写真:札幌大学女子卓球部を支えた4年生 左から大室奏子、濱口采花、石井美紗、三浦祐依/撮影:ラリーズ編集部
卓球インタビュー 部員ゼロから4年間で道内1敗の強豪に “雑草軍団”札幌大女子卓球部復活物語
2020.11.30
「北海道の歴史を塗り替える」を合言葉に北海道卓球界を熱くしているのが札幌大学卓球部だ。特に女子部は道内大学主要大会の4年間で「団体戦通算1敗」という圧倒的な成績を残している。
そんな札幌大女子卓球部だが、実は2016年の時点では部員がおらず廃部状態だった。そこから道内屈指の強豪校になるまでを、女子部復活1期生として3年半主将を務めた濱口采花(4年)と部を率いる藤倉健太監督に聞いた。
札幌大女子卓球部の団体戦での無類の強さは、濱口たち1期生の「大学卓球で一花咲かせたい」という“雑草魂”によって創り上げられていた。
>>第1話 廃部寸前だった札幌大卓球部が道内トップの強豪に返り咲いたワケ
北海道インカレを機に女子卓球部が復活
札幌大学卓球部に藤倉監督が就任したのは2016年。偶然にも翌年、北海道で全日本大学総合卓球選手権大会・団体の部(以下、インカレ)の開催が決まっていた。就任後、藤倉監督は、廃部状態だった女子部を復活させ、北海道インカレ出場を目指すべくスカウティングを開始。すぐに進学を決めたのが濱口だ。
濱口は、世界選手権ダブルス3位の佐藤瞳(ミキハウス)を輩出した札幌大谷高校出身で、2017年4月の入学から2020年9月まで女子卓球部を主将として率いた。
写真:女子卓球部前主将の濱口采花(4年)/撮影:ラリーズ編集部
「藤倉さんが札幌大谷に(プレーヤーとして)よく練習に来ていて、女子部を創立するから来ないかとお話をいただきました。創部1年目なので一から色々できると思って」濱口は当時の決断の理由を明かす。
その後、同じ志を持つ同期が集まり、新たなチームを創り上げることとなった。
「練習メニューはもっとこうしたら良いんじゃないか」「前の大会はここが悪かったから多球練習を多めにしよう」「今日はゲーム練習を多くしよう」。同期からは様々な意見が飛び交った。濱口は「全員の意見を監督と話しながら共有していくのが自分の役目と思ったので、コミュニケーションを大事にした」と活発な対話を軸にチームをまとめあげた。
写真:札幌大学女子卓球部を支えた4年生 左から濱口采花、石井美紗、三浦祐依、大室奏子/撮影:ラリーズ編集部
「ずっと心がけてるのは、選手に300日頑張れと言うのであれば、僕は301日部活に来る覚悟。学生が欲しいと言うのであれば、僕らが練習時間や環境、相手も用意すること」。創部1年目に飛び込んでくれた選手たちの思いに、藤倉監督も正面から向き合った。
オール1年生で全国出場の快進撃
なぜ彼女たちは、大学の卓球部に賭けたのか。
それは、札幌大谷や駒大苫小牧といった道内の強豪高校でプレーしていた濱口らが、高校時代は主力選手ではなかったからだ。
「高校生のときにレギュラーになれなかった悔しさを大学で活かしたい。絶対結果を残してやる」。
写真:練習に励む札幌大学卓球部員/撮影:ラリーズ編集部
その思いは、1年目から実を結ぶ。
1年生のみで挑んだ春季リーグでいきなり優勝を果たしたのだ。その勢いのまま、インカレ予選も1位で通過し、目標としていた北海道開催のインカレ本戦出場を決めた。
特徴があった。団体戦に強いのだ。
その証拠に、春季リーグ、インカレ予選ともに、同時に行われた個人戦では、誰一人シングルスベスト4に入れなかった。
にも関わらず、団体戦ではオール1年生で優勝をかっさらったのだ。
「団体戦のときの雰囲気は1年生のときから凄かった。出てない人もみんなで声を出して一緒に戦う。1年目は負けそうなところを逆転して優勝した試合が何回もありました。本人たちが負けず嫌いだったのが根底にある。『絶対に北海道の他大学には負けたくなかった』と」。藤倉監督は1年目からの好成績をそう振り返る。
