「45歳まで卓球続ける」 ベテラン吉田海偉、"長寿"の秘訣は家族の支え<後編> | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

写真:吉田海偉/撮影:伊藤圭

卓球×インタビュー 「45歳まで卓球続ける」 ベテラン吉田海偉、“長寿”の秘訣は家族の支え<後編>

2020.04.28

取材・文:武田鼎(ラリーズ編集部)

現在38歳、東京アートで活躍する吉田海偉。今年度は実業団がしのぎを削る日本リーグで、5タイトル中4タイトル獲得に貢献した。ベテランになってなお最前線で戦い続ける吉田の現役を続けられる秘訣はどこにあるのか。

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“シャドー卓球”で張本戦をシミュレーション

今年度の東京アートの好調ぶりについて「吉村和弘も加わって、本当にチームも良くなった。自分も3年目になってようやく貢献できたって感じはする」と吉田は振り返る。

現在38歳、現役プレーヤーとしては、ベテランの域に差し掛かっている。日々、衰えゆく肉体との戦いだ。そのために肉体のメンテナンスだけは欠かすことはない。


写真:吉田海偉/撮影:伊藤圭

「怪我するのはやっぱ怖いですよ。ストレッチとかは、誰よりも早く、昔は20分、そのあとどんどん年齢を超えると30分、40分とか。練習の前、練習の後、また午後の練習の前、練習の後、一日4回やるんですよ」。

準備運動をしっかりとこなせば、あとは最高のパフォーマンスを出すだけだ。38歳だろうが、台を挟めば年齢は関係ない。吉田は卓球選手を見ると自分ならどう戦うか、頭の中でシュミレーションする癖がある。根っからの卓球小僧なのだ。


写真:脳内で対戦をシミュレーションする吉田海偉/撮影:伊藤圭

では張本智和が相手なら…?そんな質問をぶつけると、吉田の頭の中で、シャドーボクシングならぬ、シャドー卓球が始まった。「絶対張本選手に勝てないってことはない。勝つ自信あるんです」と吉田節が炸裂する。カギは希少種・ペンホルダーという吉田の戦型だ。「多分、俺のボールはやりにくいと思うよ。自分のボールに慣れられたら厳しいけど、やったことないから」。途端に目が卓球少年のように輝きを帯びる。

取材中、頭の中では張本の攻略が始まっていた。「バックはみんなシェイクハンドは伸ばす回転。相手はカッと当てれば入るんですよ。でも自分のバックはナックル系です。カッと当てても自分でしっかり回転かけないと落ちるんですよ。俺とやるのはやりにくいよ、きっと」。そう簡単に若手に道を譲るわけにはいかない。

でも「張本選手が慣れてきたらやっぱりやばいかな…」と頭をかく。この日の勝負は引き分けに終わったようだ。

長寿の秘訣は家族の支え

いつも負けん気が強い吉田だが、今でも悔やむ試合がある。2011年のスウェーデンオープンで当時16歳のシモン・ゴジ(フランス)相手に1回戦負けを喫してしまったのだ。

「考えてみてもほんとに馬鹿なんだよ。俺、しかも負けた相手はフランスリーグ出てた時同じチームですよ。あいつまだその時は可愛くて、チームメイトなんですけど、こいつ、俺負けないっしょと。まさかな、0-4で負けちゃった」。当時はロンドン五輪を目前に控え、丹羽孝希か吉田海偉のどちらを選ぶか、といったギリギリのところだった。結果、選ばれたのは丹羽孝希だった。


写真:吉田海偉/撮影:伊藤圭

その後、吉田は33歳からポーランドでの修行に身を投じる。卓球の古豪として名高い東欧の地でプロとしてどこまで通用するか試すべく、6年の間、参戦し続けている。だが、慣れぬ土地に妻と子供を残しての単身赴任は寂しかった。「ポーランドにいる時だったな。毎日夜になると。もう日本帰りたいな、ご飯は一人。辛いよ。“俺この歳で何やってんだよ、何のためにやってんだよマジで”って。」

15歳のときに日本に単身来日したときとは何もかもが違う。「あのときはとにかくバカみたいに強くなりさえすればいいって思ってた。シンプルだったんだよね。でも大人だから色々考える。自然に考えちゃうんですよ」。

辛い時、実は吉田の心の支えになっているのは卓球選手だった妻の小西杏さんと7歳になる娘だ。「もし一般人と結婚してたらもう引退してたと思う」というほど、小西さんに信頼を寄せており、試合になればベンチコーチとして小西さんが入ることもある。


写真:指には結婚指輪が光る/撮影:伊藤圭

かつては福原愛さんのダブルスパートナーも務め、世界ランキング20位に入り、シドニー五輪にも出場した小西さん、ひとたび卓球選手の顔に戻ると吉田相手にも容赦なしだ。「だって今年の全日本でベスト16に入ってもね『それで満足なの?いつも私が子供の面倒見てるし、卓球場も私やってる、君のことも私やる、ただのベスト16?そしたら私も現役やりたいよ、お前がやれよ』って言われるんすよね」。心の支えでもあり、鬼コーチでもある。今なお吉田が現役を続けられる要因の一つは小西さんであることは間違いなさそうだ。

吉田が現役を続けるもう一つの理由がある。それが7歳になる娘だ。「足が長いんですよ、自分に似てるんです。背も多分大きくなる。この子、超元気、明るい」と親バカな顔を見せる。

「俺ね、45歳まで卓球続けるの。そしたら7年後だから14歳か。そうしたらミックスが組める」。きっとそのベンチには小西さんが座っているだろう。「そうしたら最強の家族じゃない?」と嬉しそうに語ったのも束の間、「多分、いや、絶対奥さんに怒られる。アウェイだわ(笑)!。相手に負けないけど、奥さんと娘に負ける(笑)。その時には超メンタル鍛えないといけない。頑張らないと」。


写真:吉田海偉/撮影:伊藤圭

2027年の吉田は、もとい吉田家はどんなプレーを見せるのか。38歳にして進化を続けるこの男の7年後が楽しみだ。

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写真:東京アートメンバー/撮影:伊藤圭

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(取材:3月上旬)