及川、英田の全日本躍進の立役者 卓球トレーナー齋藤蓮の希望「選手寿命を80,90代に」 | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

写真:齋藤蓮(FSC卓球クラブ)/撮影:ラリーズ編集部

卓球インタビュー 及川、英田の全日本躍進の立役者 卓球トレーナー齋藤蓮の希望「選手寿命を80,90代に」

2021.03.07

この記事を書いた人
1979年生まれ。2020年からRallys/2024年7月から執行役員メディア事業本部長
2023年-金沢ポート取締役兼任/軽い小咄から深堀りインタビューまで、劇場体験のようなコンテンツを。
戦型:右シェーク裏裏

監督、コーチはわかる。
卓球のトレーナーって、いったいどんな仕事なのだろう。

2021年全日本チャンピオンの及川瑞基(おいかわみずき)、そして全日本初ランク入りに加え、今季初参戦のTリーグでも活躍中の英田理志(あいださとし)。このトップ選手二人が声を揃えて「影の立役者」と感謝するトレーナーがいる。

齋藤蓮(さいとうれん)、28歳。

「いやー、緊張してますね、はい!」

撮影場所の卓球場に響く、明朗快活な声。

「自分を撮って頂くなんて、いつぶりだろう、はい」

照れるにしては大きめの声で話してくれる齋藤氏に「トレーナーの仕事とは」を聞いた。

ストレッチとマッサージは違うのか


写真:齋藤蓮(FSC卓球クラブ)/撮影:ラリーズ編集部

――トレーナーってどんなことをするお仕事なんでしょう。
齋藤
:自分は、マンツーマンのストレッチがメインですが、テーピングを巻いたり、ウォームアップの手伝いなど全般的に行いますね。

――ストレッチとマッサージって違うんでしょうか
齋藤
:シンプルに言うと、マッサージは筋肉に圧を加えて揉むイメージですが、ストレッチの場合は、筋肉が骨に付いてる部分を引き伸ばすようなイメージなんですよ。引き伸ばす、縮める、でまた伸ばすという動きを繰り返す。

マッサージでは表面の筋肉である表層筋にアプローチしますが、ストレッチは表層筋も含めてもっと奥の部分、深層筋という体のコアに近い部分を伸ばすことで、筋肉や関節の可動域を広げていきます。

――“身体を柔らかくする”っていうことなんでしょうか
齋藤
:筋肉が固まってると動きも悪いので、柔らかくも大事なんですが、選手に合わせて動きを良くするっていうことですね。別にすごく柔らかくなくてもいいんです、ちょっと動けばいい、でもこのちょっとがすごく大事で。


写真:肩甲骨のストレッチは「ゆっくり大きく、肘が耳を超えるように」

――なんか難しそうですね
齋藤
:いえいえ(笑)。誰もが知ってるストレッチを時間をかけるだけでも、簡単に体の可動域は上がっていきます。大事なのはその時間ですね。例えば学校でやるのって1、2、3、4、くらいだと思うんですけど、僕のやるストレッチは一つに15秒から20秒くらい。すごく時間をかけます。


「ストレッチでは時間をかけることも大事なんです」

――卓球選手をストレッチする上で、特に重要なことってありますか
齋藤
:うーん、選手によると思うんですけど、やっぱり股関節周り。あとは、ラケット競技や球技で一番多い怪我は足首なので、選手が不安に思う箇所をメインにしながらですが、股関節、足首はけっこう念入りにやりたいなというのはあります。あと、卓球は前傾姿勢で腰を悪くする方も多いので、腰のひねりのストレッチを加えたり。

――ぜひ「練習前練習後にこれだけは」というストレッチメニューを動画で教えて下さい(笑)
齋藤
:もちろんです!

