【森薗政崇】「絶対に辞められない」ルーティンとは?

世界で戦う卓球アスリートを追う 森薗政崇編 第4回


文:武田鼎(ラリーズ編集部),写真:伊藤圭

2017卓球世界選手権ドイツ大会、男子ダブルスで銀メダルを獲得した森薗政崇・大島祐哉ペア。決勝で惜しくも敗れたものの、銀メダル獲得は「48年ぶり」という快挙を達成した。また、8月のユニバーシアードでもシングルス二連覇、ダブルスとの二冠を果たした。

本連載では森薗政崇の軌跡を追う。第4回はそのメンタルに迫る。

第1回:「恐怖のオヤジの指導」1日7時間以上の練習…「俺は卓球マシーンか!」
第2回:エース水谷との激闘で挙げた64年ぶりの快挙 そして「ゾーン体験」
第3回:2年前のトラウマを超えて。卓球森薗・大島ペア、「卓球の閃き」とは

アスリートと音楽、森薗が「必ず聞く1曲」とは

音楽とアスリートは密接な関わりがある。2000年のシドニー五輪、女子マラソンで高橋尚子がスタート直前にhitomiの「Love2000」を聞いていたのは有名な話だ。他にも体操・内村航平がヒップホップ歌手の「AK-69」の曲の「Flying B」を聞いて自分を奮い立たせるという。

森薗も他のアスリート同様、試合会場に入る直前、決まって聞く曲がある。クラブ音楽のPitbullだ。中でもお気に入りはPitbullの代表的な一曲『Rain Over Me』だ。アップテンポなビートと激しいクラブサウンドが織りなすこの曲は、こんな歌い出しで始まる。

Girl my body don’t lie. I’m outta my mind.
(俺の体は正直だ。いかれちまったぜ…)

情熱的な歌詞だが、森薗は歌詞に惹かれるわけではない。

歌詞は何言ってるかわからないっす。でもそれがいいんですよ。とにかく単調なビートがズンズンって。それが落ち着く」。

中学からPitbullを聞くのが森薗のルーティンだ。ちなみにiPhone純正の白いイヤフォンを使うことも森薗が決して変えない「こだわりのひとつ」だ。

だが一度プレーに入ればPitbullに負けないほどの情熱的なプレーを見せる。森薗は卓球日本代表の選手の中でも珍しいほど感情をむき出しに相手にぶつかっていく。卓球選手の独特の「掛け声」は自分を乗せ、相手を威嚇するためとも言われる。だが、森薗の「ショーイ!!!」という声は福原愛の「サー!」とも張本智和の「チョレイ!!」とも少々異なる。

自分が挙げる一点一点が誇らしい。スタンドにアピールして観客も自分も乗せる。そんな“咆哮”だ。事実、森薗は自分の掛け声を「見どころの一つ」と自認している。

卓球はメンタルのスポーツと言われるからこそ森薗は精神面のケアに人一倍気を配る。2017年ドイツ大会、森薗の“メンタルの戦い”は渡独前から始まっていた。森薗にとって世界選手権は並々ならぬ意気込みを持って臨んだ大会だった。ペアの相手である大島と2年前の蘇州大会でのリベンジを果たすことを誓っていたからだ。

練習しても練習しても襲ってくる不安

48年ぶりのメダルをーー!大会直前、森薗は「入れ込みすぎている」状態だった。

赤羽のトレセン(味の素ナショナルトレーニングセンター)では一カ月前から缶詰です。1日8,9時間は卓球。卓球が嫌になるほど頭も体も追い込まれるんです。その上トレセンでは衣食住すべて賄われるから外出の必要もない」と言う。「1日9時間練習しても毎晩毎晩追い込まれていくんです。『自分は果たして強くなっているのか』って」。

不安にとらわれればさらにどツボにハマっていく。邪念を振り払うためにさらに練習をこなし頭を無にしていく日々が続いた。

いつしか森薗は8,9時間の練習後、人知れずランニングを行うようになっていた。

赤羽から板橋まで、ただ走るんです。大体8kmから10kmくらいかな。昨日よりも少しでも遠く、少しでも長く。すると『昨日より成長した』って安心するんです」。

それでも眠れない夜はメンタルコーチに電話をして眠くなるまで話すことにしている。時には2時間近くにおよぶこともある。

出発の準備も念には念を入れる。

試合で履くパンツは全部同じ。だから同じパンツを何十枚も持ってるんです」というこだわりようだ。「卓球選手の中でもめちゃめちゃ験を担ぐタイプです」と苦笑いをする。

エース水谷も注意する 森薗の「長いルーティン」

試合会場に入ってから、森薗の「験担ぎ」は本番を迎える。

試合前の練習のアップが終わった後に、決まったストレッチをして、決まった激しい動きをします。その後にウィダーインゼリーの青色を飲んで、アロマを嗅ぐ。最後にめっちゃ激しく大きくシャドープレーをして、しこを踏んで、一回座って落ち着いてから試合にいくんです」。

この順番が変わることは決してない。さらに卓球台に立つ直前、中腰になって両足を数度軽く足踏みして構えに入るのも「無意識のルーティン」だ。

あんまりこだわりすぎんなよ。負けるときは負けるんだから」日本のエース・水谷隼からそう注意を受けることもある。だが「中3からずっと決めてやってることだから。やらないと落ち着かないんです」。冒頭の音楽もイヤフォンも森薗の長い長いルーティンの儀式の一環なのだ。

卓球の試合では開始20分前にラケットを提出することが義務付けられているが、森薗はこの長いルーティンをすべてこなすため、30分前に提出している。ここまで森薗がルーティンにのめり込むのにはある理由がある。

僕の武器はチキータなんですけど、それもすぐに研究されて追いつかれてしまいます」。

卓球の世界は日進月歩だ。もしかしたら相手は自分を研究し尽くしているかもしれない。ならば気持ちで競り負けることだけはしたくない。そんな森薗の思いがルーティンを生み出した。

21歳にして挑戦者から「挑まれる」立場へ

ちょうど森薗にインタビューした日は将棋界で藤井四段の29連勝がかかった対局が行われている日だった。同じく前途有望な競技者として何を思うのか。すると帰ってきたのは意外な言葉だった。

僕は藤井四段よりも、(対局相手の)19歳の増田四段のコメントがやっぱりすごいなと思っていて。増田さんは『藤井四段が勝ちすぎている現状があり、「将棋界はぬるい所」と思われるのは悔しいです。力勝負に持ち込んで攻め勝つ』と言っていて。そのコメントを見てまさに今の僕と一緒だなと思っていて

21歳の森薗。すでに挑戦者という意識はない。若い世代に挑まれる立場へ。2020年、東京五輪の年は森薗は24歳、まさに心技体が円熟する年齢だ。その時森薗はどんな顔で台の前に立つのか。きっと長いルーティンは欠かさずこなしているに違いない。

撮影協力:Shakehands

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