関西卓球アカデミー・王子コーチに聞く「なぜ中国は卓球が強いのか」「伊藤美誠の強さとは」 | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

写真:王子コーチ(関西卓球アカデミー)/撮影:槌谷昭人

卓球インタビュー 関西卓球アカデミー・王子コーチに聞く「なぜ中国は卓球が強いのか」「伊藤美誠の強さとは」

2021.07.01

この記事を書いた人
Rallys編集長。学生卓球を愛し、主にYouTubeでの企画を担当。京都大学卓球部OB。戦型:右シェーク裏裏

伊藤美誠が練習拠点としている関西卓球アカデミーには、中国人コーチが在籍している。かつては日本代表スタッフとして北京、ロンドン五輪にも帯同した王子コーチだ。

“卓球王国”中国の卓球を知る男は、長年日本卓球界を間近で見てきた。今回は、王子コーチに日本と中国の卓球の違いというテーマで話を聞いた。


【王子(おうじ)】中国遼寧省出身。2003年に来日し、2006年には龍谷大学卓球部で関西学生選手権3位に輝く。2008年から2016年までは卓球日本代表チームのコーチングスタッフを務め、北京、ロンドン、リオ五輪にも帯同した。

「世界で活躍できる選手を育てたい」

――もともと王子コーチは中国にいらっしゃったと思うのですが、いつ何がきっかけで日本に?
王子コーチ:19歳のときに中国で選手を引退して日本に来ました。

最初は大学に行って勉強しながらコーチとして教えていて、村上(恭和・現日本生命レッドエルフ総監督)さんと一緒に日本代表のコーチもしながら関西卓球アカデミーでも教えていたという感じです。

――関西卓球アカデミーでは何年コーチをされてるんですか?
王子コーチ:もう8年、9年くらいかな。一番最初は僕と森さくらの二人でスタートでしたね。毎日二人で練習をやっていましたよ。
――長年関西卓球アカデミーでやってこられてどうですか?
王子コーチ:関西卓球アカデミーは、最初から子供の指導ための卓球場だから環境はすごく良い。

世界で活躍できる選手を育てたいと思ってここを立ち上げて、森さくらと伊藤美誠が日本代表になって世界選手権も出ました。これからも小さな子を強くしていきたいなと思っています。

日本と中国の環境の違い


写真:王子コーチ(関西卓球アカデミー)/撮影:槌谷昭人

――王子コーチは結構長い間日本代表も指導してきましたよね。
王子コーチ:そうですね。2008年北京五輪からリオ五輪が終わるまで、8年くらいかな。
――北京五輪のときから比べて、日本の卓球はどう変わりましたか?
王子コーチ:レベルはかなり上がっていますね。

最初はメダルも取れなくて、女子がギリギリベスト4入るレベルで、男子は全然メダルも取れないレベルでした。そこからリオで男子が銀メダルを獲得した。若い頃から育てているからチャンスがあったのかなと思います。


写真:王子コーチ(関西卓球アカデミー)/撮影:槌谷昭人

――日本と中国の両方を経験されて、卓球環境や指導はどう違いますか?
王子コーチ:中国はナショナルチームでも1人のコーチが2、3人の選手を見る。でも日本は3、4人のコーチ・練習相手で1人の選手を担当する。

昔、愛ちゃんが試合出るときも練習相手、マッサージ、トレーニングコーチ、専属コーチとか3,4人ついてましたね。

――中国も担当制と伺っていましたが、専属というわけではないんですね。
王子コーチ:中国はコーチがたくさんいるけど、選手も多いんですよ。

例えばナショナルチームのコーチも、今は馬琳ら世界チャンピオンで揃えているけど、1人のコーチでトップ選手2,3人くらい見ている。下の選手になるともうちょっと多い。1人のコーチに5,6人の選手とか。


写真:王子コーチ(関西卓球アカデミー)/撮影:槌谷昭人

――そもそもトップ選手の数自体が多いですもんね。その中で中国の強さはどこにあると思いますか?
王子コーチ:皆が1年間ずっと同じ場所で練習するところです。

例えば5人、世界選手権に出るエース級がいたら、この5人が世界チャンピオンになるためにみんなで支えてあげる。5人以外に40人くらい選手がいますが、実際レベルはそんなに差はないんですよ。全日本に出てきても優勝する可能性は全然あるレベル。その環境の中でトップ5人をみんなが支えている。だから強いんじゃないですか。


写真:東京五輪金メダル候補の馬龍(マロン・中国)/提供:ittfworld

――確かに日本は逆に選手が各拠点で練習するのでそこは違いますね。
王子コーチ:日本は試合前に1、2週間ナショナルチームで合宿する。でも日本も中国もどっちも良い点も悪い点もある。僕も日本に来てから発想が変わった。
――どう変わりましたか?
王子コーチ:各拠点での練習だと自由が利く。逆にチームだと細かなルールを守らないといけない。中国はチーム単位で動くことが多いから真面目な選手が多く代表に入るんです。

でも、不真面目そうだからダメというわけではない。そういう選手は自由な練習が向いてるんですよ。もしチームに入って全部に従わせていたら何も発揮できない。自分の行動は自分で考えて、疲れたら休憩するとか、今は調子良いからもっと練習するとか自由が利くから良いんですよ。

王子コーチが語る伊藤美誠の強さ

――伊藤美誠選手についてもずっと見られていると思います。どういう風に強くなっていると感じていますか?
王子コーチ:あの子は頭がいい。センスがあるし賢いし、努力もすごくしている。

小学生の時は練習嫌いだったから全然練習はしなかった。でも試合は好きだから試合だけしていた。でもだいたいセンスのある子ってそうなんですよ。頭で卓球するから練習が少なくても勝つは勝つんです。


写真:王子コーチ(関西卓球アカデミー)/撮影:槌谷昭人

――なるほど、頭で卓球できるところがセンスと言われる部分なんですね。
王子コーチ:一生懸命練習しても結局卓球は頭を使うスポーツ。相手の強いところ弱いところを判断してプレーするので、頭の良い選手は強い。

でも今、美誠は朝10時から夜の10時くらいまで練習をやってるんですよ。プロ卓球選手だから勝たないと食べていけないからすごい努力している。そこに加えて自分のセンスがある。性格はちょっと変わってるけど(笑)、面白い発想がたくさんあるからプレーもいろいろできる。


写真:伊藤美誠(スターツ)/撮影:ラリーズ編集部

――中国選手で伊藤選手くらい賢いと思う選手はいますか?
王子コーチ:同年代の孫頴莎(スンイーシャ)ですね。若いし賢い卓球をしてる。

今、若い選手は何をするかわからない卓球で強い。少し前の選手、例えば劉詩雯(リュウスーウェン)は、もちろん強いけどやることは同じだから慣れてしまう。でも、中国はどちらかというと安定感のある選手を試合に出したがる。

美誠の卓球は危ないから中国なら出られない(笑)。でも逆に美誠は何をするかわからないから中国にも勝てるんですよ。

王子コーチは、中国と日本、両方の卓球を知る。だからこそ伊藤の強さや中国の強さを的確に分析できる。心強い参謀が関西卓球アカデミーにはいた。

関西卓球アカデミー特集はこちら

>>“伊藤美誠の練習拠点”関西卓球アカデミーに潜入 競技未経験の代表が語る卓球愛

>>伊藤美誠の練習相手も務める実業団新人賞男 坂根翔大が関西でのプレーを貫くワケ

>>教師を辞め卓球実業団選手に 各務博志が安定を捨て“好きなこと”で生きていく決断の裏側