公立高校でインターハイベスト8入り 長野工業卓球部に潜入 強さの秘訣は"生徒をやる気にさせる指導方法" | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

写真:長野工業卓球部メンバー/撮影:ラリーズ編集部

卓球インタビュー 公立高校でインターハイベスト8入り 長野工業卓球部に潜入 強さの秘訣は“生徒をやる気にさせる指導方法”

2023.03.08

この記事を書いた人
Rallys副編集長。学生卓球を愛し、主にYouTubeでの企画を担当。京都大学卓球部OB。戦型:右シェーク裏裏

2022年のインターハイ男子学校対抗で公立高校で唯一ベスト8に入ったのが長野工業高校卓球部だ。2021年のインターハイでも強豪私立を下しベスト16に入っており、今回は1年前の記録を更新し、ランク入りを果たした。


写真:インターハイでベスト8に入った長野工業卓球部/撮影:ラリーズ編集部

長野工業は公立高校のため、スポーツ推薦もなければ寮や充実した設備の練習場があるわけではない。選手は全員自宅から通い、夏は30度を超え、冬は氷点下という練習環境だ。


写真:取材時も校門前には雪が残っていた/撮影:ラリーズ編集部

それでも全国ベスト8という堂々たる成績を残せた理由を探るべく、2023年2月、氷点下の中練習している長野工業卓球部の練習場にお邪魔し、チームを率いる塚田博文監督に話を聞いた。

高校から卓球を始めて教員に


写真:塚田博文監督(長野工業高) 長野県の公立高校で卓球部を率いて35年 長野工業が4校目となる/撮影:ラリーズ編集部

――長く卓球を指導されてきていますが、塚田監督はいつ頃から卓球に携わっていらっしゃるんでしょうか?
塚田博文監督:私は、小中と野球をやっていましたが、中3で膝を故障し、野球を断念しました。

真剣に卓球をやっている人には申し訳ないですが、楽なスポーツはないかなと考え、すぐに卓球が頭に浮かび、高校から卓球を始めることになりました。


ちなみに取材した私、山下も全く同じ理由で高校から卓球を始めました(中学も野球部というのも一緒)

塚田博文監督:高校時代の顧問の先生は練習にはほとんど顔を出すことなく、生徒だけで毎日適当にやっていました。

それでも大会で負けると悔しく、もっと練習をしっかりやろうと思ってはみるものの、当時参考にしていたのは卓球レポートのみで、そこに掲載されている細切れ写真が、唯一の教科書でした。ですから、全国の舞台というのは、想像すらできませんでした。


写真:長野工業卓球部の練習場/撮影:ラリーズ編集部

――そこから教員となり、卓球の指導者になられたんですね。
塚田博文監督:運良く長野県の教員採用試験に合格し、初任校から卓球部の顧問に就くことができました。

そこで「全国大会に出場したいです」という、やる気のある選手に出会い、自身では程遠かった全国の舞台に、指導者として生徒を連れていきたいという気持ちが徐々に沸き上がり、今に至っています。

伝統校・松商学園に勝利できたワケ


写真:インターハイでアドバイスを送る塚田博文監督(長野工業高)/撮影:ラリーズ編集部

――教員生活35年ということですが、これまでの指導実績もお伺いさせてください。
塚田博文監督:長野県は中野和茂先生率いる松商学園が、他を全く寄せ付けない王道を走っていましたので、打倒松商という目標を掲げずっとやってきました。ただ、チーム力がついてきたなと思っても決勝で松商に跳ね返されるという繰り返しでした。


写真:レギュラーメンバーの練習の様子/撮影:ラリーズ編集部

塚田博文監督:初任校と二つ目の学校では、個人戦でインターハイの切符を掴むことができましたが、団体では、松商の牙城を崩すことはできませんでした。

3校目の長野商業でようやく21年連続優勝していた松商学園を倒すことができ、2年連続優勝。長野工業では現在3連覇中で、インターハイでは昨年ベスト16、今年はベスト8に入る事ができました。


写真:インターハイベスト8に入った長野工業/撮影:ラリーズ編集部

――21連覇もしていた伝統校に勝利できたのはどういうきっかけがあったんでしょうか?
塚田博文監督:長年福井商業の監督を務めておられました安田憲二先生との出会いが大きいです。

