「怒る指導を一切やめた」"常勝軍団"日本生命、将来見据えた少数精鋭のジュニア指導 | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

写真:皆川顕一コーチ(ジュニアアシスト卓球アカデミー/貝塚第二中)/撮影:槌谷昭人

卓球インタビュー 「怒る指導を一切やめた」“常勝軍団”日本生命、将来見据えた少数精鋭のジュニア指導

2021.05.17

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Rallys編集長。学生卓球を愛し、主にYouTubeでの企画を担当。京都大学卓球部OB。戦型:右シェーク裏裏

Tリーグ女子3連覇を果たした日本生命レッドエルフには、赤江夏星(香ヶ丘リベルテ高2年)を筆頭に、由本楓羽(香ヶ丘リベルテ高1年)、篠原夢空(貝塚第二中3年)ら中高生がメンバー入りしている。

彼女らは、レッドエルフの下部組織、ジュニアアシスト卓球アカデミー(以後、ジュニアカ)に通う面々だ。強くなるために全国から集い、平野美宇、早田ひならトップ選手と同じ寮で生活し、日々腕を磨いている。特に赤江はシングルスで五輪銀メダリストのハン・イン(ドイツ)に勝利し、ダブルスでは8勝5敗をあげるなど、リーグ制覇に大きく貢献した。


写真:赤江夏星(日本生命レッドエルフ)/撮影:ハヤシマコ

「なぜ日本生命レッドエルフは強いのか?」。

その答えを探るには、強さの源とも言えるジュニアカを紐解く必要がありそうだ。

今回は、貝塚第二中女子卓球部監督を務め、ジュニアカコーチの皆川顕一氏に、日本生命におけるジュニア選手の育成について話を聞いた。


【皆川顕一(みながわ けんいち)】現役時代は、上宮高校から大正大学を経てグランプリでプレーし、インターハイ団体3位や全日学ダブルス優勝の実績を持つ。現在は、娘である皆川愛華・優香の通う大阪成蹊大学女子卓球部監督、ジュニアアシスト卓球アカデミーコーチ、貝塚第二中女子監督を務める。

中学生の指導で重要なことは「信頼関係」

――貝塚第二中の全国中学選抜2連覇おめでとうございます!

今回はジュニア選手の将来を見据えた指導法や貝塚第二中の選手たちの素顔をお伺いしたいと思っております。

皆川コーチ:ありがとうございます!よろしくお願いします。


写真:皆川顕一コーチ(ジュニアアシスト卓球アカデミー/貝塚第二中)/撮影:槌谷昭人

――まず、貝塚第二中の選手らを指導するとき意識している点はありますか?
皆川コーチ:選手たちは全国から貝塚に集まってきています。まずは信頼関係を作ることを一番に置いてますね。

1年生が入ってきたらコミュニケーションをとる。その子の性格や個性を理解した上で指導しています。

――全国から親元を離れてくるのも中学1年生にとっては大きい環境の変化だと思います。
皆川コーチ:やっぱり入ってすぐはお互い大変ですね。上からではなくて、同じ目線でやっていくことを意識しています。

また、成長期の女の子でもあるので、私ではわからないこともあります。そこは岸田聡子監督もいらっしゃるので、私が言いにくいことは女性である岸田監督に相談しています。


強面で少しビビってたのですが、お茶目な笑顔も見せる優しいお方でした

「怒る指導を一切やめた」スパルタ指導脱却のワケ

――皆川さんが指導する際、娘である皆川愛華・優香選手(大阪成蹊大学)への指導経験が活きていることはありますか?
皆川コーチ:そもそも娘たちを教えていたからか、男子の指導には声がかからないで、女子のところばかり声がかかりますね(笑)。もちろん村上監督とずっと一緒に女子選手の指導はやってきたのもあります。

そして、指導には、おっしゃる通り娘たちへの経験が活きています。


写真:全日本選手権では張本美和を下した皆川優香(大阪成蹊大)/撮影:ラリーズ編集部

――具体的にはどういうところでしょうか?
皆川コーチ:娘のときは正直、指導理論や指導方法はわからず、私が高校時代経験したようなスパルタ指導をしてました。

ただ、娘を見てると僕に怒られるからやっている。自主的ではなくてやらされている部分が多く見られました。


写真:皆川優香(写真左)と皆川愛華(写真右) 姉妹でベンチに入る試合も/撮影:ラリーズ編集部

――いわゆる“昔ながら”の指導ですね。でも皆川愛華・優香選手はそれで幼少期から多くの実績を残してきていますよね?
皆川コーチ:みんなよりも厳しく練習も多くしているので、小・中学校では勝てます。でもそこから先、勝つのがどんどん難しくなる。

僕がいつもメニューを考えていたので、僕がいないときにどういう練習をするかがわからない。子供たちにはもっと自分で考える力が必要だったんです。

「怒らずに指導して強くするのが指導者の役目だ」。そう村上監督に教わり、そこから怒る指導を一切やめました。今では娘に昔やってきた指導と真逆の方針でやっています。


過去怒っていた面影の一切ないこの優しい笑顔

――今までやってきた指導方法や理念をガラリと変えることは難しくなかったですか?
皆川コーチ:自分の中ではすぐに変えられましたね。もちろんご両親からお預かりしてるので、ダメなことはダメだと生活面ではたまには叱りますよ(笑)。

