団体戦の酸いも甘いも知る"神奈川の王者"湘南工科大附高 チームを変えた3年生の「俺勝ちます」 | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

写真:湘南工科大附高の卓球部メンバー/撮影:槌谷昭人

卓球インタビュー 団体戦の酸いも甘いも知る“神奈川の王者”湘南工科大附高 チームを変えた3年生の「俺勝ちます」

2021.08.09

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Rallys副編集長。学生卓球を愛し、主にYouTubeでの企画を担当。京都大学卓球部OB。戦型:右シェーク裏裏

45年前、卓球インターハイ男子学校対抗を制したのが湘南工科大学附属高等学校(以下、湘南工科大附高)だ。“神奈川の王者”として2015年まで50大会連続でインターハイ学校対抗に出場してきた。2016年にはまさかのインターハイ出場を逃すも、2017年から今年まで4大会連続で出場を決めている。

今季のチームは、実力のある選手が揃っていながらもなかなか勝ち切れない試合が続いていた。そこで掴み取った全国通過は、偶然にも45年前に優勝した地でもある富山県開催のインターハイだった。

JR辻堂駅から歩いて15分程のところにある湘南工科大附高を訪れ、卓球部を率いる武田和也監督、菊池玲亮主将に話を聞いた。


【湘南工科大附卓球部】神奈川県の卓球強豪校。過去には50年連続インターハイ団体戦出場し、2021年のインターハイにも4大会連続54回目の出場を決めている。45年前には(当時・相模工科大学附属高校)インターハイ学校対抗で初優勝を飾っている。インターハイ学校対抗優勝の長谷部攝氏が部長、愛工大名電高から日本体育大学卒業の武田和也氏が監督を務める。学校は人気バスケットボール漫画「スラムダンク」の海南大付属高校のモデル校。

苦しいチーム状況を変えたミーティング

――インターハイ神奈川県予選を突破するまでの1年間、振り返ってみていかがでしたか?
武田監督:昨年11月の新人戦が三浦学苑に負けて県2位、全国選抜も1回戦で負け、関東大会予選も県3位と、史上まれに見る良くない結果だったので、すごく不安がありました。


写真:練習を見守る武田和也監督(湘南工科大附)/撮影:槌谷昭人

――苦しいチーム状況の中、インターハイ神奈川県予選学校対抗優勝できた要因は何でしょうか?
武田監督:6月頭の関東大会終了後すぐに、レギュラーではない下級生のベンチメンバーの生徒が「先生、ミーティングをしましょう」と話を持ちかけてきました。

「僕らから見ても先輩たちはそれぞれ強いと思います。絶対勝つ力はあるけど勝ち切れなかった。これは一人ひとり別々の方向を向いてるからだと思ってます」と。きっと客観的に見てくれてたんでしょうね。


写真:武田和也監督(湘南工科大附)/撮影:ラリーズ編集部

武田監督:レギュラーの3年生が同じ目標に向けて、力を合わせて団体戦を戦えれば、絶対強いチームだし勝てると思うんです」という話を1時間半くらい彼らとして、ミーティングを始めたことが1つきっかけですね。

それ以降、3年生も練習への取り組み方や意識が変わってきて、それが今回の結果に繋がったんじゃないかと思います。


写真:湘南工科大附高の練習風景/撮影:槌谷昭人

――ミーティングでは具体的にどういうことを話し合ったんでしょうか?
武田監督:まずはすぐ直せることから直していこうと。球拾いをだらだらしないでテキパキ動こうとか、挨拶もだらっとじゃなくてビシっとするとか。

卓球に直結するかわからないんですけど、基本的なところをしっかり見直しました。そうすれば良い雰囲気で良い練習ができて、試合に向けても良い準備できるよねと。

「俺勝ちます」チームを引き締めた3年生の一言


写真:武田和也監督(湘南工科大附)/撮影:槌谷昭人

武田監督:あとは、ミーティングの中での3年生の一言で、よりチームが引き締まった感じがありました
――それはどういう発言ですか?
武田監督:3年生の小野寺が、ぱって手を挙げて「自分のことなんですけどいいですか?俺勝ちます」と言ったんですね。

実際、去年の新人戦、関東選抜、全国選抜は5シングルスで小野寺が2本出て2本とも落としてるんですよ。彼も責任をすごく感じてたのか「インターハイ予選は絶対勝ちます。僕が勝ったらチームは勝つ」と。

そういうことを言うタイプではなかった小野寺の発言で、チームがキュっと引き締まりました。その一言はチームにも大きかったです。


写真:右ペンドライブ型の小野寺幹(湘南工科大附)/撮影:槌谷昭人

――インハイ予選での小野寺選手の活躍はいかがでしたか?
武田監督:実際、全部前半で小野寺を出して、全部3-0で勝ってきてくれました。有言実行で彼がサクッと勝ってきてくれたおかげでチームにも勢いが出ましたね。


写真:練習中に武田監督とコミュニケーションを取る小野寺/撮影:槌谷昭人

背中で示した主将の菊池

ここで湘南工科大附高の卓球部主将である菊池玲亮にもこの1年について聞いた。


写真:主将の菊池玲亮(湘南工科大附高)/撮影:ラリーズ編集部

――成績的には苦しかった1年だと思います。インハイ予選までを主将として振り返ってみてどうでしたか?
菊池玲亮:新チームに代わってからコロナ期間で、キャプテンの引き継ぎがあまり上手くできてなく、チームがまとまってませんでした。

