専修大学で今季、最高学年としてチームを牽引した三部航平。ともに4年生の及川瑞基と“ダブルエース”を張り、秋季関東学生卓球リーグ男子1部で5シーズンぶり30回目の優勝に導いた。
だが、そんな三部には大学入学後に「イップス」に見舞われたことがあったという。思うようにプレーができない時期を乗り越えた現在、今後の卓球人生に向けて「ある決断」を下すこともできたと、本人は話す。
その決断とは一体なんなのか。そしてその先に見据える未来とは。大学卒業が刻々と迫るいま、本人にその真意を訊いた。
このページの目次
三部を突如襲った“おかしな感覚”
写真:三部航平(専修大学)/撮影:佐藤主祥
2016年に専修大学へ進学し、ルーキーイヤーからチームの主力として活躍していった三部。しかし、大学2年時のある時から、これまで経験したことのない“おかしな感覚”に陥ってしまう。
異変を感じ始めたのは、2017年の春季関東学生卓球リーグ開幕直前。大学1年時に参加した、ドイツ・ブンデスリーガ2016-2017シーズンを戦い終え、日本に帰国してきた頃だった。
「あれ、おかしいな…フォアが全然入らない…」
バックハンドは入るし、フォームも普段となんら変わりはない。周りから見れば、いつも通りの三部航平だ。他の選手やコーチに相談しても、その変わりのなさから信じてもらえず。三部本人しか、このアクシデントに気づくことができなかった。
写真:今では何の問題もなくフォアを振る三部/撮影:佐藤主祥
「(ラバーがボールに)引っかかる感覚がないし、フォアを打つ時にちょっとだけ開いて思い切りオーバーしちゃったりして。全然思うようにフォアが打てませんでした」
この状態の中で出場した春季リーグでは、チームは7戦全勝で優勝したものの、三部自身は試合前練習のフォア打ちから全く入らず、2勝3敗と思うような成績が残せなかった。
その後の中国OPでも、シングルスは予選2回戦敗退、男子アンダー21も2回戦で姿を消した。6月末の関東学生選手権では、大半をバックハンド、レシーブもチキータで打たざるを得なかった。大会終了後に「自分は“イップス”なんだ」と気づいたという。
>>田添健汰「人生が変わった」 水谷からの運命のLINEとは
>>田添響「結果がすべて」誓いの手紙で始めた卓球人生
「このままだと卓球人生終わるかも…」イップスの苦しみ
その後の全日本大学総合選手権・団体の部(通称・インカレ)でも自身のプレーを取り戻すことは叶わず、ついに自信をなくしてしまった三部。
「俺ヤバい…このままだと卓球人生終わるかも…」。
インカレを終えた後には一度、卓球から離れた。練習をウエイト中心に切り替え、体を徹底的に鍛え抜く方針に切り替える。すると、試合に勝った訳でもないのに、妙な自信が湧いてくるのがわかった。
写真:三部航平(専修大学)/撮影:佐藤主祥
「ウエイトをすると体が変わってくるので、目で見て成果がわかるんですよね。『あ、俺、進化したな』って。卓球で自信をなくしていたので、ひとまずウエイトにめちゃくちゃ時間を費やしました」。
ある程度の期間ウエイトで体を作り上げた後には、卓球の練習を再開。小学校の頃にやっていた基礎の基礎からはじめ、専修大の練習場の隅でひたすら多球練習を繰り返し、イチからフォームを作り直した。
その甲斐あってか、約2ヶ月後の8月中旬、ようやく「イップス」の呪縛から抜け出した三部。結局、原因はわからなかったというが、それ以降、徐々に本来のプレーを取り戻し、気持ちの部分でも余裕が生まれ始めた。
>>ダブルエースの1人・及川瑞基インタビュー 「スピード×思考」の卓球で世界へ挑む
「イップス」を乗り越えて見つけた、新たな“卓球人としての道”
写真:三部航平(専修大学)/撮影:佐藤主祥
三部はイップスを経験したことによって視野が広がり、今後、卓球人生を歩んでいく上で“ある決断”を下したと話す。
「大学卒業後は、プロではなく実業団チームに進む道を決めました。やはりプロの世界は結果が全て。イップスを経験して、今回のような最悪な事態に陥ったり、怪我をしたりしたら本当に選手人生を終える可能性がある。その後のキャリアの保証もありません。正直に言えば、自信がないというのもあります。
でも今後も卓球はやっていきたいし、実業団の世界だってレベルはすごく高い。自分にとってはこの選択も大きな挑戦です。卓球をずっと続けられる環境に身を置いて、やれるところまでやってみる。あとは社会人として、幸せに生きていけたらいいですね(笑)」。
プロとして、ラケット一本に懸けていく方が選手として上を目指せるかもしれない。だが、実業団も卓球界を40年支えてきた実績やレベルの高さがある。三部にとってこの選択は「逃げ」ではなく紛れもない「挑戦」なのだ。
この決断の先で、彼はどんなプレーヤーへと進化を遂げていくのだろう。三部がラケットを置くその日まで、その卓球人生を見届けていきたい。