写真:学生にアドバイスする札幌大学卓球部の藤倉監督/撮影:ラリーズ編集部
当時、道内の女子は、佐藤瞳の元ダブルスパートナーを始め、高校までに輝かしい成績を既に収めていた選手達が上位を独占していた。対照的に高校時代、スター選手の作る光の影にいた“雑草軍団”の札幌大学女子卓球部は、一から自分たちが作り上げた卓球部で大きな壁に挑み、そして勝利を掴んだ。
写真:札幌大学女子卓球部4年生/撮影:ラリーズ編集部
一花咲かせた“雑草軍団”は、インカレ本戦でも全国の強豪相手に勝利を挙げて予選リーグを突破し、見事決勝トーナメントに進出した。
「創部1年目のインカレで予選を抜けたのがすごく大きかった。北海道で卓球やっててもいけるんだとすごく自信になりました」。濱口は当時の手応えを思い返す。
集大成の1年は幻に でも「後悔はない」
自信をつけた濱口らは目を見張る成長を遂げ、その後は個人戦でも優勝など、結果を出し続けている。そのなかでも北海道内の団体戦は大学4年間で、なんと1敗しかしていない。
いきなり1年目で好成績を残し、満足することはなかったのだろうか。
「何度か燃え尽きそうなときはありました。でも北海道でプレーするから、高校の恩師に恥ずかしい姿を見せられない」。これまで自分を支えてくれた人たちがいる地元。その土地が、燃え尽きそうな彼女の雑草魂に火を灯し続けた。
写真:札幌大学卓球部の練習風景/撮影:ラリーズ編集部
道内屈指の強豪となった札幌大学女子卓球部は、今では4学年13選手が所属するまでになった。
写真:取材時に練習に来ていた札幌大学女子卓球部メンバー/撮影:ラリーズ編集部
そして2020年、一つの集大成を迎える、はずだった。
2016年から濱口ら1期生が最終学年になった年に、インカレでランク入りし、北海道の歴史を塗り替える日は目の前だった今年、新型コロナウイルス感染拡大によって、ほぼすべての全国大会は中止となった。
写真:練習に励む札幌大学女子卓球部員/撮影:ラリーズ編集部
「初めて4学年揃ったので、全国大会も行きたかった」。
そう口にする濱口の顔に、しかし、未練はない。
創部1年目に札幌大学に飛び込み、手探りで格闘してきた日々が、いつの間にか彼女を成長させていた。
「後悔はないです。みんなで頑張って全国に出られて、悔しかったことも嬉しかったこともある。卓球で得たものはすごく大きかった」と笑う。
藤倉監督も感謝する。「特に彼女たちとの4年間は、指導者としてはもちろん、人間としても成長させてくれました。これから彼女たちも社会人として大きな壁にぶつかると思いますが、そのときは大学での4年間の経験を思い出して、さらに充実した人生を送る糧にしてもらいたいと思います」。
写真:札幌大学女子卓球部を支えた4年生たち/撮影:ラリーズ編集部
「北海道の歴史を塗り替える」ことは叶わなかった。
でも、彼女たちがゼロから歩んできた大学卓球部生活が、彼女たち自身の歴史を変えた。
「大学に入って思ったのは、高校のときの結果は全く関係ないということ。全国で活躍していた選手に自分も勝つことができた。過去の結果ではなく、大学に入って自分がどうやるかがすごく大切なんです」。濱口は後輩にエールを送る。
1期生が挑んだ「北海道の歴史を塗り替える」大仕事は、後輩たちに託される。
でも、時々ページを戻って読みたくなる、北の大地の女子卓球部“開拓”物語でもあった。
写真:濱口らの思いを継ぎプレーする3年生以下の女子部員/撮影:ラリーズ編集部
札幌大学卓球部特集
>>第1話 廃部寸前だった札幌大卓球部が道内トップの強豪に返り咲いたワケ
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