張本をあと1点まで追い詰めた全日本6回戦の裏側 笠原「打った方が良い」御内「いや、自信ない」 | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

写真:御内健太郎(シチズン時計)/撮影:ラリーズ編集部

卓球×インタビュー 張本をあと1点まで追い詰めた全日本6回戦の裏側 笠原「打った方が良い」御内「いや、自信ない」

2021.02.23

この記事を書いた人
1979年生まれ。2020年からRallys/2024年7月から執行役員メディア事業本部長
2023年-金沢ポート取締役兼任/軽い小咄から深堀りインタビューまで、劇場体験のようなコンテンツを。
戦型:右シェーク裏裏

すべての全日本には、記憶に残る一戦がある。

2021年の全日本卓球選手権を振り返るとき、男子6回戦の張本智和(木下グループ)-御内健太郎(シチズン時計)の一戦がまさにそれだ。

御内健太郎(みうちけんたろう)、31歳。日本を代表するカットマンの一人だ。


写真:御内健太郎(シチズン時計)/撮影:ラリーズ編集部

対するは17歳、日本のエース・張本智和。
張本の高速卓球と御内の粘りのカットの壮絶なラリーは、御内がマッチポイントを握り「張本散るか」と、全国の配信視聴者の目をくぎづけにした。結果、試合はゲームオールで張本が勝利したのだが、卓球ファンに「カットマン御内、ここにあり」を印象づけた、白熱の一戦だった。


写真:張本智和(木下グループ)/撮影:ラリーズ編集部

御内のベンチに入っていたのは、笠原弘光(シチズン時計)。今回の全日本では3回戦で敗退してしまったため、チームメイトである御内のベンチに入った。
二人は早稲田大学卓球部の同級生であり、社会人では協和キリンとシチズン時計で分かれたが、2019年に笠原がシチズン時計に移籍したことにより、7年ぶりにチームメイトとなっている。お互いを“特別な関係”と表現する2人に、“あの一戦”を振り返ってもらった。


写真:ベンチに入った笠原弘光(左、シチズン時計)/撮影:ラリーズ編集部

全日本男子シングルス6回戦 スコア

御内健太郎(シチズン時計) 3-4 ◯ 張本智和(木下グループ)
5-11/14-12/7-11/12-10/11-6/12-14/8-11

御内「笠原は試合を見る能力、冷静さが長けている」

――笠原さんがベンチに入ったのはなぜなんでしょうか?
御内健太郎
:三部と僕の試合が被っていた4回戦から笠原に入ってもらっていて、張本戦もそのまま継続で笠原に入ってもらいました。

――なぜ笠原さんに入ってもらいたかったんですか
御内健太郎
:笠原の試合を見る能力や冷静さが非常に長けてるのを昔から知ってるので。安心して戦えるっていうところが一番大きかったですね。

勝敗を分けた運命の第6ゲーム

――やはり勝敗を分けたのは、11-10と先にマッチポイントを御内選手が握りながら、張本選手に逆転で取られた第6ゲームでしょうか。
御内健太郎
:はい、そう思っています。

――第6ゲーム前半は3-8まで離されてましたが、焦りはなかったですか
御内健太郎
:そうですね、やってることはそんなに間違ってないなと思いながら、戦ってました。


写真:御内健太郎(シチズン時計)/撮影:ラリーズ編集部

――どういう戦術だったんでしょう
御内健太郎
:その前から、ラリー中にツッツキを反転した方がいいっていうアドバイスが笠原からあって、打てるときはストレートかミドルに打つ。あとはバックサイドを中心に相手が攻めてきてたから、いつかフォアサイド来るなっていう話をしながら、そこを気にしながら戦ってたと思います、確か。


写真:御内健太郎(シチズン時計)/撮影:ラリーズ編集部

笠原弘光:変化をつけてやっていくことで、相手も最初は入ってたボールもあまり入らなくなってきて、御内も結構粘れるようになってきた。あと、御内のサーブに対して相手はほぼチキータで来たので、サーブ思いっきり切ってチキータさせて、そしたら回転結構出てくる、それに対してイボでカットしたら変化が出るんで、そこからやっていこうという話をしました。

