「試合に勝つことが仕事じゃない」森さくら担当・竹谷コーチの指導哲学の真意 | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

写真:竹谷康一コーチ(日本生命レッドエルフ)/撮影:槌谷昭人

卓球インタビュー 「試合に勝つことが仕事じゃない」森さくら担当・竹谷コーチの指導哲学の真意

2021.05.15

この記事を書いた人
Rallys編集長。学生卓球を愛し、主にYouTubeでの企画を担当。京都大学卓球部OB。戦型:右シェーク裏裏

日本生命レッドエルフは、早田ひなと平野美宇のツインエースを擁し、Tリーグ3連覇を果たした。

だが、このチームを語るときに欠かせないのが、チーム2位の16マッチに出場した森さくらだ。セカンドシーズン最多勝の森は、早田や平野が故障離脱する中、サードシーズンもフル稼働した。

しかし、最多勝の2年目とは打って変わって3年目は5勝11敗と苦しい結果に終わってしまう。この2年間、森を誰よりも傍で見てきたのが担当コーチの竹谷康一氏だ。

今回は、竹谷コーチに森との二人三脚の日々を聞いた。


【竹谷康一(たけや こういち)】埼工大深谷高、筑波大を経て、実業団の日産自動車で活躍。インターハイダブルス・団体優勝、全日本選手権ベスト8、全日本ジュニア準優勝などの実績を持つ。日本生命レッドエルフのコーチを務め、森さくら、麻生麗名の担当コーチ。

コーチから見た森さくら、最多勝の2季目と苦しんだ3季目

――今回は、森さくら選手の担当である竹谷コーチに、「森選手と歩んだ最多勝の2季目と苦しんだ3季目」というテーマでお伺いできればと思っています。

セカンドシーズンは14勝で最多勝、一方サードシーズンは5勝11敗と苦しみました。振り返ってみていかがでしたか?

竹谷コーチ:まず3季目のポイントを挙げると、コロナで1年以上試合がなかった中で、サードシーズン前の2020年9月に行われた1ゲームのドリームマッチですね。


写真:森さくら(日本生命レッドエルフ)/撮影:ラリーズ編集部

――森選手が石川佳純選手に勝った試合ですよね?現地で見てました。
竹谷コーチ:久しぶりにいろんな選手の前で戦う試合で、おそらく石川佳純と当たるんじゃないかと、入念に対策をしていました。

それが上手くいって、1ゲームですが初めて石川選手に勝って、さくらはすごい自信を得てシーズンに臨みました。


写真:竹谷康一コーチ(日本生命レッドエルフ)/撮影:槌谷昭人

――開幕からも2連勝と順調なスタートを切りましたよね。
竹谷コーチ:でも本人は「思ったほど調子が良くない」「調子が出ない」と言っていました。見ていて全くそんなことはなかったんですけどね。

たぶんコロナ期間ですごく良くなったという手応えがドリームマッチであって、もっとできると思い過ぎてたんだと思います。3戦目のリンイエ(トップおとめピンポンズ名古屋)戦で負けたときに、同じようなパワー系のスタイルで力負けしたと感じて、「やっぱりだめだ」「うまくできない」と一気に自信がなくなってしまった。

あそこからメンタル的には最後まで崩れて、立て直せずに最終戦まで行ってしまったかなと思います。


写真:プレーオフファイナルで森さくらの戦況を見守る竹谷コーチ/撮影:ラリーズ編集部

――シーズン途中には石川選手に3-0勝ち、ラブゲームもしていて復調の兆しが見えたこともありましたが。
竹谷コーチ:とにかく石川選手の対策をすごくやったので、石川選手にだけは強かったですね。

プレーオフファイナルでの対戦も、本人は「良かった」と言っていました。ただ、私的にはファイナルはシーズン中の力を出せたらいけたんじゃないかなと感じていて、決して内容が良かったようには思えなかったんですけど(笑)。


写真:プレーオフファイナルでの森さくら/撮影:ラリーズ編集部

――コロナ禍において声を出す出さない状況についてはどうご覧になってました?
竹谷コーチ:コロナの関係もあって「出さない方がいいですかね?」とさくらも言っていて、声を出さないで戦えるようにしようと試していた。

貝塚で日本ペイントと対戦した時に加藤美優選手に0-3で負けて、ビクトリーマッチでもう一回さくらで行くというときに、“さくら、声はお前の武器だ、出していこう”と臨んだらすごい良いプレーをした。でもリードしたけど逆転負けして、自分の今までの声を出すスタイルでやっても勝てなかった。

