文:ラリーズ編集部
Tリーグの見逃せない名勝負をラリーズ編集部独自の視点で解説する【T.LEAGUE 名場面解説】。今回は11月23日のノジマTリーグ・トップおとめピンポンズ名古屋VS木下アビエル神奈川の一戦から、第2マッチのハン・インと浜本由惟の試合にスポットライトを当てる。
2016年リオ五輪団体準決勝で、日本の前に立ちふさがったドイツ。団体戦のラストで福原愛を破ったのがカットマンであるハン・インだ。中国からの帰化選手で、世界ランキングは最高で6位まで登り詰めた実力者である。また、今年6月のヨーロッパ競技大会でシングルス準優勝を飾るなど、長年世界のトップで戦い続けている選手だ。
対する浜本由惟は、2016年世界選手権団体の代表選手でもあり、多彩なサーブとバランスの良い両ハンドドライブが特徴の選手だが、近年ではカットマンが苦手とする、回転があまりかかっていないスマッシュを多用するようになっている。
どちらが勝ってもおかしくない注目の1戦は、ベテランのハン・インに軍配。一見打ち込まれ続け、不利にも思われがちなカットマンだが、浜本への勝利の裏側にはベテランならでは熟練した3つのテクニックがあった。
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ノジマTリーグ トップおとめピンポンズ名古屋 対 木下アビエル神奈川:ハン・インVS浜本由惟
詳細スコア
○ハン・イン 3-1 浜本由惟
11-5/7-11/11-6/11-2
ハン・イン選手の知的なプレーはこちらから
1.深さを自在に操る変幻自在のカット
写真:カットの深さと高さの関係/図:ラリーズ編集部
試合はハン・インが1ゲーム目から安定感抜群のカットを見せた。対する浜本は堅実に回転量の多いループドライブで、ハンのミドルを攻める。
浜本のループドライブの回転量に対して、ハンのカットが浮いてしまうと浜本は一気にスマッシュで点を奪いに行こうとする。しかし、このスマッシュがなかなか決まらず、オーバーミスを連発してしまう。ここにハンの熟練の技があった。
通常カットが浮いてしまうと、ボールが高い分高い打点で強打を打ちこみやすい。しかし、例外もある。それは浮いたボールがコート深くに返ってきた場合だ。深く返されたボールは体勢が窮屈な状態で打たされることが多く、さらにラケット面の角度のコントロールが正確でなければならない。
同じ高さのボールでも浅いボールでは前に踏み込んで自分の打ちやすいところで、フルスイングをしやすい上に、上の図の通りコートに打ち下ろせる角度が大きい、すなわちボールを落とせる面積が広くなり、ミスをしづらいのだ。どんな強打でも基本的に深く返し続けたハン・インのナックルカットを打ち損じる場面が多くなったのだ。
すると試合の終盤では一転して、下回転が強くかかった浅い浮いたボール(=釣り球)で、浜本に強打を打てると思わせてミスを誘い、浜本のカット打ちを完全に狂わせた。この釣り球と、基本の深いカットを自在にコントロール選手は、カットマン自体がさほど多くない現代卓球においては脅威となるだろう。
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2.精度の高いカウンター攻撃
写真:ハン・インの浅いループドライブの処理/図:ラリーズ編集部
1ゲーム目を先取された浜本は、2ゲーム目以降ループドライブをフォア側の、よりネットに近い浅い位置に打つことで、ハン・インのカットを甘くした。前に揺さぶられたハンは次のスマッシュを返せず、2ゲーム目を奪われた。
しかし、ベテランのハンは3ゲーム目から浅いボールに対して、打点を落としてカットするのではなく、積極的にカウンターで得点を重ねた。バランスの良い両ハンドが持ち味の浜本の守りを崩すために、ハンが攻めたのはシェークハンドの弱点でもあるミドルであった。
ややフラット気味で回転が少ないカウンター攻撃に、浜本は反応するもラケット面が合わずに、ミスをすることとなった。
3.フォアへと誘導する横下回転ツッツキ
写真:ハン・インの変化ツッツキ/図:ラリーズ編集部
ハンのカットの変化を読み切れない浜本は無理に強打するのではなく、ツッツキでミスをしないようにつなぐ場面が増えた。しかしバックサイドへのツッツキではハンの表ソフトから繰り出される強打を止められず、ハンのフォアサイドへのツッツキが増えた。
そこでハンが工夫をからしたのは、ただのツッツキにも横回転を加えることだ。
こうすることには2つのメリットがある。1つは逆チキータ気味のバックツッツキの軌道が曲がるため、空振るリスクを恐れた浜本のドライブの威力を抑えることだ。このツッツキはコートにバウンドした後、浜本のフォア側へと逃げる打球になるため、浜本は身体から遠い位置で打球することになる。すると力を入れづらくなるため、打球の威力を抑えることができるのだ。
2つ目はこのツッツキを深く返すことで、ミスをしたくない浜本のドライブをフォア側へと誘導しやすいことだ。フォア側で山を貼ることで、より早いタイミングで打球準備をすることができ、それが次の質の高いカウンターやカット、ストップされた際に前に出る速さへとつながるのだ。
まとめ
プラスチックボールになり、ラリーが続くことで不利になったといわれるカットマン。それゆえカットマンという戦型を選ぶ選手が減少してきている。しかしこのハン・インの試合のように戦い方ひとつで、一転して対策を立てられる機会が少なく勝ちやすい戦型にもなり得る。
実際にこの試合でも、ただ打ち込まれた強打を返し続ける中にも様々な変化や駆け引きが詰め込まれており、まさに卓球の醍醐味が詰まった一戦だった。この熟練の技を持った選手は来るべき東京五輪でも日本にとって脅威として立ちふさがるかもしれない。