"卓球が強くなる"以上のものを手に入れられる 札幌大卓球部の挑戦 | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

写真:札幌大学卓球部の練習風景/撮影:ラリーズ編集部

卓球インタビュー “卓球が強くなる”以上のものを手に入れられる 札幌大卓球部の挑戦

2020.11.27

この記事を書いた人
Rallys副編集長。学生卓球を愛し、主にYouTubeでの企画を担当。京都大学卓球部OB。戦型:右シェーク裏裏

「北海道の歴史を塗り替える」を合言葉に札幌大学卓球部の面々は、北の大地で腕を磨く。特集1本目では、卓球が強くなるための充実した練習サポートや“授業最優先”のモットーなどに迫った。

だが、大学生活は卓球が強くなることがすべてではない。卓球を生業として暮らしていけるのはほんの一握りだ。大多数は大学卒業後、一人の社会人として暮らしていく。

卓球を起点に社会へ踏み出す準備段階である大学生活をどう過ごせるかが今、問われている。

札幌大学には、4年間学生たちが迷いなくラケットを振りぬけるよう、学業面で独自の制度がある。今回は、その制度を利用した卓球部員たちに話を聞いた。

>>第1話はこちら 廃部寸前だった札幌大卓球部が道内トップの強豪に返り咲いたワケ

札幌大学独自の専攻選択も進学の鍵に


写真:札幌大学校舎/撮影:ラリーズ編集部

札幌大学卓球部員の多くがスポーツ推薦を通じて入学してくる。通常、他大学のスポーツ推薦では入る学部が決められていることも多いが、札幌大学では、好きな専攻を選ぶことができる。

そもそも札幌大学には、スポーツ文化専攻や英語専攻含む13専攻(※2020年4月より専攻再編し1学群9専攻)と多くの選択肢がある。受験時に将来の進路を決められないという学生に向けて、専攻選択せずに入学し、2年生時に決定・変更するという珍しい方法も可能だ。


写真:専攻変更を行った濱口采花(4年)/撮影:ラリーズ編集部

前女子主将の濱口采花(4年・札幌大谷高出身)はその恩恵に預かった1人だ。「専攻が多く選択が柔軟にできるなと感じました。私は最初スポーツ文化専攻に入っていましたが、自分は教育の方向にいきたいと思い、地域創生専攻に変更しました」。


写真:札幌大学女子卓球部を支えた4年生女子 写真左から濱口采花、石井美紗、三浦祐依、大室奏子/撮影:ラリーズ編集部

廃部状態だった女子部の復活1期生として札幌大学に入学し、1年生だけのメンバーでインカレ予選を突破し全国出場を遂げた濱口。札幌大学女子卓球部を主将として牽引しながら、自身の進路として卓球と社会の接点を見つけていた。

「何かを教えたいと2年生から教育系の勉強をしてきて、障がいを持っている方々にスポーツを教えるときに卓球を活かせるんじゃないかなど勉強しながら感じました」。


写真:島根県明誠高校から進学を決めた奥山瑚々(1年)/撮影:ラリーズ編集部

また、1年生の奥山瑚々(明誠高出身)も専攻選択が進学理由の1つとなったと明かす。

「卓球で大学に進学したかったのですが、大学では英語の勉強もしたかった。スポーツ推薦だと学部が決められてる大学が多く、それだったら大学行く意味もないなと。札幌大学は好きな学部を選べるということだったので、英語も勉強できるし、卓球もできるしということで進学を決めました」。


写真:現主将の荻野と組んだダブルスで新チームでは主力となる奥山(写真手前)/撮影:ラリーズ編集部

短大に新設されたこども学科も人気上昇

加えて、2年前から保育園・幼稚園教諭の資格を取得できる「こども学科」が併設された短大でスタートした。こども学科では資格取得後、3年次から大学に編入することもできるという。卓球部では2年の小森愛佳、1年の鈴木亜依がこども学科に所属している。


写真:こども学科に所属する小森愛佳(札幌大学2年)/提供:札幌大学

取材の翌週には実習を控えていた鈴木が、忙しい合間を縫ってインタビューに答えてくれた。

保育士になりたかったという鈴木の進学の決め手は、こども学科の存在だったいう。「こども学科、卓球部のある道内の大学が限られていた。札幌大は、駒大苫小牧の先輩が多くいて、卓球でも活躍していると聞いていた。こども学科に一個上の先輩(小森)もいるので参考になると思って」。


写真:こども学科に所属する鈴木亜依(1年)/撮影:ラリーズ編集部

こども学科は少人数制だが「人数が少ない分、教員の方が一人一人学生に向き合ってくれるし、話もすごい聞いてくれる」と充実した日々を送れているようだ。


写真:こども学科に所属する鈴木亜依(1年)/撮影:ラリーズ編集部

保育士の資格を取得するためには、短大のわずか2年間でカリキュラムを消化しなければならない。「1年目はほとんど1~4限目まで入ってて忙しいですね」と鈴木は明かす。

だが、鈴木は卓球でも活躍すべく、目標を掲げている。

やっぱり団体は出たいです。先輩方みんな強いですけど、団体に出て、北海道でも全国でも勝ちたい。後輩も入ってくるのでわからないですけど、団体戦のレギュラーになりたいです」。


写真:練習中に笑顔を見せる鈴木亜依(写真左)/撮影:ラリーズ編集部

道外からの進学 島根県や高知県からも

札幌大学卓球部の藤倉監督は、北海道学生卓球連盟の理事長も兼任している。「『北海道はもちろん、全国でも戦える大学を』とやってきたなかで、高校の先生たちが、私たちの成績や卓球以外の頑張りも見て、少しずつ北海道でやらせたい、北海道で卓球させるなら札幌大という風になってきた」と道内での評判の変化を肌で感じている。

最近では、道内からだけでなく、道外からも札幌大学に進学する選手が出始めている。前述の英語専攻が進学のきっかけとなった奥山は、遥か遠く島根県の明誠高出身だ。また、2年には青森県の東奥学園高出身の又村亜美もいる。


写真:東奥学園出身の又村亜美(札幌大学2年)/撮影:ラリーズ編集部

「地元の青森より北海道の方が卓球のレベルが高い。調べると、札幌大学は卓球が強くて、色々勉強できる。自分を成長させるために、北海道で一人暮らしも頑張ろうと思って」(又村)


写真:東奥学園出身の又村亜美(札幌大学2年)/撮影:ラリーズ編集部

さらに、2021年には高知県の名門・明徳義塾高から新入生が入学することも決まっているという。

卓球を起点に社会へ

藤倉監督が練習場の定位置で、学生たちの練習を見つめる視線は優しい。

「ゴールは社会人になってどうなるかだと思います。卓球が強くても社会人で通用しない人もいっぱいいる。大学で色々な世界に触れ、広い視野を持たないと、ここからは難しい。先を見据えた力も身につけてほしい」。

卓球をきっかけに社会との接点を見つけ、自ら選ぶことで、“卓球が強くなる”以上のものを手に入れられる。

札幌大卓球部は、そんな魅力を持っている。

(第3話 部員ゼロから4年間で道内1敗の強豪に “雑草軍団”札幌大女子卓球部復活物語 に続く)

札幌大学卓球部に興味のある方はこちら


写真:札幌大学メンバー/撮影:ラリーズ編集部

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