卓球Tリーグ2020-2021シーズンに初めてTリーグの頂点に立った琉球アスティーダ。琉球アスティーダスポーツクラブ株式会社代表は早川周作さんです。
そんな早川さんが「経営者人生をかけてつくりあげる」と決心したのが琉球アスティーダスポーツクラブなのです。
早川さんはいつもチームの試合に帯同し、試合のときは誰よりも感情を露わにして共に戦っています。
今回は「チームビルディング」についてを早川さんの新著『琉球アスティーダの奇跡』より抜粋してお届けします。
早川流チームビルディング
琉球アスティーダは僕だけでなく、選手や監督、コーチ、スタッフ全員が卓球プロリーグという初めての経験をしているので最初から完璧を求めているわけではなかったのですが、チームのマイナス要因が分かってしまった 以上現場だけに任せておくわけにはいかないと考え、僕は自ら監督、また選手たち とも直接対話し、解決に乗り出すことにしたのです。
僕は、選手が抱える過去、現在のコンディション、将来の目標やライフプランなど、選手が何をしたいのか、選手としてのみならず人として何を考え、どういう課題があるのかなどをまず知ることから始めようと思いました。
全く素人で入ってきた僕は、選手に関して知らないことがたくさんあったのです。ファーストシーズンは、僕が卓球業界の勉強をするためにできるだけ多くの人とコミュニケーションをはかり、どのようなチーム構成でどう戦うことで我々が結果を出すことができるのかということを分析していった一年だったと思います。
どの選手をペアにするか、またチームとしてどう組み合わせると最大のパフォーマンスが発揮できるのかを導き出すためにも、その選手を知ることが大切でした。
僕は声をかけて食事に行ったり、隙間時間を見つけてお茶をしたり、自分のチームの選手のみならず、他チームの選手ともコミュニケーションをはかりました。そうすることで、どのような選手構成、マネジメント、首脳陣、サポートがあれば強いチーム力を発揮できるのかを掘り下げていきました。
選手獲得はスピーディー、そしてラフに
僕はチームの運営会社を整える傍ら、「3シーズン目で日本一になる!」という目標を叶えるために選手の補強を行っていきました。卓球について詳しく知っているわけではなくとも、20年以上経営者をやっていると、誰が伸びる選手なのかは感覚で分かります。
僕は今も毎回試合を観に行くのですが、試合前のあいさつ、練習風景、試合中に点数を取られた時や、試合で勝ったとき、負けたときの表情、ベンチでの対応など、選手をよく見ています。
するとこの選手は強くなるなとか、この選手がうちに入ってくれたらプラスになるなということが見えてくるので、交渉が可能になったら即座にアプローチします。交渉には規則がありますので、それを守りながら動向に目を光らせ、良いと思った選手とはすぐ連絡を取れるように日頃から準備をして、ここだという瞬間にアクセルを踏み、選手獲得に乗り出すのです。
常に考えているのは、選手の希望がいちばんだということ。琉球アスティーダはマネジメントや練習に制限が少なく、個人に任せる自由さがあり、選手にとっても絶対に楽しいチームだという自負があります。
「最高に楽しいチームを作っていこうぜ!」と僕はよく選手たちに言っているのですが、実力のある選手こそ、自由な環境でパフォーマンスを発揮できると考えているのです。自分をマネジメントするための最適なやり方を知っているから結果を出し、プロになってきたのだから当然です。そういう面でも、選手の力を僕は信頼しているのです。
写真:宇田幸矢(琉球アスティーダ)/撮影:ラリーズ編集部
TOKYO2020でリザーブ選手に入っていた、宇田幸矢選手は、自由契約になった瞬間にTwitterで連絡を取りました。その日のうちに宇田選手のお父様にも連絡を取り、すぐに金額の提示をしました。今は僕と一緒にバカみたいな写真を撮ってふざけたりするような仲で、しっかりとチームに馴染んでくれています。
選手を、徹底的に信頼する
強い選手なら誰でも獲得していこうと考えているわけではありません。やはり人柄、それももじもじすることのない明るい性格が琉球アスティーダには合っていると思います。チームの雰囲気や選手同士のバランスというのが大事なのは、ファーストシーズンで強い選手がいたにもかかわらず最下位だったことで気がつきました。
選手には、チームの考え方やビジョンをきちんと伝えます。なぜなら選手とチーム とでその方向性が合っていることは、とても大切なことだからです。その上で、世 界一のクラブチームにしたいと考えていることを伝えます。
僕が選手を家族だと思っていて、プライベートなことを含め何でも話せる関係でもあることを伝えています。実際に選手から電話、メール、LINEなど、今日は一本も連絡が来なかったな、という日は僕にはないです。ここまで選手と近しい関係を築くオーナーは珍しいのではないかと自分でも思っています
さらに言えば「琉球アスティーダにいる時だけ活躍してくれれば良い」とも考えてはいません。選手の人生、将来を考えて、本人ともよく話をします。もちろん金額提示も、深く考えた上で設定をしています。
お互いにプロ同士、お金が絡めばそこに駆け引きというものは当然発生します。僕は、選手に言います。「僕のことは裏切ってもいいよ。でも僕は絶対にあなたを裏切らない」。これは僕の人生観に基づいていることです。裏切る人生と裏切られる人生があるなら、僕は後者を選びます。
僕がチームを作るときに決めたことは、誰よりも、どのプロスポーツチームの オーナーよりも、そのチームを愛し、選手を愛し、彼らの責任を取る覚悟を持つこ と。それはおそらく、少しずつ全ての選手に伝わっていったと思います。
選手は一 人ひとりが弟だったり、子どもみたいな、家族のようなものです。日本一になった サードシーズンにおいても、実力から考えたら張本選手や水谷選手のようなずば抜 けた選手がいる東京のチームに勝てる可能性は低かった。それでも勝っていくため に、選手がどれだけそのチームでパフォーマンスを出せるかを追求していきました。
そしてその環境をつくれるかどうかは、オーナーである僕の責任でもあるのです。
「全責任は俺が取るから、自由にやれ。最高のパフォーマンスを出してくれ」と言えるのは、選手のことを絶対的に信頼しているからです。それが最高&最強のチームを作る秘訣だと思っています。