写真:宮崎義仁氏(日本卓球協会常務理事、T2 Diamond技術顧問)/撮影:ラリーズ編集部
卓球×インタビュー 卓球界のレジェンドが語る “2019年 新トーナメントが五輪代表争いに与える影響とは?”<宮崎義仁氏・特別インタビュー 前編>
2019.01.26
文:川嶋弘文(ラリーズ編集部)
東京五輪の開催を1年半後に控え、卓球界でも熾烈な代表争いが本格化する。日本卓球協会が昨年9月に発表した「2020 東京オリンピック男女日本代表候補選手選考基準」によれば、「2020年1月発表の世界ランキング日本人上位2名」に加え、協会推薦により「団体戦でシングルス及びダブルスにて活躍が期待できる選手1名」の計3名が選出される。
2019年という非常に重要なタイミングにて、国際卓球連盟(ITTF)の世界ランキングポイントに大きな影響を与える新トーナメント「T2 Diamond」が開催される。
このT2 Diamondのテクニカルアドバイザーに就任した日本卓球協会(常務理事・強化本部長)の宮崎義仁氏に、新トーナメントが代表争いに与える影響や今年の日本卓球界の展望についてお話を伺った。
ーー今回、宮崎さんがT2 Diamondのテクニカルアドバイザー(技術顧問)に就任したことが発表されました。どのような経緯で就任が決まったのでしょうか?
宮崎義仁氏 日本卓球協会 常務理事・強化本部長(以下、宮崎):
T2 Diamondの前身として2017年に行われた「T2 APAC(アジア太平洋リーグ)」の7大会中3大会の解説を担当させて頂きました。T2 APACはインターネットで世界中に配信されましたが、日本からのアクセスが一番多かったということに加え、私がT2を現地で見ながら「ここはもっとこう改善した方がよい」「マルチボールシステムは試合時間短縮という観点で絶対良いのでITTFでもやるべきだ」など主催者に提言していました。
またその後も全日本選手権やTリーグのシステムに問い合わせに答えるなど、情報交換を続けていました。主催者が東京に来た際に、T2Diamondのルールについてもアドバイスを求められ、ざっくばらんに意見を伝えていたところ「貴方はよく卓球を分かっている。T2 Diamondのルール決めや運営に携わって頂きたい」ということでテクニカルアドバイザー就任の打診があり引き受けさせて頂きました。
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ーー就任後、具体的にどのようなルールを検討されているのでしょうか?
宮崎:立場上、日本選手にとって不利な条件の大会になられては困りますし、全ての選手にとって公平なルールが採用されるようベストを尽くしています。
また卓球の発展のために、「短時間で試合を終わらせる」ということに重点を置いたルールを検討しています。
具体的には、T2 Diamondではデュースは無し、つまり10-10になったら次の1本を取り11-10とした方がそのゲームを取ることになります。
また、24分以内に試合が終わらなかったら次のゲーム以降は全て5点先取に切り替わります。
7ゲームスマッチを予定していますが、例えば4ゲーム目の途中で24分を経過したら、その次のゲームから、すなわち5ゲーム目から7ゲーム目までは全て5点先取となる。
5点先取のゲームは恐らくラブオール(0-0)からスタートすると思います。Tリーグでは5ゲーム目を6-6からの5点選手で行っていますが、後から記録を見た時に5本マッチだったのか11本マッチだったのかが一目で分からないため、T2ではラブオールスタートとした方がいいという話をしています。
また、ボールを受け取ってから15秒以内にサーブを出す「15秒ルール」も適用予定です。世界ランキングに関わるT2 Diamondではルールの厳守のため、10秒経ったらタイマーを鳴らすなどの工夫も検討しています。
このような工夫で、大体35分以内に全ての試合が終わると見込んでいます。
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ーー効率の良い大会運営の先導役と言えますね。選手やファンからするとT2 Diamondに「誰が出られるの?」というのが最も気になるところだと思います。