それでどんどん自信を無くしていくことにはなったので、声を出す出さないというのはやりにくかったかもしれないですね。


写真:森さくら/撮影:ラリーズ編集部

――3年目のシーズンはコロナ禍という面も森選手には厳しかったですね。
竹谷コーチ:ただ、僕としては3年間どれも楽しく、いろいろありながらもやってこれた。

さくらはずっと辛かったかもしれないですけど、スポーツに取り組む者としては、「なんとかやっていこう」と踏ん張ってできたのはやりがいがありましたね。


写真:竹谷康一コーチ(日本生命レッドエルフ)/撮影:槌谷昭人

二人三脚で歩んできた森さくらと竹谷コーチ


写真:以前のインタビューでは竹谷コーチとの出会いで卓球人生が変わったと語った森さくら/撮影:ハヤシマコ

――以前、森選手のインタビューで、「そもそもすぐに結果が出ると思ってスポーツをやるのが間違っている」と竹谷コーチに言われたと伺いました。

それはなにか竹谷さんの実体験から出ている言葉なのでしょうか?

竹谷コーチ:どの選手も小学生などの子供のときは1週間で上手くなる、強くなるみたいなのを何度も経験しています。でも、大人になっていくにつれ、トップでやっていたらほとんど変わらない。

自分が選手の頃から、どこかの大会に向けて頑張ろうと努力しても成績が良くなくて、そのちょっと後に強くなったと実感できたことがよくありました。

それから指導者として、いろんな選手を見るようになって全員そうなんですけど、2、3か月、半年頑張ったところであんまり成果は見えない。1年くらい経ったくらいでようやく何か変わったなと周りから言われて気づく。卓球はそんなもんだというのをわかってほしいとさくらにはよく言ってます。


写真:竹谷康一コーチ(日本生命レッドエルフ)/撮影:槌谷昭人

――同じように森選手は「竹谷コーチに卓球の楽しさを気づかせてもらった」ともおっしゃっていました。
竹谷コーチ:さくらはもともと「男子選手は卓球が好きな人が多いけど、私は好きよりも試合で勝ちたい、目立ちたい、成績を出したいのでずっとやってきた」とよく言っていました。

でも最近は、誰か強い人の真似をしてみるとか、工夫してできないことができるようになるとかで「卓球が楽しくなってきた」とは言ってますね。

――他の選手も指導してきた中で、森選手の良さを挙げるとするとどこでしょうか?
竹谷コーチ:やっぱり一番良いところは闘争心の強いところ。勝ちたい、試合に出たいという気持ちがすごく強いので、スポーツ選手として良い素質だと思います。


写真:森さくら(日本生命レッドエルフ)/撮影:ラリーズ編集部

竹谷コーチの指導哲学

――森選手の担当コーチを務めてらっしゃいますが、日本生命の特徴でもある担当コーチ制についてはどう感じてますか?
竹谷コーチ:担当制は、自分も選手の感覚に近くなる。さくらが負けると僕が負けたみたいな感覚になる。そういう意味では正直楽ではないですね(笑)。

でも強化には間違いなく良い。どれだけ良いときも悪いときもその担当の選手を見ているので、やりがいがありますね。勝ったときは自分も喜びを感じられますから。


写真:ファイナルで森さくらにアドバイスを送る竹谷康一コーチ(日本生命レッドエルフ)/撮影:ラリーズ編集部

――担当コーチとしての指導方法はどういう風に作られるんでしょうか?
竹谷コーチ:僕の場合はコーチになって12年経ったんですけど、決まった方法はないんですよね。どうしたら良いのかは常に考えながらやっています。

さくらの前にはカットマンの石垣やサウスポーの若宮を見ていて、戦型はもちろん性格も全然違います。難しいですけど、なるべく意見を選手側からも言いやすい関係性を築けるようにしています。

――それは竹谷コーチの一種の指導方針なのでしょうか?
竹谷コーチ:そうですね、何でも話し合うから何でも言ってほしいという方針です。

指導に関する哲学はあると言えばありますね。

――ずばり何でしょうか?
竹谷コーチ:もちろん強くなってほしいし、選手の目標を達成するのも良いことです。

でも、一番は、いろんな人が見て感動する、楽しめること。そういう観て喜んでもらえる選手になってほしいと思っています。

さくらにも「試合に勝つことが仕事じゃない。試合に勝ってもさくらが嬉しいだけ。試合をして誰かに何か影響を与えることが仕事なんだ」とよく言っています。

そういうところは大事にして指導していますね。


写真:竹谷康一コーチ(日本生命レッドエルフ)/撮影:槌谷昭人

「試合をして誰かに影響を与えることが仕事」。

良いシーズンも、悪いシーズンも。

声を出すシーズンも声を出さないシーズンも。

森と竹谷コーチの戦いは続く。

特集・日本生命レッドエルフ第1弾 森さくら、前田美優らのインタビュー


写真:日本生命レッドエルフメンバー/撮影:ハヤシマコ

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