近年の学生卓球界において、この4年間で一気に実力を伸ばした女子選手がいる。
中央大学4年・森田彩音だ。
2019年の全日本大学総合卓球選手権大会(以下、全日学)では女子シングルスで初優勝し、Tリーグではトップおとめピンポンズ名古屋(以下、トップ)に所属し、ファーストシーズン年間MVP・早田ひなにも勝利した。
そんな彼女に、2ndシーズン最終戦直後にインタビューを敢行。初参戦のTリーグでの戦いを振り返りながら、大学で実力を開花させた要因について話を伺った。
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早田にも勝利! 飛躍につながったTリーグでの経験
写真:森田彩音/撮影:ラリーズ編集部
2ndシーズンからトップに加入し、Tリーガーデビューを果たした森田は、シングルスの成績は4勝9敗と悔しさが残るものの、ダブルスでは5勝4敗と勝ち越しに成功。初参戦ながらチームに貢献した。
今シーズンを振り返って、「日本トップ選手や海外の強豪選手と対戦する中で、はじめはすごく不安だった」と吐露した。それでも「勝ちにいかないと勝負にもならない。どうやったら得点できるのかを考え、メンタル面でも気迫負けしないようにいつもより声を出すようになった」と気持ち面での変化を感じている様子だった。
写真:Tリーグでの森田彩音/撮影:ラリーズ編集部
印象深い試合として森田は、やはり昨年9月1日の日本生命レッドエルフ・早田戦を挙げた。フルゲームの末に破って一気にブレイクを果たしたことは記憶に新しい。この一戦を「失うものはなく思い切って向かっていくだけだった」と振り返った。
また、トップには同じ中央大の3年・山本笙子、2年の梅村優香、そしてコーチに同大女子卓球部監督の矢島淑雄氏がいたことも、森田にとっては大きかったようだ。
「やはり同じ大学の選手やコーチがいたことで、気負うことなく、普段通りに試合することができた。仲間の存在に加えて、裏方として支えてくれたスタッフ、応援してくれるファンの存在が本当にありがたくて。その方々のためにも頑張りたい、という気持ちがすごく出てきましたね」。
写真:ベンチと喜びを分かち合う森田彩音/撮影:ラリーズ編集部
大学の試合では経験のなかった体育館を埋め尽くすファンの声援や、周りのからの支え。Tリーガーになり一気に背負うものが増えたが、それを受け止め、学びや成長に繋げていった森田。大舞台での経験は彼女を選手として大きく飛躍させた。
「卓球を辞めようと思った…」結果が残せず苦しんだエリアカ時代
写真:森田彩音/撮影:佐藤主祥
5歳から卓球を始めた森田は、中学からは地元を離れ、JOCエリートアカデミー(以下、エリアカ)に所属し、厳しい練習漬けの日々を送った。
しかし、ここで人生初の挫折を経験する。「エリアカに入ってからは全然結果が残せなくて…。本当に卓球を辞めようと思ったんです」。
一度、卓球用具を置こうとまでした。だが、母の一言によって森田は再びラケットを強く握り、コートへ向かい始めた。
「母から『練習させてもらえるんだったら、最後までちゃんと頑張りなさい』と言われて。今辞めても、どちらにしろ中途半端で終わっちゃうし、だったら最後までやろうと思ったんです」。
諦めることなく、高校卒業までエリアカで卓球に打ち込んだ森田。その名の通り、卓球界のエリートが集まる強豪チームに揉まれながら、着実に成長を遂げていった。
全日学女子単でリベンジ優勝。父との約束果たす
写真:森田彩音(中央大・写真は全日学時)/撮影:ラリーズ編集部
高校卒業後は中央大学に進学し、女子卓球部に入部した。しかし、厳しい練習環境の中で競技生活をやり遂げた達成感とともに、解放感も感じていた森田。それにより、大学1年目はプライベートに時間を割くことが多くなっていたという。
「練習時間を終えたらすぐに帰って、お買い物に行ったり、純喫茶巡りをしたりと、プライベートの時間を堪能していました(笑)。少し結果が残せなくなって、親から『だったら、大学辞めなさい』と怒られました。そこでピシッと気を引き締め直したんです」。
再び真剣に卓球と向き合い始めた森田は、全日学や関東学生で結果を残し始めた。
そして、2018年10月の全日学で、卓球人生のターニングポイントが訪れる。安藤みなみ(当時・専修大)に敗れたものの、シングルスで準優勝を果たしたのだ。
「シングルスでは大きな成績を残していなくて、正直、決勝に進めたことにすごく驚いた。なんかフワフワして地に足が着かないまま終わってしまった。だからすごく悔しくて来年は絶対に優勝しようと決心したんです」。
写真:全日学で矢島淑雄監督(写真右)のアドバイスに耳を傾ける森田彩音/撮影:ラリーズ編集部
その中で迎えた2019年の全日学。森田は大会前に「どんな結果でも自分の意思を最後まで貫く」ことを決めて試合に臨み、リベンジの舞台である決勝戦のステージへ駒を進める。
決勝の相手はまさかの中央大の後輩・山本だったが、4-2で勝利し、念願の全日学女子シングルス初優勝を果たした。
写真:森田彩音(中央大学)/撮影:ラリーズ編集部
「今まで父がずっと(卓球を)教えてくれて、正直、口うるさかった(笑)。でも『大学まではうるさいかもしれない。だけど大学までだから、我慢して聞いてほしい』と言われて。『全日学で絶対に優勝しよう』と約束していたので、最後に果たせて嬉しかったです」と幼少期から支えてくれた父に感謝の気持ちを示していた。
大学で「楽しい卓球」を見つけ、次の舞台へ
写真:森田彩音/撮影:佐藤主祥
エリアカ時代は強豪ゆえに大きなプレッシャーを感じ、伸び伸びとプレーができずにいた。
だが中央大では「卓球がすごく楽しくなった」と語る森田。自由な時間が増えると共に心のゆとりもでき、真っ正面から卓球と向き合うことができた。その先に「楽しい卓球」を見つけることができたのだ。
「高校までは『卓球なんて大学4年間で絶対に辞めてやる!』って思っていた。でも中央大に入ってから楽しさを感じられるようになったことは、選手としても一人の人間としても本当に大きかった」。
大学卒業後は実業団チームに入り、今後も卓球を続けていくという。
「新人らしく、元気のあるプレーでチームを盛り上げていきたい」。
つらさを乗り越え、楽しさを見つけた。次の舞台では、どんな表現の卓球を見せてくれるのだろうか。彼女のプレーが、今後も楽しみで仕方がない。