伊藤美誠が練習拠点としている関西卓球アカデミーには、中国人コーチが在籍している。かつては日本代表スタッフとして北京、ロンドン五輪にも帯同した王子コーチだ。
“卓球王国”中国の卓球を知る男は、長年日本卓球界を間近で見てきた。今回は、王子コーチに日本と中国の卓球の違いというテーマで話を聞いた。
【王子(おうじ)】中国遼寧省出身。2003年に来日し、2006年には龍谷大学卓球部で関西学生選手権3位に輝く。2008年から2016年までは卓球日本代表チームのコーチングスタッフを務め、北京、ロンドン、リオ五輪にも帯同した。
「世界で活躍できる選手を育てたい」
最初は大学に行って勉強しながらコーチとして教えていて、村上(恭和・現日本生命レッドエルフ総監督)さんと一緒に日本代表のコーチもしながら関西卓球アカデミーでも教えていたという感じです。
世界で活躍できる選手を育てたいと思ってここを立ち上げて、森さくらと伊藤美誠が日本代表になって世界選手権も出ました。これからも小さな子を強くしていきたいなと思っています。
日本と中国の環境の違い
写真:王子コーチ(関西卓球アカデミー)/撮影:槌谷昭人
最初はメダルも取れなくて、女子がギリギリベスト4入るレベルで、男子は全然メダルも取れないレベルでした。そこからリオで男子が銀メダルを獲得した。若い頃から育てているからチャンスがあったのかなと思います。
写真:王子コーチ(関西卓球アカデミー)/撮影:槌谷昭人
昔、愛ちゃんが試合出るときも練習相手、マッサージ、トレーニングコーチ、専属コーチとか3,4人ついてましたね。
例えばナショナルチームのコーチも、今は馬琳ら世界チャンピオンで揃えているけど、1人のコーチでトップ選手2,3人くらい見ている。下の選手になるともうちょっと多い。1人のコーチに5,6人の選手とか。
写真:王子コーチ(関西卓球アカデミー)/撮影:槌谷昭人
例えば5人、世界選手権に出るエース級がいたら、この5人が世界チャンピオンになるためにみんなで支えてあげる。5人以外に40人くらい選手がいますが、実際レベルはそんなに差はないんですよ。全日本に出てきても優勝する可能性は全然あるレベル。その環境の中でトップ5人をみんなが支えている。だから強いんじゃないですか。
写真:東京五輪金メダル候補の馬龍(マロン・中国)/提供:ittfworld
でも、不真面目そうだからダメというわけではない。そういう選手は自由な練習が向いてるんですよ。もしチームに入って全部に従わせていたら何も発揮できない。自分の行動は自分で考えて、疲れたら休憩するとか、今は調子良いからもっと練習するとか自由が利くから良いんですよ。
王子コーチが語る伊藤美誠の強さ
小学生の時は練習嫌いだったから全然練習はしなかった。でも試合は好きだから試合だけしていた。でもだいたいセンスのある子ってそうなんですよ。頭で卓球するから練習が少なくても勝つは勝つんです。
写真:王子コーチ(関西卓球アカデミー)/撮影:槌谷昭人
でも今、美誠は朝10時から夜の10時くらいまで練習をやってるんですよ。プロ卓球選手だから勝たないと食べていけないからすごい努力している。そこに加えて自分のセンスがある。性格はちょっと変わってるけど(笑)、面白い発想がたくさんあるからプレーもいろいろできる。
写真:伊藤美誠(スターツ)/撮影:ラリーズ編集部
今、若い選手は何をするかわからない卓球で強い。少し前の選手、例えば劉詩雯(リュウスーウェン)は、もちろん強いけどやることは同じだから慣れてしまう。でも、中国はどちらかというと安定感のある選手を試合に出したがる。
美誠の卓球は危ないから中国なら出られない(笑)。でも逆に美誠は何をするかわからないから中国にも勝てるんですよ。
王子コーチは、中国と日本、両方の卓球を知る。だからこそ伊藤の強さや中国の強さを的確に分析できる。心強い参謀が関西卓球アカデミーにはいた。
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