宮崎:当初、世界ランキング上位15人という案もありましたが、それだと新しく出来るリーグ、ルールなのに既に上位にいる選手が有利だし、全ての選手に公平とは言えない。そのため、1月のハンガリーオープンからスタートする2019年のワールドツアー獲得ポイントにおける上位15名に出場資格を与えるというルールとすることになりました。そうすればどの選手も「ヨーイ、ドン」で競争がスタートでき、公平と言えます。T2もITTFも最後は賛成してくれました。
日本選手も公平に勝負が出来るという意味で、私がテクニカルアドバイザーに就任した意味、意義があったと思っています。
ーーT2 Diamondでのボーナスポイントを目指してワールドツアーを頑張ろうという日本選手も増えてきますね。
宮崎:そうですね。また2017年のT2リーグ以降、ITTFでもマルチボールがワールド・ツアーのほとんどで採用されています。Tリーグもそうですし、全日本選手権でも土日はマルチボールになりました。そして今年4月の世界選手権でもマルチボールの採用が決まっています。
5本試合や15秒ルールなども含めT2発信のルールが世界のルールに変わるように先導役になりたいと思っています。
そしてお客さんが間延びして退屈な試合ではなく35分、40分で終わるというコンパクトな試合に卓球のルールを変えていく。
試合時間が読めればテレビ局も放映しやすく、スポンサーも付きやすいですよね。短時間にまとめて試合を行うことが卓球競技の更なる発展に繋がります。
ーーその他に今後検討したいルールなどはありますか?例えば、昨年10月発行の宮崎さんの書籍「日本卓球は中国に打ち勝つ」(祥伝社)ではサーブのトスについての提言もありました。
宮崎:サーブのルールについては、長い歴史がありこれまでも改善が繰り返されてきました。現行ルールで最も問題があると思っているのは「16cm以上のトスを真上に上げなければいけない」となっているのですが、その判断が人間の目では難しいということです。16cm上がっているか15cmしか上がっていないのか、真上か少し斜めかなんて神様じゃないんだから審判でも分からない。
書籍でも書きましたが、「サーブのトスは頭の上まで上げる」というルールへの変更が必要と考えています。
明確に疑問を持ったのはロンドン五輪の女子シングルス決勝です。中国の丁寧が得意のしゃがみこみサーブでフォルトを取られて泣き崩れ、そのまま敗れたということがあり、波紋を呼びました。その後も国際大会を含め、大事な場面で低いトスを横に上げてボディハイド(体でボールのインパクトの瞬間を隠す)をするルール違反が横行しています。
これは審判のせいというよりは、ルールが曖昧であることが原因の一つですので、審判がどの角度からでも判断ができるルールにしなければいけません。
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ーー国際ルールを変えるには具体的にどのような手続きを行うのでしょうか?
宮崎:ルール改定には証拠に基づき、その改定の必要性を説明する必要があります。ですので、1年くらいかけて色んな映像を撮り貯めたうえで、協会からITTFに働きかけをしていくつもりです。
最近、ボディハイドがしやすい巻き込みサーブが流行っていますが、頭の上までトスを上げるというルールに変われば審判がどの角度からでも見えますから、ボディハイドが確実に減ります。選手もルールを遵守したうえでうまく相手を惑わせるのであればそれは技術、テクニックになります。卓球を技術でフェアに勝負できる競技にすべきと考えています。
先行してルールをT2 Diamondで取り入れるということも視野に入れて、進めていくつもりです。
>>卓球界のレジェンドが語る “2019年の卓球はこうなる”<宮崎義仁氏・特別インタビュー 後編>
宮﨑義仁(みやざき・よしひと)氏プロフィール
1959年4月8日生まれ、長崎県出身。鎮西学院高校~近畿大学~和歌山銀行。現役時代に卓球日本代表として世界選手権や1988年ソウル五輪などで活躍後、ナショナルチームの男女監督、JOCエリートアカデミー総監督を歴任。ジュニア世代からの一貫指導・育成に力を注いでいる。試合のテレビ解説も行っており、分かりやすい解説が好評。公益財団法人日本卓球協会常務理事、強化本部長。卓球国際新トーナメントT2 Diamondの技術顧問も務める。