変えたポーランドでの経験
さらに町は「僕の中ではポーランドに行ったのが大きい」と打ち明けた。
写真:ワールドツアーなどでもプレーする町飛鳥/提供:ittfworld
町の通った青森山田高では、遡れば坂本竜介氏(T.T彩たま監督)や水谷隼(木下グループ)の時代からドイツ・ブンデスリーガでの海外武者修行が当たり前になっていた。
同期の丹羽孝希(スヴェンソン)や吉田雅己(岡山リベッツ)、1個下の森薗政崇(BOBSON)らもドイツで腕を磨いていた。そんな中、町は「1人で行くのが恐いと実は逃げてきた」と高校時代、海外リーグへの挑戦を拒んでいたという。
だが、町は2019年シーズンのプロ転向を機に、Tリーグと掛け持ちでポーランドリーグへ参戦した。「プロになったらそういうところも行かないとなと思い切って1人で行きました」。
写真:ポーランドリーグでの町飛鳥/提供:ビドゴシチ
1人で訪れた異国の地、町にとってすべてが新鮮に映った。
「Tリーグで侯英超(ホウエイチョウ・39歳・木下マイスター東京)選手がプレーしてますが、ポーランドのプロリーグに行って、チームメイトが35歳ぐらいの選手で、そういう選手でも普通にやってました。プロリーグがあればモチベーション次第でその年齢でも全然強くなれるんだなと」。
写真:町飛鳥/撮影:ラリーズ編集部
ポーランドリーグでの経験を通して、「息の長いプレーヤー」というプロ卓球選手像を目標としてより鮮明に描くことができた。
東欧で人間的にも成長
東欧での武者修行は、プロのアスリートとしてだけでなく、人としても成長させた。
「チームのエースで出れたら1試合で2回出られるので、試合がたくさんできるのが良かったです。Tリーグで負けまくってもポーランドに行ったら勝率が良かったので、自信を取り戻せました。あとは日本語喋る人が誰もいない中で海外に行って生活するのは、メンタルがタフになりますね。ポーランドに着いて迎えが来なかったときは、そのまま電車で来てくれと言われて、『ポーランドの電車なんか1人で乗れねえよ』と思いましたし、どこでも生きていけそうという気持ちにもなりました。日本での生活が当たり前のようで当たり前じゃないと気づけました」。
写真:笑顔を見せる町飛鳥/提供:町飛鳥
25歳の海外挑戦で一回りも二回りも大きくなった町はまだ26歳。
新たなプロ卓球選手像を描く、町の“息の長い”挑戦は、いま始まったばかりだ。
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