先生とは20年以上お付き合いをさせていただき、何度も福井商業に通わせてもらいました。先生が退職後は長野に何度もお越しいただき、技術指導はもちろん、生徒をやる気にさせる指導方法について、昼は練習場で、夜は居酒屋でお酒を飲みながら、教えていただきました。

先生は、4年前にご逝去されてしまいましたが私が最も尊敬する方で、先生との出会いなくして、この結果はありえません。今回の全国5位という結果は、天国で喜んでくれていると思います。


写真:塚田博文監督(長野工業高)/撮影:ラリーズ編集部

――選手をやる気にさせる指導方法とは、具体的にはどんなことですか?
塚田博文監督:生徒自身に考えさせること、生徒の自主性を尊重することです。

他人に迷惑をかけることをすれば厳しく𠮟りますが、それ以外は、良かった点を見つけ褒めることを意識しています。

また、PDCAサイクル、Plan(目標に向け計画を立てる)、Do (実際にやってみる)、Check (どれだけ向上できたかを確認する)、Action (改善点を整理し次につなげる)を心がけており、毎週月曜日はミーティングを行い、個々のチェックと、チーム全体のチェックをお互いにしています。


写真:練習中も選手に問いかける場面が多く見られた/撮影:ラリーズ編集部

公立高校ならでは苦労


写真:選手に話しかける塚田博文監督(長野工業高)/撮影:ラリーズ編集部

――公立高校で指導をする中で大変なことはどんなことですか?
塚田博文監督:公立高校には転勤がありますし、卓球部の顧問をやりたくてもその学校に卓球部が無いこともあります。

あっても軌道に乗るまでには2~3年がかかり、ようやく軌道に乗ってきたなと思ったら、転勤を命じられるという繰り返しです。

公立高校には、苦労されている先生が多いと思います。ただ、私は幸いにも初任から今に至るまで卓球部のある学校に務めることができ、35年間楽しい教員生活を送っています。

――長野工業に転勤した当時はどうだったんでしょうか?
塚田博文監督:本校に赴任した当初は、県大会に行けるかどうかも微妙なチームでした。

水銀灯が半分以上切れた薄暗い練習場で、雨が降れば天井からの雨漏れがあり、卓球台はすべてボロボロ、窓ガラスも何枚も割れている状況でした。

学校に掛け合っても予算がないと一蹴されてしまう始末でしたので、先ずは自腹で卓球台を2台買い、さび付いたドアのペンキ塗りや床のワックス掛けを生徒と一緒にやり、少しずつ環境を整備していきました。

今でも空調設備こそありませんが、長野県の公立高校では、一番良い環境になったと思います。


写真:長野工業高卓球部の練習場/撮影:ラリーズ編集部

「周りから応援されるチームになろう」

――監督としては日頃からどういうところを意識されていますか?
塚田博文監督:生徒には、『周りから応援されるチームになろう』と常に言っています。

それには、親や仲間への感謝の気持ちが大事であること、勉強や掃除、挨拶といった当たり前のことを当たり前にできる人間になることが大切だと生徒に伝えています。

また、卓球という競技は、大会や練習試合などを通じて、出会いのチャンスが多い競技です。卓球を通し、お互いに理解しあえる仲間をたくさん作ってほしいと思っていますので、そのような機会をできるだけ提供したいと思っています。

――高校卓球部の監督としてもそうですし、務めていらっしゃる全国高体連卓球専門部事務局長としても今後卓球界がどうなることを期待しますか?
塚田博文監督:高体連卓球専門部は90周年を迎えることができました。

現在、文部科学省が中心となり、学校部活のあり方について議論がなされ、今後部活動が急速に変化していくことが予想されます。

専門部としては、卓球を愛する高校生たちがより充実した活動を行えるような、環境整備にも力を注いでいきたいと考えます。そして、卓球界が益々発展していくよう、日卓協とも協力して事業を進めていきたいと思います。


写真:長野工業卓球部のメンバー/撮影:ラリーズ編集部

取材動画はこちら

動画では塚田博文監督のインタビューに加えて、インターハイベスト8に入ったレギュラーメンバーの対談もありますので、ぜひご覧ください!

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