異例のキャリアを歩む卓球エリート 青森山田出身・高橋徹の"アスリート経験を仕事に活かす術" | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

写真:高橋徹(株式会社LaboLive)/撮影:ラリーズ編集部

卓球インタビュー 異例のキャリアを歩む卓球エリート 青森山田出身・高橋徹の“アスリート経験を仕事に活かす術”

2021.06.04

この記事を書いた人
Rallys編集長。学生卓球を愛し、主にYouTubeでの企画を担当。京都大学卓球部OB。戦型:右シェーク裏裏

卓球の名門・青森山田高校で日本一を経験した高橋徹(たかはしとおる)さんは、大学卒業後、静かにラケットを置いた。

高橋さんは今、全日本選手権などの国内メジャー大会のインターネット中継で存在感を示すラボライブ社の代表社員として、卓球の現場をITの力で進化させている。


写真:高橋徹(株式会社LaboLive)/撮影:ラリーズ編集部

近年、卓球のエリート選手たちは、Tリーグや実業団へ進むことが当たり前だっただけに、異例のキャリアとも言える。

そんな高橋さんが選択したセカンドキャリアの実態とは?「アスリート経験を仕事に活かす術」と「5年計画で見据える今後のキャリアプラン」に迫った。


【高橋徹(たかはしとおる)】1997年4月7日生まれの24歳。青森山田中高卓球部では、及川瑞基、三部航平、一ノ瀬拓巳と同級生。2011年カデットダブルス優勝、2015年インターハイ団体優勝。中央大学卒業後は、卓球の試合をインターネットでライブ配信する株式会社LaboLiveに勤める社会人2年目。中央大学卓球部のコーチも務める。愛称は“テツ”。

>>前編はこちら 卓球界を裏方で支える“青森山田最後の世代”高橋徹「結果を残したいなら夢中になるしかない」

卓球選手を引退し、ITを仕事に選んだワケ

――今回は、社会人生活についてお伺いさせてください。

「大学時代に日本代表は無理と確信し、大学でのプレーヤー引退を決めた」とおっしゃっていました。その後の進路はどうやって決めたのですか?

高橋徹さん:実は大学4年の6月の時点では一般企業を受けていました。

就職活動で初めて卓球の外の世界を見て視野はかなり広がってすごく楽しかった。でもあんまり軸がなくて、正直しっくり来ていなかったんですね。

――そこからどう巡り巡ってラボライブに?
高橋徹さん:4月に一度雪本さん(ラボライブ代表取締役)と食事をしていて、そこから連絡などは全然取っていなかったのですが、6月の関東学生(選手権)の頃に中央大学の白神監督からいきなり「テツ、ラボライブ入れるよ」と言われました。
――いきなりですね(笑)
高橋徹さん:僕も「お!?」みたいな感じでした(笑)。全然意識してなかったので。


写真:高橋徹(株式会社LaboLive)/撮影:ラリーズ編集部

高橋徹さん:正直それまで、僕はラボライブを見る側でなくて映ってる側でした。そのため、ラボライブの凄さや配信はしているけど実際どういう仕事内容なのかも全然わからなかった。

そこから2ヶ月間ほどいろいろ考えて入社を決めました。

――決め手は何だったのでしょうか?

高橋徹さん:雪本さんから「おまえは俺が10年間見て、一人前にしてやる」と言われて、その言葉を聞いて入社しようと決意しました。


確かにそんな熱い言葉を言われたら心が動きます

――社会人1年目はどうでしたか?

何度も会場でお会いさせてもらって、奮闘されていた印象があります。

高橋徹さん:コロナの影響で大会が少なかったのは残念でした。

ただ、個人的にはこの1年で割と自分一人で配信面は全部こなせるようになりました。実際に高校選抜とビックトーナメントに関してはほぼ一人で配信ができたので、そこに関しては成長できたなと感じました。

――1年目、働いていて嬉しかった瞬間はどういうときですか?
高橋徹さん:やっぱりツイッターやメールで「ありがとう」と直接ユーザーの方からお礼の言葉をいただくとやってて良かったなと思います。

あとは視聴人数が多いときですね。同時に何人見ているかなどすべて数字でわかるので、全日本選手権だと1万5千人を超えるときもあり、すごく見てくれてるなと嬉しくなりましたね。


卓球ファンの「ありがとう」で頑張れる気持ち、とてもわかります

インターネット中継の裏側


写真:国内の主要な卓球大会はラボライブのおかげで無料でインターネット中継が見られる/撮影:ラリーズ編集部

――ここからはもう少し詳しく業務内容も伺いたいと思っています。

まず、ライブ配信での大会中継に至るまではどのような流れなのでしょうか?

