今だから言える"オーダーの意図" Tリーグ史上ベストゲームの裏側  | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

写真:坂本竜介(T.T彩たま監督)/撮影:ラリーズ編集部

卓球×インタビュー 今だから言える“オーダーの意図” Tリーグ史上ベストゲームの裏側 

2020.04.15

取材・文:川嶋弘文(ラリーズ編集部)

2018年10月の開幕から2シーズンを終えたTリーグ。

新型コロナウイルス感染症対策のため、第2シーズンのプレーオフは延期となっているが、その出場権を懸けた男子の琉球アスティーダとT.T彩たまの最終戦は、ファンの間で“卓球史に残るベストゲーム”とも称される壮絶な試合となった。

シーズン最終戦に起こったドラマの裏側を、敗軍の将、坂本竜介氏(T.T彩たま監督)が語る。

>>第1話 坂本竜介に聞く「現代卓球のトレンド」 5年後伸びる日本選手とは

>>第2話 ドイツ卓球、選手寿命が長いワケ

Tリーグ男子最終戦スコア

T.T彩たま 2-3 琉球アスティーダ
◯黄鎮廷/神巧也 2-0 李平/吉村真晴
11-10/11-6
◯松平健太 3-2 荘智淵
9-11/11-10/6-11/11-5/12-10
ピッチフォード 2-3 有延大夢◯
11-4/6-11/9-11/11-6/10-12
神巧也 0-3 吉村真晴◯
3-11/8-11/4-11
松平健太 0-1 荘智淵◯
7-11

今だから言える、最終戦オーダーの意図

ーー2月16日(日)久喜での最終戦は卓球史に残る試合になりました。どんな意図でオーダーを組まれたのでしょうか?
坂本竜介監督(T.T彩たま、以下坂本)
:2位のうちと3位の琉球の最終戦。直接対決で勝った方がファイナル進出。まさにドラマでしょ。

オーダー??今ならしゃべれますよ(笑)

まずダブルスですよね。予想は李平が出てこないと思ってた。木造と真晴が出てくると。というのもその前の沖縄戦で僕ら勝ってるんですよね。李平と真晴に。なのでそれはないなと。でもここは思ったよりあっさり勝てた。


写真:T.T彩たまのウォン(右)と神巧也/提供:©T.LEAGUE

ーーシングルスはどんな予想だったんでしょうか?
坂本:
(ダブルスで)木造と真晴が出て、真晴のシングルスは後半確定だなと思って。そこで真晴にジンタクをぶつけたかった。なのでこれは当たった。

それで、うちにはカット打ちが上手い健太とジンタクがいるから、カットマンの朱世赫は出ない可能性が高いと思っていた。

そうなった場合に誰が出ると思って、有延だとは思ってなかったんですよ。そうなると木造なわけですけど、そうするとダブルスどうするんだろうと。そこでちょっとオーダーを崩してくる可能性もあると思ってはいた。

ーーオーダーを読む難しさが伝わってきます。大事な2番のシングルスに松平健太選手を起用されました。
坂本:
2番に健太を出したのは朱世赫に当てに行きました。出ない可能性も高いと思うけど、でも健太と実際試合をやっていないので、ジンタクには負けてるけど健太がカット打ち上手いとは言っても直接やってはいないので。朱が出るとこって2番しかない。

なぜなら3,4番に行くと2分の1の確率で相性の悪いジンタクにまた当たると。だから2番に来るだろうという予想でまず2番に健太を書いた。

ーー実際には2番は荘智淵選手との対戦になりましたね。
坂本:
結果としては、それが良かったんです。もし朱世赫が出ないとしたら2番に荘智淵はあるねとチーム内で話してた。そして健太がもし当たるんだったら荘智淵が一番いいねとも。

なぜなら真晴、木造とか他の選手と当たった場合はちょっと健太が緊張して硬くなると思ったんです。逆に荘智淵って最近ワールドツアーでもめちゃくちゃ強いから、健太も思い切り振れるだろうなと思ったので。琉球としては荘智淵で絶対に1点稼ぐと思ってるから、そういう意味ではそこで勝ってくれたので、オーダーでいくとドンピシャでしたね。

ーー前半で順調に2-0となって、彩たまの勝ちを確信したのでは?
坂本:
4番のジンタクは真晴に勝率がいい。そして2-0で回った3番でピッチと有延ですよ。1ゲーム目11-4で勝って、おお!となった。