御内健太郎:思い出した!(笑)。全部チキータされてたんで、とりあえず下回転出して持ち上げさせたほうが良いってずっと言われて、その展開は確かに良かったです。


写真:御内のカットに苦しむ張本智和(木下グループ)/撮影:ラリーズ編集部

――御内さんをよく知っている笠原選手から見て、この試合の御内さんの調子はどうだったんでしょう?
笠原弘光
:まあ、めちゃくちゃ良いって感じではないと思います。

――そうなんですか。てっきり、めちゃくちゃ好調なのかと思ってました。御内さん自身は?
御内健太郎
:そうですね、今回の全日本は初戦からずっと攻撃のミスが多くて。修正しながらやってたんですけど、全然自信なくて。攻撃にもっと自信もっていけてたら変わってたのかなっていうのはありますね。


写真:御内健太郎(シチズン時計)/撮影:ラリーズ編集部

笠原「打ったほうがいい」御内「いや、自信ない」

――6ゲーム目11−10で、先に御内選手がマッチポイントを握りました
御内健太郎
:あのとき、たぶんロングサーブ来るって笠原に言われてて。本当は攻めたかったんですけど、自信なかったんで、笠原に自信ないって言った記憶があります。

笠原弘光はい、自信ないって言われました(笑)。僕、タイム取ろうかなと思ったんですよ、絶対ロングサーブが来ると思ったんで。でも取っちゃったら相手も変えてくるかなっていう気もした。ロング来るって言ったんですよ、御内が手前に来たときに。でも打つかなと思ったら打たなくて、点を取られた。次は御内のサーブで、ずっと相手がバックでレシーブしてたのがそのときいきなりフォアで来て失点。次追いついたんですけど、今度は御内が“次にサーブを何出したらいいか分かんなくなった、タイム取る”って言い出した(笑)

御内健太郎:いや、あのときほんとに分かんなかった(笑)


写真:御内健太郎(シチズン時計)/撮影:ラリーズ編集部

笠原弘光:それでタイム取って、次のレシーブの話もした。自信なかったら打たなくてもいい、打てそうなら打ったほうが良いと。そしたら、いや自信ないって言われたんで、本人の判断に任せました(笑)。何が何でも打ったほうが良いとはちょっと言えなかったです。そしたら次のゲームでは打ってました(笑)。

御内「あの場面で打てばよかった」

御内健太郎第6ゲームのあの場面で打てばよかったって、負けた時からずっと思ってます。でもほんとに自信なかったです。対張本なんで、打ってもブロックされるしカウンターもある。バックに打ったらストレートに飛ばされるコースが厳しい。それまでの試合でロングサーブに対する攻撃も全然入ってなくて、それも頭の中にずっとあった。ロングサーブが来るっていうのはこっちも分かってたんですけど、笠原にもそうやって言われて、確信を持ちながら行けたらよかった。一回打てば展開変わるから、6ゲーム目打てなかったんで7ゲーム目4-5ぐらいで1回だけ打ちました。そしたら点数取れました(笑)。


写真:運命の第6ゲームを取った瞬間、張本も咆哮/撮影:ラリーズ編集部

――そういうときってあるんですか?この日攻撃ダメだっていうのって。
御内健太郎
:カットダメだわっていうほうが多いですね(笑)

笠原「張本に勝つチャンスがある選手の中なら、御内は相当上位」

――いま振り返って、御内選手が「11-10のレシーブから打てば良かった」。笠原選手は「ベンチでこう言えば良かった」っていうのはありますか?
笠原弘光
:11-10でタイム取ればよかったって思いました。分かんないですけどね、その後あのサーブを出してきたかは。ただ、向こうはそれで点数取れてたんで、確率として一番高い。タイム取らなくても“ロングサーブ来る”じゃなくて、“レシーブ攻撃した方がいい”って言えば良かったなと。


写真:ベンチに入った笠原弘光(左、シチズン時計)/撮影:ラリーズ編集部

――最終第7ゲームは8-11で、張本選手がこの熱戦を制しました。
御内健太郎
:あそこまで戦えたというのはあるので、次対戦するときはもっと強い気持ちで臨みたいと思います。