高橋徹さん:基本的には大会運営者側から中継して欲しいと依頼を頂くので、金額の見積りやスケジュールを確認します。

次に大会の会場とレイアウトなどを教えていただいて、カメラ位置を決めていきます。


写真:2020年関西学生秋季リーグでは各台にカメラが設置され、ラボライブで全試合中継が行われた/撮影:ラリーズ編集部

高橋徹さん:カメラ位置については、プレーと得点盤の両方が見える角度にこだわっています。

また、大会途中で卓球台の数や会場レイアウトの変更が良く起きるので、カメラ位置を動かさずに済むように運営者と相談していますね。


写真:ラボライブの実際の配信画面 得点版も見えやすい位置にカメラの画角が設置されている/提供:LaboLiveのサイトより

――他にも大会前に準備していることはありますか?
高橋徹さん:最近はウェブで組み合わせやタイムテーブルを作ることが多いですね。

ラボライブではオンライン中継だけではなく、大会運営システムも開発していて、オンラインでのオーダー交換など、どんどん機能が進化しています。


写真:2020年後期日本卓球リーグで使用されたWEBでオーダーを登録し交換するシステム/提供:LaboLive

――大会現地での働き方についても教えて下さい。
高橋徹さん:試合会場では全部の台にカメラを設置して、映像をチェックします。

卓球のボールは小さいので、しっかり見えるようにカメラのホワイトバランスを調整するのと、何よりも配信が途切れないように細心の注意を払っています。


写真:ラボライブの配信準備風景/撮影:ラリーズ編集部

ITの専門家を目指して スキル習得のヒントは卓球にあり

――すでにラボライブの社員としてインターネット中継の技術をマスターされてますが、卓球中心の生活からIT×卓球業界でのビジネスへとがらりと環境が変わった部分で苦労したのではないでしょうか?
高橋徹さん:今まで卓球しかしてこなかったので、最初は本当にちんぷんかんぷんでした。

入社後、ラボライブの親会社である株式会社MNUというソフトウェアの会社で会議の議事録を書くことがあったのですが、ウェブやプログラムの専門用語が多すぎて何も書けなかったです(笑)。会議終了後に「これ何ですか?」と聞いて回りました。

知識が足りなすぎてこのままじゃダメだなと、カルチャーショックを受けましたね。

――そこからどのようにITのスキルを得ていったのですか?
高橋徹さん:真似してアウトプットしながら覚える部分と、知識をインプットする部分の両軸ですね。

例えば、プログラミングは既に動いているサービスのプログラムを見て、先輩エンジニアの書き方の真似から始めています。読んで意図が分からない部分があったら先輩に意図を聞いています。

インプットについては、参考書や本でコンピュータ周りのことを勉強しています。毎週日曜日夜の社内勉強会でインプットした内容を発表をして、理解を深めることもしています。


写真:机の上にもしっかり参考書が置かれていました/撮影:ラリーズ編集部

高橋徹さん:ある意味、卓球と似ている部分はあるんですよね。

チキータを覚えたければ周りの強い人に「どういう感覚でやってますか」と聞きながら真似をしてまずやってみて、アウトプットしながら自分に合う感覚をつかんでいく。インプット面でも「カットマンへの戦い方」「チキータをさせないようなサーブの出す位置」など理論や知識を勉強していく。

そういう意味では卓球の経験が活きていると言えますね。


卓球と仕事を結び付けた満点回答ありがとうございます

5年後のキャリアプランは経営者


写真:高橋徹(株式会社LaboLive)/撮影:ラリーズ編集部

――社会人2年目となりましたが、これからの目標を教えて下さい。
高橋徹さん:直近だと、資格を取ろうと思って、業務前や業務終了後に勉強しています。

昨年はもITIL® FoundationというITの資格を取りました。年内は10月に基本情報技術者試験、11月に簿記2級の2つを受ける予定です。

――ITだけでなくビジネス系も勉強しているんですね。長期的なキャリアプランを考えてですか?
高橋徹さん:3年後には大学院か学部かわからないですが、電気通信大学に入学したいと考えています。もう一回大学に通い直して、2年間しっかりとコンピュータを勉強したい。

3年後に入学して大学院が2年だとすると5年。5年後にはラボライブの経営を任せて貰えるように成長したいと思っています。

(ラボライブ代表取締役の)雪本さんも応援してくれていて、簿記の資格を取るようにとアドバイスであったり、見積も全部僕に任せてくださったりしています。

社会人でも目標に向かって夢中になって頑張っていきたいですね。


仕事道具を持って、笑顔を見せる高橋さん

最後に高橋さんは、「今後は試合を見てもらうだけでなく、実際に卓球に触れてもらう。大会の運営もしていく予定です」と次なる事業も一部明かしてくれた。

日本卓球界に根付く“青森山田魂”は、競技からビジネスへとフィールドを移しても消えることはない。高橋さんの描く未来が楽しみだ。

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取材協力:LaboLive

撮影場所協力:MI青春卓球CLUB