ーーそこから、琉球の反撃が始まりましたね。
坂本:
あれは有延がよく頑張ったとほめるしかない。ピッチも硬かったので難しい試合だった。あの後、ピッチは控室でずーっと号泣。それをずっと慰めました。「お前のせいじゃない。逆にお前がここまで頑張ったから今シーズン最後まで来れたんだからお前の勝ち星8個なければここまで来てないから。なんでお前が下を向くんだ」ってずっと言って。その日の夜中からハンガリー行くのにね。それでも負けた後もベンチで頑張って応援してくれた。

で、ジンタクもピッチが勝つと思って準備していたと思います。それでピッチが負けたので、顔が今までと違って、そのまま入って全然だめで。もちろん真晴も上手かったですけどね。本当にミスが少なかった。

ーー2-0から2-2に追いつかれました。プレーオフ進出がかかった5番のビクトリーマッチ。その起用はどう決めたのでしょうか?
坂本:
オーダーは3番が終わった時点で提出するんですけど、本当は5番にピッチを使いたかったんですよ。

でも一つ難しいところがあって、朝一で練習行ったら朱世赫がサーブ練習とフットワークずっとやってるんですよ。じゃあ、出るなぁと思うじゃないですか。

で、オーダー交換したら名前が書いてあって「ビクトリーマッチだけ出てくるな」と思ったんですよ。

それが迷った原因。

それでピッチ出すとカット相手だときついから、健太を出すしかない。しかも健太は2番で荘智淵に勝ってたし。


写真:Tリーグ最終戦、琉球が勝利した瞬間/提供:©T.LEAGUE

でも3番終わった時点で朱世赫はずっと座ってて、荘智淵がちょっとざわざわ。これはラスト荘智淵だと思ってピッチで行くかと思って、本人を見たら号泣してるからこれはちょっと出せないなと思って。

そういうことがありましたね。

チーム的にも今シーズン琉球には相性が良くて5勝1敗。健太が2番の勝負どころで荘智淵に勝ってくれて。そこから負けを予想するのは難しかったですね。向こうも勝ちを予想するのは難しかったと思うけど。

初めて言える「負けるが勝ち」

ーー改めて第2シーズンをどう振り返りますか?
坂本:
なかなか人生上手くいかないなぁというのが正直な感想。35年間生きてきて、卓球の世界でやってきて「プロ選手は勝たないと意味ない」「内容を求められるのは小学生まで」とずっと言い続けてきたんです。

でもね。。。

初めて「負けるが勝ち」という言葉がちょっと当てはまるかなと思えた。

ーー負けて勝ち得たものとは?
坂本:
それはファンですね。シーズンを通じてファンの熱さはリーグ1位だと感じていました。

そんな中、あの最終戦で負けたことによって、ファンの人たちがすでに来シーズンに向けて盛り上がってるんですよ。だから勝負は負けたんですけど、人気の面では負けたことによってさらにファンの人たちの絆が深まった感がある。だからそこは初めてその言葉を使えるのかなと感じたシーズンではありました。

まあ、負けるのはつまらないですけどね(笑)。

ーー彩たまのファンの応援には一体感を感じます。「爆援」というフレーズも生まれました。
坂本:
あの一体感はオフシーズンを通じて、みんなで作り上げたものだと思ってます。

試合が無かったオフシーズンに、講習会や卓球教室など20回以上のイベントを通じて選手とファンとの距離感が近くなった。

一回会った人って親近感がわくし、知ってる人って応援したくなるんですよね。全然知らないスポーツでも自分の友達がやってたらなぜか面白く見えてくるのと一緒で、それって、ふれあいからしか生まれないので。

そういうところから作れてるのはうちのチームの強みですね。

ーー最終戦の応援も力が入っていましたね。
坂本:
最後の試合が一番応援団もすごかったですよね。そりゃそうですよね。勝ったらファイナルなんですから。

あそこにいたファンの皆さん全員ファイナルのチケット買ってくれてたみたいですけど。でもそうやって人の心を動かせるのは素晴らしいことなので、人気のあるチームっていうのは作れてきてるんじゃないかな。最後のこの試合を負けたことでさらに深まったかもしれないっていうのは感じています。

来シーズンは多分最初からあの応援団がいてくれる状況から始まるんじゃないかなって思うので、それは本当に楽しみですね。僕もまだ来シーズンは監督でいるので。任期のあと2シーズンでファンの皆さんに恩返しがしたいですね。

(第4話 卓球・坂本竜介に聞く 外国選手を「日本で育てる」方法 に続く)

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