試合前練習から勝負は始まっていた Tリーグ史上ベストゲームの裏側 | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

写真:張一博(琉球アスティーダ)/撮影:ラリーズ編集部

卓球×インタビュー 試合前練習から勝負は始まっていた Tリーグ史上ベストゲームの裏側

2020.05.19

この記事を書いた人
Rallys編集長。学生卓球を愛し、主にYouTubeでの企画を担当。京都大学卓球部OB。戦型:右シェーク裏裏

卓球Tリーグ2ndシーズン、台風の目となった琉球アスティーダを率いるのは張一博監督だ。2季目に就任した指揮官は、Tリーグベストゲームとも称される男子最終戦のT.T彩たま戦に勝利し、1季目最下位だったチームを2位に導いた。

先日のT.T彩たまの坂本竜介監督に続き、今回は張監督にオンライン取材を試みた。

「シーズン中は僕の考えをあんまりシェアしたくない。でも今はひと段落したから言えますよ!」。プレーオフファイナルが中止となり、2ndシーズンが終了した5月、張監督はシーズン最終戦の裏側をいつもの陽気さで語ってくれた。

▼T.T彩たま・坂本監督が語るTリーグ最終戦▼
>>今だから言える“オーダーの意図” Tリーグ史上ベストゲームの裏側

Tリーグ男子最終戦スコア

琉球アスティーダ 3-2 T.T彩たま
李平/吉村真晴 0-2 ◯黄鎮廷/神巧也
10-11/6-11
荘智淵 2-3 ◯松平健太
11-9/10-11/11-6/5-11/10-12
〇有延大夢 3-2 ピッチフォード
4-11/11-6/11-9/6-11/12-10
〇吉村真晴 3-0 神巧也
11-3/11-8/11-4
〇荘智淵 1-0 松平健太
11-7

前半2本失点 「ハーフタイムの時間は相当地獄でしたよ(笑)」

――プレーオフが中止となり、結果的にシーズン最終戦となった2月16日のT.T彩たま戦。ファン、関係者からベストマッチと称される試合、振り返ってみていかがですか?
張一博監督(以下、張):
その前の岡山戦で負けたので、勝ち点1点差で彩たまに負けていた。もう正直やるしかないと思った。

内心は、この試合で勝ったらプレーオフだと思うと、試合前からずっとドキドキしてました。


写真:琉球アスティーダのベンチに入る張監督/提供:琉球アスティーダ

――オーダーの意図はどうだったのでしょうか?
張:
誰を出すか、誰を出さないかは難しかったです。特に彩たま戦はそこまで1勝5敗と負けてたから。

最初、僕は朱さん(朱世赫・チュセヒョク)を出したかった。彩たま戦はすごい負けてる(0勝5敗)んですけど、朱さんの名前とキャリアはある程度安心感があるんですよ。負けても仕方がないと思える。

ただ、僕は監督ですが、全部自分で決めるのではなく、ある程度全員と話をして意見を聞いて決めるのが僕のスタイル。そこで「(朱世赫は)彩たま戦で分が悪い。他の選手を出したらどうか」という提案を(吉村)真晴からしてきた。もちろん最後の判断は僕ですけど、勇気を出して朱さんでなく有延を起用しました。

――有延選手の起用は彩たま・坂本監督も驚いたとインタビューでおっしゃってました。
張:
正直、有延を出すのは勇気がないとなかなかできないことです。ただ、本当はダブルス(李平/吉村真晴ペア)と荘さん(荘智淵・チュアンチーユエン)のシングルスのどちらか1点は取れるだろうという気持ちもあったんですよ。

――実際は2点とも彩たまに奪われました。
張:
ダブルスも荘さんも競り負けて、0-2になったときは正直心の中は「あーこれやばいな」と。僕は顔に出さないんですよね、監督なので出ちゃダメなので。ただ、ハーフタイムの時間は相当地獄でしたよ(笑)。