でも怒るのは自分もしんどかった。自分はずーっと怒ってるし、娘も僕に怒られるのが怖いから相談できない。

村上監督にも「負けて怒って選手にとって何になるんだ。負けたら怒るんじゃなく、次どうしようかというのが先。怒っても意味がないぞ」と言われました。これだけ強い選手を預かっている責任もありますし、自分も変わらなきゃいけないと思いましたね。

将来を見据えた少数精鋭の指導


写真:サードシーズンでTリーグデビューを果たした由本楓羽(写真左・ペアは赤江夏星)/提供:©T.LEAGUE

――少し話題を変えて、ジュニアカでは、将来を見据えた指導を心がけていると聞いています。具体的に意識しているところはありますか?
皆川コーチ:同年代のカテゴリだけに捉われずに、常に世界の最新の技術や試合の映像を見せて、「競った場面でも中国の選手は入れにいかず強気でいってるよ」など、常に少し上を見据えて子供たちには指導していますね。

でも女子はトップ選手を見ていると小中学生のときから実績を残した選手が上に行ってます。なので、ある程度の実績を残させてあげないといけないとは思っています。

――確かに今の代表選手たちも幼少期からみな“天才少女”と呼ばれていた気がします…
皆川コーチ:そのカテゴリばかりを意識してしまうと、五輪だったり世界だったりで勝つ選手を育てるのは難しい。ただあまりにも上ばかりを見てしまうとうまくいかない。

個人個人のレベルを考えながら、1つずつ課題を与えてクリアしていけるようにしています。


写真:皆川顕一コーチ(ジュニアアシスト卓球アカデミー/貝塚第二中)/撮影:槌谷昭人

――貝塚第二中は計6人の少数精鋭。だから個々人のレベルに合わせた指導ができるわけですね。
皆川コーチ:学年ごとに人数をしっかり絞って、必ず強化できる人数でやろうというのが村上監督の考えです。

その子を絶対強化できないと来てもらう意味がない。少人数でないと見られない選手も出てきてしまう。私もこの方針は本当に素晴らしいと思っています。

Tリーガーから二世選手まで 貝塚第二中選手の素顔


写真:篠原夢空(貝塚第二中)/撮影:ラリーズ編集部

――最後に皆川コーチから見た貝塚第二中のメンバーを簡単に紹介していただいても良いでしょうか?
皆川コーチ:まずは中学3年生の篠原夢空(しのはらゆら)。全日本カデットでもチャンピオンになっていて、本当に明るくて負けず嫌いな子です。チームの中でも一番明るい選手ですね。

同じく中3の上澤杏音(うえさわあんね)は、同級生の篠原とお互いライバルで競い合いながらやっています。4月からキャプテンとして責任感を持ってチームをまとめてくれています。すごく真面目でコツコツ型ですね。


写真:上澤杏音(貝塚第二中)/撮影:ラリーズ編集部

――同年代でもトップクラスの選手ですね。中2の選手もお願いします。
皆川コーチ:吉本はなは、北海道からきてまして身体能力がすごく高い。あとおそらく中学生の中では一番メンタルが強い子です。大事な場面でラストを任せられるのは彼女しかいないと思い、選抜でもラストに置いたら、見事期待に応えてくれた。普段は本当に明るい選手です。


写真:吉本はな/撮影:ラリーズ編集部

皆川コーチ:樋浦光(ひうらひかる)はカットマン。特に周りに気配りのできる子です。卓球でも選抜の準決勝で相手のエースに勝ってくれました。毎日頑張ってコツコツやるタイプの子ですね。


写真:樋浦光(貝塚第二中)/撮影:槌谷昭人

――新しくこの4月に入ってきた1年生の紹介もお願いします。期待の二世選手が2人ですね。
皆川コーチ:竹谷コーチの娘の竹谷美涼(たけやみすず)。これはもう大型新人です。彼女には世界や五輪を目指して、1年生で全中優勝を、というくらい期待の選手です。性格は本当に明るくてみんなと仲良くやってるので、貝塚には合ってると思います。


写真:2021年全日本ジュニアでの竹谷美涼(初喜TTC)/撮影:ラリーズ編集部

皆川コーチ:そして倉嶋杏奈(くらしまあんな)。倉嶋洋介現男子代表監督の娘です。現時点では正直まだまだですが、彼女も真面目で昼休みにみんなが休んでいるときに1人でサーブ練習したりして、目標に向けて頑張ってやっていますよ。


写真:倉嶋杏奈(貝塚第二中)/撮影:槌谷昭人

一見強面ながらも、内面は選手思い。皆川コーチは、指導理念を柔軟に変え、選手と目線を合わせて歩んできた。そこに貝塚第二中、ジュニアカの強さの一端が垣間見えた。


優しい笑顔で各選手の紹介をしてくれた

次回からは、皆川コーチの教え子である貝塚第二中メンバー6選手のインタビューをお届けする。

特集・日本生命レッドエルフ第1弾 森さくら、前田美優らのインタビュー


写真:日本生命レッドエルフメンバー/撮影:ハヤシマコ

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特集・日本生命レッドエルフ第2弾 なぜ日本生命は強いのか?

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