9月に開幕する4季目に向けて、T.T彩たまの始動は早い。
夕暮れ、まだ熱気の残る練習場で坂本竜介監督に、丹羽孝希、上田仁という大型補強の狙いや、今季に懸ける自身の決意を聞いた。
写真:坂本竜介監督(T.T彩たま)/撮影:田口沙織
>>「監督の仕事は“人間マネジメント”」今季に懸けるT.T彩たま監督・坂本竜介の思い【前編】は こちら
昨季そもそも人数が足りなかった
――昨季、コロナ禍で海外選手の来日ができなかったのは相当苦しかったですか?
坂本監督:やっぱり、それまでのうちは、海外選手をメインで作ってきたチームだったので。Tリーグは、シーズン途中で選手をヘッドハンティングできないんですよね。
写真:2ndシーズンで活躍したリアム・ピッチフォード(T.T彩たま)/撮影:ラリーズ編集部
――あ、そうなんですか。
坂本監督:Tリーグは自由契約リストに上がらないと声かけちゃいけないルールなんです。今年から、契約成立した選手以外はいいよって変わりました。
ただ、だから、去年2月は、うちが最終試合を終わっても、自由契約リストに上がってない選手は声かけられなかった。
写真:坂本竜介監督(T.T彩たま)/撮影:田口沙織
――自由契約リストって、いつ頃上がるんでしたっけ?
坂本監督:だいたい4月頭とかなんですけど、こっちはその前の2ndシーズン活躍したピッチフォードとかジオニスを押さえたい気持ちもあるんですよ。でも、この選手たちを押さえちゃうと予算がなくなる。だから、昨季4月に(水谷)隼も、丹羽もリストに上がったけど、そのときにはもう予算がなかった。
去年2月時点ではコロナのこの状況はなかなか予測がつかなかったので。
写真:パナギオティス・ジオニス(T.T彩たま)は三季目も来日し7マッチを戦った/提供:©T.LEAGUE
――そりゃそうですよね。
写真:坂本竜介監督(T.T彩たま)/撮影:田口沙織
坂本監督:6月、7月時点で絶対試合に出れる選手が、神と(松平)健太しかいなかった。松山・高見は母体の試合のスケジュールがコロナで明確にわからなかったので。
――おお、人数が足りない…
坂本監督:日本リーグの選手は、6月30日までしか契約できない。7月入って、やっぱり海外選手も来れないので、確実に出れる選手を取らなきゃいけないって僕が探したのが、英田理志だったんですよ。
写真:英田理志(T.T彩たま)/提供:©T.LEAGU
――勝つかどうかより、まず出れるかどうかだと。
坂本監督:はい(笑)。スウェーデンリーグとまだ契約してないって話を聞いて、すぐに連絡して。
――英田選手のことは知ってたんですか?
坂本監督:自分が現役の頃、日本リーグとかで試合してたので「面白い卓球するなあ」とは思ってました。あと、サフィールの試合でルンクウィスト(スウェーデン)に勝ったり、左のイェレル(スウェーデン)に勝ったりしてるのは映像で見てたので、この辺の選手に勝てるなら、Tリーグでもチャンスあるかなと。これで、やっとうちは3人目揃って。他チームと全然次元が違うんですよ。
写真:ポーランドオープンでの英田理志/提供:ittfworld
――その英田選手が大活躍でした。
坂本監督:人生そんなもんですね(笑)。でも“補強”って言われるたびに補強じゃねぇ!って腹立ってました(笑)。英田とは午前中に契約交わして、午後初めて練習場に行って、神と(松平)健太とカット打ちしたんです。そしたら2球連続まともに入らない。ま、あの二人特にカット打ち上手いですからね。英田は「あ、契約書交わした午後にクビになる」って思ったらしいです(笑)
写真:英田理志(T.T彩たま)/撮影:ラリーズ編集部
英田理志が強くなった理由
――でも、なんであんなに強くなったんですか?
