文:ラリーズ編集部
Tリーグの見逃せない名勝負をラリーズ編集部独自の視点で解説する【T.LEAGUE 名場面解説】。
今回は10月19日のノジマTリーグ・琉球アスティーダVS岡山リベッツ戦。吉村真晴(琉球アスティーダ)と森薗政崇(岡山リベッツ)の試合にスポットライトを当てる。
吉村真晴は1stシーズンではT.T彩たまでキャプテンとして活躍し、チームを引っ張った存在で、今シーズンは琉球アスティーダへと移籍してプレーをしている。2012年の全日本選手権では、高校生ながら当時5連覇中だった水谷隼(木下グループ)を破って初優勝を飾る。
さらにその4年後の2016年にはリオ五輪代表として団体戦を戦い、日本の銀メダル獲得に貢献。また2017年世界選手権では石川佳純(木下アビエル神奈川)と組んだ混合ダブルスで優勝を果たし、ダブルスでもその非凡な才能を発揮している日本を代表する選手だ。
対する森薗政崇は1stシーズンに引き続き、岡山リベッツで活躍しており、今シーズンの開幕戦では張本智和(木下グループ)を破り、大きな波乱を起こした。その後も9月のパラグアイオープンでは男子シングルスと、外国人選手と組んだ男子ダブルスで優勝しており、今勢いに乗る選手の一人だ。
実力伯仲の両者の対決は接戦が予想されたが、結果は各ゲーム競り合いながらも吉村のストレート勝ちとなった。そこで今回は勝敗を分けた両者の“差”に注目していきたい。
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ノジマTリーグ 琉球アスティーダ 対 岡山リベッツ:吉村真晴VS森薗政崇
詳細スコア
〇吉村真晴 3-0 森薗政崇
11-8/11-10/11-4
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1.終始効き続けた吉村の代名詞・YGサーブ
写真:吉村真晴のサーブの配球/図:ラリーズ編集部
この試合で吉村はほとんどのサーブ時にYGサーブを森薗のフォア前に出し続けた。吉村のYGサーブはアップダウンサーブとも呼ばれ、サーブの上回転・下回転が非常にわかりにくいことで有名だ。
縦回転の変化がわかりづらく、チキータでの対応が難しいため、森薗は早い打点でストップレシーブをするか、横回転を利用して流しレシーブを余儀なくされた。チキータからラリーで畳みかけるプレーが持ち味の森薗としては自分の展開に持ち込めずに苦しい流れになったと言える。
しかし、どれほどわかりづらいサーブでもやがてはその変化に慣れて徐々に対応されてしまう。そこで吉村はまれに順横回転サーブをフォア前に出した。このサーブの狙いはYGサーブになれた森薗のレシーブの感覚を乱すことと、チキータをさせない、もしくはチキータの威力を弱めることにあると考えられる。
実際に吉村が順横回転サーブを出した際にその配球は、森薗のフォアサイドを切るコースかロングサーブに限られていた。森薗の得意な形でレシーブをさせないことを徹底し、ラリーに結びつけずに早い段階での得点に結びつけた。
2.徹底したバックでのレシーブ
写真:吉村真晴のレシーブイメージ/図:ラリーズ編集部
次にレシーブ時の吉村に注目しよう。一般的に右利き対左利きの試合では、ラケット面の角度を調整しづらいフォア前からミドル前にかけてサーブを出すのがセオリーだ。この試合でも森薗はセオリー通りのサーブで攻めた。
吉村はフォア前のサーブに対して、フォアレシーブに加え、バックハンドで回り込んでのチキータなど様々な技術でレシーブをする。森薗はフォア前のサーブはサイドを切って台から出るようなサーブを出し、吉村にチキータをさせない作戦を取る。それに加えて、フォア前に意識が向いている吉村のバックロングにサーブを出すのが森薗の基本的な配球だ。
それに対して吉村は1,2ゲーム目徹底してバックでレシーブをしている。特にチキータでレシーブする場合は、フォアレシーブでは捉えづらいボールの後ろ側を捉えやすいことがメリットとして挙げられる。ラケット面の角度を調整しづらいフォアレシーブではレシーブが甘くなりやすいが、チキータでは威力を出しやすく、先手を取りやすくなるのだ。
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まとめ
実力的ではスコア程には差がない2人だが、試合の命運を分けたのは細かいミスの差だったと言える。吉村のサーブは森薗のミスを誘いやすく、一方でレシーブではミスをしないように多少隙を作ってでも確実にバックでレシーブをする。
それに対して森薗のレシーブにはわずかな迷いが生まれ、自身のサーブからもなかなか得点に結びつかない。しびれを切らして攻め急いだ結果、森薗の小さなミスが重なったことが両者の差となったと考えられる。
ミスが増えた結果2ゲームを奪われた森薗は打つ手がなくなり、吉村はリスクを冒さずに3ゲーム目はフォアでレシーブし、次の打球に備えることもできた。
今回の試合はサーブ・レシーブの重要性を十二分に物語っており、レベルを問わずあらゆるプレーヤーに当てはまるものだと言える。トッププレイヤーに学び、自身のプレーに活かすことができるだろう。