新人戦と関東大会予選で負けてしまいましたが、インターハイ予選前は「ここだけは勝とう」とみんなで練習に取り組みました。


写真:菊池玲亮(湘南工科大附高)/撮影:槌谷昭人

――ミーティングも頻繁に行ったと伺いました。
菊池玲亮:今のチームに欠けているところやどんな技術がダメかなども話し合って、練習に取り入れられたことが良かったと思います。
――最終的にはチームがまとまってインハイ予選通過。まとめるために主将として意識してたことはありますか?
菊池玲亮:自分が一番練習に集中して励んで、背中で示すことです。自分がやってるからみんなもやってね、という思いでやっていました。


写真:菊池玲亮(湘南工科大附高)/撮影:槌谷昭人

――インターハイに向けての意気込みもお願いします。
菊池玲亮:コロナで去年は試合がたくさんなくなったんですけど、今年はたくさんの人の協力で開催されるので、最後まであきらめずに頑張りたいです。


写真:湘南工科大附高の練習風景/撮影:槌谷昭人

人間力を大事にする指導方針

再び武田監督に話を聞く。チームの特徴や指導方針で大事にしていることは何なのだろうか。


写真:武田和也監督(湘南工科大附)/撮影:ラリーズ編集部

――見事インターハイ出場を決めた今年のチームですが、特徴を教えてください。
武田監督:今年のチームカラーとして、サービスが上手でラリー戦に強いですね。

OBを見てても粘り強い卓球やサービスに長けていたという特徴があったので、良さを引き継いで今までの湘南工科大附をさらに強くして行けたらいいなと思ってます。


写真:粘り強いラリーを見せる島村怜和(湘南工科大附)/撮影:槌谷昭人

――サービスやラリーについては、特に練習を重点的にしているのでしょうか?
武田監督:特に試合前はサービス練習の時間は多くとっていて、今はインターハイ直前でコロナで練習試合もできないので、サービス練習としては一日1時間弱はとるようにしています。


写真:鋭いサービスを放つ佐藤海翔(湘南工科大附)/撮影:槌谷昭人

――プレー以外で大事にされている指導方針はありますか?
武田監督:前監督の長谷部先生からも引き継いでる部分があります。一人の高校生ですし、ここから先の人生の方が長いので、社会で必要とされる人間になることがまず大事という指導を生徒たちにも伝えています。

特に挨拶や行動の早さ、返事や話を聞く姿勢など基本的な部分です。

生徒に伝えつつ自分自身も生徒と一緒に成長して、自分自身も磨いていかなければチームも強くなっていかない。生徒に伝えるだけじゃなくて私自身もともに人間力高めていかなければという思いで活動し伝えています。


写真:武田和也監督(湘南工科大附)/撮影:槌谷昭人

団体戦の酸いも甘いも知る湘南工科大附

――2015年までは50大会連続でインターハイ出場で、2016年に連続出場が途切れました。その時は何があったのですか?
武田監督:50回出た次の年、個人戦としてはすごく良かったんですよ。直前の関東大会でも石榑大河(日本大学卒)がシングルスで優勝していて、前の年は青柳伸太朗(専修大学卒)が優勝と当時関東チャンピオンが2人いました。

また、新入生でも天野宏哉(現・法政大学)が関東3位で、個人の結果だけ見れば十分力はあったので、51回連続のインターハイ出場も行けると思っていました。


写真:湘南工科大附高の練習風景/撮影:槌谷昭人

武田監督:ただ団体戦はわからないものでした。

予選の桐蔭学園戦で2-2になって、5番で石槫が負けてしまいました。関東チャンピオンで自信も勢いもあり、絶対負けないと思っていたんですけど、「もうわからない、もうわからない」という感じで、ゲーム間に震えて戻ってきたんですよ。

やっぱり団体と個人は全然違うんだなと感じました。その後、三浦学苑戦も負けて結果4位でインターハイ出場を逃しました。油断してたわけではないんですけど、最後まで団体戦はわからないなというのは改めて感じた1試合でした。


写真:主将の菊池玲亮(湘南工科大附高)/撮影:槌谷昭人

――そういう意味だと、そのときの団体戦と今年の団体戦とで、悪いとき良いとき両方を味わっているわけですね。
武田監督:今回は逆に三浦学苑のダブルスが関東チャンピオンで、新人戦も関東予選も優勝していて、今までの我々と逆の立場だったんですよ。

向こうも自信があったでしょうし、逆にこちらは捨て身で行くぞという気持ちだけでした。それが良かったのかなと思います。


写真:湘南工科大附高の練習風景/撮影:槌谷昭人

――最後にインターハイでの目標を教えて下さい。
武田監督:今回の富山インターハイは45年前、初優勝した地でもあります。

今回苦しい結果が続いてた中で、このインターハイ予選だけ勝つことができた。やはりここには意味があると思うし、伝統の力やサポートしてくれた人たちの力、想いもきっとあると思うので、結果で良い報告をして恩返ししたいと思っています。

湘南工科大附高は、初優勝の地、富山県開催のインターハイ出場権を苦しみながらも勝ち取った。

団体戦の酸いも甘いも知る“神奈川の王者”は、勢いそのままに、本戦でも旋風を巻き起こせるか。インターハイでの戦いぶりに注目だ。

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