写真:熱戦を終えて感慨深い表情の張本智和(木下グループ)/撮影:ラリーズ編集部

――笠原選手は、あそこまで接戦になると予想してましたか?
笠原弘光
:どうなるんだろうなっていうのは思ってましたね。張本が打つ球を、御内がまったく取れないということはないはず。それともテクニックで来るのか。1ゲーム目はそんな感じだったと思います。向こうの総合的な技術力が高くて、御内も相手が張本っていうことで押されてたんで、軽く取られて。それも最後に響いたのかなっていう気もします。張本に勝つチャンスがある選手の中なら、御内は相当上位だと思います。他の攻撃マンが張本が対戦するよりは、カットマンの御内が対戦する方が勝つ可能性は高いのかなと、それは終わってから思いました。


写真:お互いの健闘を称える張本智和(左)と御内健太郎(右)/撮影:ラリーズ編集部

御内「人間としても笠原を信用している」

――笠原選手から見た、御内選手の特徴はどういうところですか?
笠原弘光
:サーブの威力と、カットマンにはない攻撃力が魅力ですね。だからカット打ちできる選手に対しても試合ができる。フットワークもあるし、相手が一本ゆっくり打ったら全部フォアでカウンター打ってきたりとか。連打ができるので、攻撃型からすると結構プレッシャーです。(カットを)打てる選手に対して(御内が)打っていける、そこが他のカットマンと違う選手だと思います。


写真:サーブ力にも定評のある御内健太郎/撮影:ラリーズ編集部

――御内選手にとって、笠原選手はどういう存在ですか
御内健太郎
:大学4年間一緒で、社会人になって別々になって、また今一緒のチームでやれてるのは奇跡だと思います。大学時代は笠原が絶対的エースで、それでも笠原はすごい練習するんですよ。すげえなあ、俺も頑張ろうってやってました。7年ぶりに一緒になっても、笠原の卓球への熱っていうのはやっぱりすごい。試合前だけ気合が入るとかじゃなくて、一年中卓球に対してストイックにやってるから、こっちも真剣にやらないとって刺激になります。こないだもトレーニングで一人だけ追い込みすぎて(笑)

笠原弘光:マジでやばかったです。10分くらい立ち上がれずに、呼吸困難になるかと思いました(笑)

御内健太郎:そういう選手が近くにいてくれて良かったなって、いつも思ってます。選手としてだけじゃなく、人間としても笠原をとても信用してます。お互い31歳、次32歳の年ですけど、怪我なく、いい成績出したいなって思いますね。


写真:御内健太郎(写真左)と笠原弘光(写真中央)/撮影:ラリーズ編集部

笠原「御内は特別な存在」

――笠原選手にとっては、御内選手はどういう存在ですか
笠原弘光
特別な存在ですよね。いま、同級生で選手をやってる選手も少ないなかで、同じチームにいて、それが昔から一緒に過ごした仲間で。でも性格は真逆なんですけどね。タイプ的に御内は誰とでも仲良くできて、僕は別にそうではなくて、結構好き嫌いはっきりしてるタイプで(笑)。御内は会社員やりながら卓球やってて、僕は今、卓球だけしかやってなくて。結構逆のことが多いのに、それでも信頼できる。団体戦を戦ってる時でも2人でよく話すし、2人でしか話さないこともある。今回はベンチに入りましたけど、僕はなんで試合してないんだって思いました。他の選手とは違う存在で、ずっとライバルでもあり、仲間です。


写真:笠原弘光(左)と御内健太郎(右)/撮影:ラリーズ編集部

31歳カットマン御内健太郎が、17歳張本智和をあと1点まで追いつめた、あの一戦。

会場は無観客だったが、ベンチには同志がいた。

“耐える戦型”カットマンだったからこそ 御内健太郎「苦労しないと得られないものもある」 に続く)

笠原弘光インタビュー


写真:笠原弘光(シチズン時計)/提供:笠原弘光

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