「まだまだ試合残ってるんで、頑張ればまだ挽回するチャンスはある」と自分に言い聞かせる意味も込めて、選手たちには話しかけましたね。

後半3本奪取で逆転勝ち 「荘さんはプロ」

――ハーフタイム明け、有延選手がピッチフォード選手に金星をあげました。
張:
もう、0-2で負けそうということは忘れて、なるべく自分の顔に出ないように、有延にアドバイスしようと思ってました。YGサーブが効いてたからサーブ3球目で攻めようとか作戦を伝えることだけに集中しました。

最初は有延が慣れていなくて緊張した部分があって、レシーブが全然できてなかった。でも段々慣れてきて勝てたのでよかったと思います。

――最後は神選手とのキャプテン対決を吉村選手が制しました。
張:
あれはすごかった。真晴があんなに波がなくプレーできたのは久々に見たって感じですね。圧倒的で素晴らしいと思いました。


写真:キレキレのプレーを見せた吉村真晴/提供:©T.LEAGUE

――勝負を決めるビクトリーマッチは荘智淵選手を起用しました。坂本監督は、朱世赫選手が試合前に練習をしてたからどこかで出てくるのではと迷ったと。
張:
試合前に練習するとき2台しかなかった。チームメンバーが多いので、普通試合に出ない選手は練習しない。でも朱さんには「もうバリバリに練習してください」と伝えて、誰が出るかわからないようにしようと。この日の試合は大事なのである程度カモフラージュしようと思い、指示したらすぐやってくれました。


写真:最後に松平を打ち破った荘智淵/提供:©T.LEAGUE

3番の有延の後にビクトリーマッチのオーダーを提出するのですが、僕は荘さんを出すことを考えてました。彩たまは(松平)健太だろうという予想で「荘さんもう一回健太ですがどうですか?」と聞くと「やります」と。

同じ日で負けた人にもう一度当たるのは、気持ちの整理が難しいと思う。でも荘さんはベテランでプロ。ちゃんと気持ちの調整をできていたのでよかったです。

有望な若手も加入し描く来季の展望

――荘智淵選手などベテラン選手の存在は大きいですか?
張:
荘さんや朱さんの姿勢には見習うことが多いんです。荘さんは勝っても負けても試合を見返す。特に負けた試合の動画を多く見るんですよ。それは素晴らしい。負けた後のインタビューも、たぶん誰より悔しいはずなのに、笑顔で対応している。

朱さんも、村松(雄斗)が来るたびに、ダブルスのやり方とかパターンとか、隠すこと一切なく教えてます。村松にとっても、僕にとっても、いい経験です。


写真:最終戦勝利を決めた琉球アスティーダ/提供:©T.LEAGUE

――ベテラン勢に加えて、来季はチームに、新戦力の平野友樹選手や、吉村和弘選手、戸上隼輔選手、宇田幸矢選手と若手メンバーも加入します。
張:
豪華ですよー。去年まではベテランが多くて、若手が入って雰囲気、勢いが変わると思います。今どういう風に使うかまだ全然わからないですけど、選手たちと話をして、常にベスト状態の選手を使えるようにやっていきたい。

若手を育てたいという気持ちが早川さん(周作・琉球アスティーダ代表)もあるし、どうやって育てるかは僕に任せられてる。若手にはいろんな大事な場面でチャンスをあげて、経験は積ませてあげたいと思っています。


写真:張一博(写真左)、右は早川周作琉球アスティーダ球団社長/撮影:ラリーズ編集部

――最後にサードシーズンに向けて、監督の意気込みは?
張:
監督は初めてだったのでセカンドシーズン前はすごい不安でした。ストレスが半端なくて皮膚炎にもなりました(笑)。でもシーズン開始後、選手に会って少しずつ楽になって、2位になれたので自分の価値を少し出せたかなと思います。選手も多くなって、少しずついい方向にいってる。

次こそチャンピオンになりたい。優勝を目指して頑張ります。

>>「代打オレあるよ!」日本リーグのMVP男 張一博が選んだ次なるキャリアとは

取材:槌谷昭人(ラリーズ編集長)