坂本監督:一番は、本人の頑張りです。ここから15分くらいのところに住んで、8、9、10月ひたすら練習して11月の頭くらいにちょっと変わってきたな、これなら使えるかもしれないと。そのタイミングでちょうど神がケガしたのもあって、じゃあ英田で行こうと。
あとは、卓球を知らなかったですからね。
――勝ち方を、ということですか。
坂本監督:いや、卓球を知らなかったんです。トップレベルのボールに対する返し方、この横回転はこの角度でこう返すっていうところからわからなかったんです、7月時点では。
写真:坂本竜介監督(T.T彩たま)/撮影:田口沙織
――それが、水谷隼選手に2回勝ち、張本智和選手にも勝利するまでに。
坂本監督:最初はみんな「英田と当たるのラッキー」って思ってたはずですからね。それが最後のほうはみんな「当たりたくない」っていう感じだった。そんなに変われる奴いないですよ。あいつは人一倍度胸もあります。
写真:英田理志(T.T彩たま)/提供:©T.LEAGUE
――一巡した後半戦でも勝ってましたよね。
坂本監督:夢がありますよね。やっぱり中学から高校に上がるときに卓球を辞めちゃう子が多い中で、英田が公立中高出身でもプロで活躍するっていうのは。
写真:坂本竜介監督(T.T彩たま)/撮影:田口沙織
――チーム初の13連敗も含めて、昨季のT.T彩たまは物語がありましたね。
坂本監督:いやー、家族といない一年でした(笑)。その時間を選手に費やさないと試合にならなかった。でも、選手個人はこれだけ強くなっていくんだと、育成・強化の面白さを感じた一年でもありましたね。
写真:坂本竜介監督(T.T彩たま)/撮影:田口沙織
選手は強くなれる場所を求める
――今季は、丹羽孝希選手や上田仁選手を獲得し、懸ける思いを感じます。しかし、よく獲得できましたね。
写真:岡山リベッツから加入した上田仁(写真左)と丹羽孝希/撮影:ラリーズ編集部
坂本監督:もちろん、自由契約に誰が上がるなんて誰も分からないんですけど、長年いたら選手の表情とか、話したときの感じとかで、なんとなく匂いはするじゃないですか。2月中にはもう予算取りも含めて自分の中ではこの二人に絞っていた。もちろん、自由契約に上がらなかったときのために第2ターゲットもいましたけど。
写真:坂本竜介監督(T.T彩たま)/撮影:田口沙織
――逆に、丹羽選手・上田選手がT.T彩たまを選んだ理由は何だと思いますか。
坂本監督:やっぱり、選手が求めるのは強くなること、強くなれる場所なんですよ。もちろんプロはお金やしがらみもありますけど、結局選手って強くなればお金は稼げるんですよ。逆に1、2年強くても、弱くなるとお金は下がる。そういう世界です。だから選手は強くあり続けなくちゃいけない。
――強くなれる場所として選ばれた、と。
坂本監督:選手はそこを見てくれるはずだと思ってました。英田が、篠塚が、曽根が強くなったとなれば、あのチームに行けば強くなれると思ってくれるんじゃないかって。
写真:坂本竜介監督(T.T彩たま)/撮影:田口沙織
丹羽、上田それぞれを獲得した理由
――それぞれを獲得した理由を教えて下さい。
坂本監督:もちろん、二人に共通しているのは人気のある選手だということ。うちの選手発表のツィートで「いいね」数の一番が上田、二番が丹羽ですから。
丹羽に関しては、単純に個人的な趣味も入ってるんですが、強くしたいなと。丹羽をさらに強くしないとまだうちは勝てないんじゃないかって思ってます。
写真:東京五輪日本代表の丹羽孝希/提供:ittfworld
――(おお、天才肌が、天才肌を….)
坂本監督:孝希はある決まったルールがあって、そこが崩れたときに良くない傾向があった。そこは伝えられるんじゃないかと。あとは、孝希にとって一番大きな東京五輪までどこで練習するのが良いか、T.T彩たまで練習した方が強くなるんじゃないかと思ったんです。
――上田選手についてはどうでしょう?
写真:上田仁(T.T彩たま)/撮影:田口沙織
坂本監督:キャプテン・神巧也の心の支えになるだろうと思ったこと。去年、神には負担がかかって、本人もつらい時期が続いたので。
そして、去年プレシーズンマッチで一緒に練習したとき、単純に上田はもっと強くなると思った。まだ寝てるな、寝てんじゃねえぞと。自分の培った知識を伝えていけば、まだまだ上田は良くなります。
写真:坂本竜介監督(T.T彩たま)/撮影:田口沙織
――今季が楽しみな布陣ですね。
坂本監督:そう言ってもらえるんですけど、僕、全然思ってないです。9月までにどれだけ個々が強くなれるかで、現状で優勝はまだまだだと思ってます。ただ、競争を好む選手たちが集まってるので、現場では僕はそれぞれが強くなっていくことに尽力していきます。
――最後に今季の意気込みを。
坂本監督:今シーズンは勝つことが重要。やってきたことは間違ってなかったと思ってるので、いよいよ勝ちが必要な一年だと思ってます。
写真:坂本竜介監督(T.T彩たま)/撮影:田口沙織
(終わり)
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