【卓球】史上最年少王者の張本 Vの秘訣は「大人の卓球」への進化<シリーズ/徹底分析・グランドファイナル2018> | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

*写真:張本智和(JOCエリートアカデミー)/撮影:ittfworld

大会報道 【卓球】史上最年少王者の張本 Vの秘訣は「大人の卓球」への進化<シリーズ/徹底分析・グランドファイナル2018>

2018.12.17

文:ラリーズ編集部

張本智和。15歳6ヶ月の中学3年生が史上最年少でグランドファイナルを制覇。このような日が来ると、一体誰が思っていただろうか。

世界ランキング1位の樊振東、2位の許キン、次世代エースの林高遠、ダークホースである梁靖崑、劉丁碩。そしてドイツの皇帝、ティモ・ボル。世界ランキングトップを走る多くのプレーヤーが参加する中で優勝を飾ったことは、もはや張本が世界の頂点に君臨できることを証明した、と言ってもいいのかもしれない。

今回は、張本が並み居る強豪を倒し、年間王者に輝けた秘訣を分析していく。そして、その秘訣は「大人の卓球」への進化、と言えるだろう。

ワールドツアー・グランドファイナル2018・男子シングルス決勝:張本智和 vs 林高遠(中国)

林高遠(中国)。今年のアジア競技会では準優勝。中国の次世代エースとして名高い。
撮影:ittfworld

<スコア>
◯張本智和 4-1 林高遠(中国)
11-4/13-15/11-9/11-9/11-9

進化その1:高い精度を誇るフォアハンドカウンター

張本の精度の高いフォアカウンターが勝負を分けた。
図:ラリーズ編集部

林高遠は2011年の世界ジュニア選手権、丹羽孝希に3-4で敗北したもの準優勝。ジュニア時代から次世代のエースとして期待され、今年に入ってからも、アジアカップ準優勝、アジア競技会男子シングルス2位、男子ワールドカップ3位とビックタイトルこそ逃しているが、安定して上位に食い込んできている。中国選手の中では比較的小柄な林高遠は台から近い位置で高速両ハンドを駆使して戦う選手であった。

試合は序盤からお互いに得意とするバックハンド対バックハンドの展開になることが少なくなかった。しかしバックハンド対決ではやや張本に分があった。そこでバック対バックの勝負を避けるために林高遠が張本のフォアにボールを振ってきたのだ。

ここでラリーの主導権を握られるかと思いきや、張本はこのボールを早い打点でフォアハンドカウンター。ノータッチで得点する場面が多く見られた。

張本は準決勝の張禹珍(同15位・23歳)=韓国=戦の後に「フォアハンドの進化がここまで勝ち残れた要因」と自ら話していたが、まさにそのようであった。以前の張本はバックハンドを強みとしており、打点の早いバックハンドでチャンスを作るものの、パワーのある選手に中陣で粘られ、フォアハンドで打ち負けてしまう展開が多かったが、今回の大会ではそのようなことが全くと言っていいほどなかったのだ。

進化その2:相手に攻めさせる「後の先(ごのせん)」戦術

高速チキータが目立ちがちな張本のレシーブだが、今回は林の思い切った攻撃を封じるためのツッツキやストップも多用していた。
図:ラリーズ編集部

以前の張本はチキータや高速バックハンドで相手を圧倒する場面が多く見られ、常に攻める「超攻撃的」な卓球が目立ったが、今大会は、相手に攻めさせ、チャンスを伺いながら戦う「後の先(ごのせん)」戦術が目立った。

試合をご覧になっていた方は、相手のミスで勝っている。と見えたかも知れない。しかし張本はミスを誘うようなブロッキングプレーを密かに行っていたのだ。レシーブもチキータの数こそ減ったものの、相手に強く打たせないフォア前へのストップや、台からわずかに出ているツッツキを用いたり、サーブでも相手にゆっくりとつながせるために、ハーフロングサーブ(台で2バウンドするか、しないかギリギリの長さのサーブ)を繰り出していた。

張本はこのようにして林が仕方なくつないできたボールを見逃さず攻撃。一度相手に攻めさせてから打つ卓球も織り交ぜながら戦っていた。

相手より先に攻め、先手を取る卓球は、リスクを負わなければいけないことが難点だ。加えて、相手のレベルが上がれば上がるほど、攻め続けることは困難を極める。安定して勝つためには、相手の様子をうかがいながら戦える「後の先」戦術は不可欠であると言える。そして、この戦術は相手への心理的ダメージも比較的大きいと言える。攻めているのに得点ができない。という焦りを感じさせることができるのだ。

張本はこの「大人の卓球」とも言えるような戦い方で、終始リードを保ちながら優勝を飾った。しかしこの戦術の幅をたったの15歳で身につけているのは驚愕せずにはいられない。驚異的なスピードで進化し続けるこの少年から、ますます目が離せない。