トレーナーになったきっかけ


写真:齋藤蓮(FSC卓球クラブ)/撮影:ラリーズ編集部

――そもそも、齋藤さんがトレーナーになったのはなぜなんでしょうか。ご自身も全日本に2回出場経験もある卓球選手だったんですよね
齋藤
:そうですね。大学まで一応、実業団選手などを目指してやってたんですが、下に強い世代もいっぱい入ってきて、半ば心折れた部分はありました。

ただ、学生時代にも自分よりはるかに強い選手たちがレギュラーを外れたり、突然引退したりするのを見て、友だちに「なんで?」って聞いたら「怪我したらしいよ」って。“もったいない”って思いました。自分は元々トレーニングも好きでしたし、日体大だったので、ちょっと身体のことを学んでみようというのが最初でした。

――そこからストレッチ技術ってどうやって身につけたんですか
齋藤
:将来的に卓球選手へのストレッチ事業を、という思いを持ってドクターストレッチさんに入社してストレッチ技術を勉強させてもらい、そして約一年前に独立して、今に至ります。


ストレッチしながら、ストレッチへの道を語ってくれた

“選手をあきらめる”のではなく、”卓球を続ける”

――選手側からサポート側を目指すことに抵抗はなかったですか
齋藤
:最初はちょっとありましたね、まだ現役でもやりたいなあという葛藤が。大学卒業しても試合は出ていて、でも自分の練習もあんまりできないし、もどかしくなってきて。

あるとき、母校の高校に練習に行った際に、監督である恩師にポロッと言われたんです。「もう卓球はいいじゃん」って。「お前上手かったし、今までやってきたんだから、もっと他の人生で頑張れるんじゃないか。他のことでも絶対頑張れるよ」って。

「お前が勝ちたいのはわかる。でも、卓球ずっとやってくれるだけで嬉しい。たまにうちに練習しに来て、後輩たちみてくれたらそれで充分だ」って。

そのとき、選手をあきらめるというより、卓球はずっと続ければいいんだって思ったんです。


写真:齋藤蓮(FSC卓球クラブ)/撮影:ラリーズ編集部

――現役か引退かの二択ではなく
齋藤
:はい。自分の身体を自分でもメンテナンスし続けて80代でも動けていれば、そのとき、かつての五輪選手はもしかしたら動けないかもしれない。少しでも自分が立っていれば勝ち、みたいな(笑)。考えると楽しいじゃないですか。

――素敵な考え方ですね
齋藤:
今は、みんなの選手寿命を80、90に、を目標にしています。そうなると、僕自身がおじいちゃんでも勝てなくなるかもしれないんですけど(笑)


「立ってれば勝ちなんじゃないかと」

トレーナーの1日、1年のスケジュール

――確かに(笑)。ところで、トレーナーの1日のスケジュールってどんな感じなんですか
齋藤
:僕の場合は卓球のコーチ(FSC卓球クラブ)もやっているので、全日本とかの大会期間を除くと、だいたいこんな感じです。

10:00〜12:00 所属する卓球場のコーチ
12:00〜13:30 一般のお客様へのストレッチ
15:00〜17:30 選手の拠点に出張してストレッチ
18:30〜21:00 所属する卓球場でジュニア選手の指導

選手のメンテナンスが無いときは1日コーチしますし、逆に選手から要望があればそれ以外の時間でもストレッチに行きます。あとは、老若男女問わず、卓球選手以外のお客様にもストレッチをしています。


写真:卓球コーチ業も務める齋藤蓮(FSC卓球クラブ)/撮影:ラリーズ編集部

――年間スケジュールで言うと
齋藤
:選手の試合などのスケジュールに合わせる感じです。基本的に出張で各選手の自宅や練習拠点に行きストレッチを行います。

1月:全日本期間中のサポート
2月:Tリーグ期間(選手と相談しながら)
3月〜6月:シーズンオフなので、選手の海外遠征やイベント、試合があれば月2回ほど選手のメンテナンス
7月:Tリーグ開始に合わせて月に4〜5回各選手へのメンテナンス
8月〜12月:Tリーグ期間(選手と相談しながら)


壁に書かれた努力は二倍から百倍まである

選手としての自分に区切りをつけたとき、「身体」を通して卓球と関わる方法があると信じた。
齋藤がここまで選手のストレッチにのめり込んでいったのは、同い年・英田理志との再会からだった。

(後編 「身体のコンディションは卓球の成績に直結する」全日本王者を支えたトレーナーが語るストレッチの秘訣 に続く)

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