取材・文:川嶋弘文(ラリーズ編集部)
現役時代に岸川聖也、水谷隼らとともにドイツで腕を磨いた坂本竜介(さかもとりゅうすけ、T.T彩たま監督)は「今度は恩返しする番。ヨーロッパの若い選手を日本で育てる」と意気込む。
鶴の恩返しならぬ、“竜”(りゅう)の恩返しだ。
Tリーグで試合をこなす海外選手が国際大会で活躍しつつある現状を坂本氏はどう見るのか?
>>第3話 今だから言える“オーダーの意図” Tリーグ史上ベストゲームの裏側
Tリーグに来た海外勢が世界で活躍している
ーー以前のインタビューで、海外の若い選手を日本で育てて恩返しするとおっしゃっていました。進捗はいかがでしょうか?
坂本竜介監督(T.T彩たま、以下坂本):Tリーグ全体が世界に影響を与えている。昨シーズンから岡山リベッツにいる林昀儒(チャイニーズタイペイ) は世界ランク6位まで上がって来てる。
うち(T.T彩たま)で言えばピッチフォードも3月のカタールオープンで世界ランキング1位の許昕(シュシン・中国)を倒した。Tリーグはレベルが高いから、参加することできっかけを掴むこともあるだろうし、得るものは大きい。経験値が一気に上がるイメージがある。
写真:ピッチフォードはカタールオープンで決勝進出を果たした/提供:ittfworld
ーー海外勢を直接指導される際には、坂本さんは、どんなことを伝えられるのですか?
坂本:例えば17歳のトルルス(モーレゴード、スウェーデン)は4試合出て2勝2敗。結果はまずまずでしたが、やっぱりまだ子供。
ヨーロッパ選手ならではの気性の粗さがあって練習の時からイライラしやすかった!毎日それの繰り返しでしたね!
でもそれはそれで成長する途中なんで、僕が彼に告げたのは「若いってのは通用しないよ、君はプロ選手でお金をもらってるんだから。じゃあ張本は?林昀儒は?君と同い年でここまでやってる。君には才能があるのに」というふうに毎日会話して、一緒に飯食って。
本人はわかってるんです。ちゃんとわかってる。わかってるけど、1球1球すべて完璧を求めるから腹が立つんだと言う。「馬鹿言ってるんじゃないよ、完璧なんかあるわけないだろう。そんなに気にするな」っていう会話を毎日してる。
でも彼は持ってるものはすごいですからね。カタールオープンでも方博(中国、元世界選手権2位)に勝ってたし。だからまあ、面白いんじゃないですか。ヨーロッパの若手は他にもういないので。だから彼が強くならないとヨーロッパがもうやばいって状況なので。そういう意味では日本のTリーグでやれるっていうのは彼にとってかなりメリットがあると思いますよ。試合に出られないのはまあ悔しいでしょうけど。でもそれは自分で勝ち取るものなので。
海外選手とはコミュニケーションが全て
ーー試合のために来日している海外選手を使わないこともある。厳しい世界ですね。
坂本:そういう意味では僕はものすごいシビアですよ。外国選手が来たからって使おうとかは全く無いので。ピッチですら平気でシングルス外すし。
例えば、琉球とやったときにカットマンが来るからってピッチフォード外したことがあります。ピッチがカット打ちできれば使うだけの話なんですけどね、できないから使わないだけの話。「君がカット打ちできないからしょうがないでしょ」と。平等に適材適所で勝つ選手を使うということをしてきたので。
写真:坂本監督から指導を受けるトルルス・モーレゴード/撮影:保田敬介
意外と他のチームはわかりやすいんですよね。海外選手来てたら絶対出るね、とかわかる。それでオーダーが組めるけど、うちの場合はそれをしない。海外からわざわざ来てるから出すという考えは無い。そうじゃないと他の日本人選手にも失礼じゃない?一生懸命やって成績上げて。成績いいのに海外選手が来たからって、より成績良い選手を出さないっていうのは僕は間違っていると思うから。
プロの世界は椅子取りゲームですからね。
ーー実績のある選手をオーダーから外すのは大変では無いですか?
坂本:でもそれは本人に全部話します。「いまはこうなってるから君はシングルスにだせない」と全部話をしますね。個別にです。やっぱりコミュニケーションがすべてなので。
話をして自分が出られない理由を明確に伝えてあげて。「ただ来たからって出すってのはただの甘えだし、君のためにならない」「この相手とやった時に君と神や健太だったらどっちの方が勝てると思う?」って聞くと自分でもわかってるわけですよ。
そういう話をちゃんとする。だから試合を離れれば関係なく仲良くできる。そして来シーズンも来たいって言ってくれる。
トルルスも最後3試合外されたけど、それでも来シーズンも来たいと言ってます。どれだけ会話をするかってことがすべてじゃないですかね。
(第5話「ビジネスでも成功する」 坂本監督が語るジンタク急成長のワケ に続く)