「"落ちたな"と言われるのは嫌」エースは地元に残った"ペンドラの星"前出陸杜 高田高卓球部に潜入 | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

写真:高田高校卓球部メンバー/撮影:ラリーズ編集部

卓球インタビュー 「“落ちたな”と言われるのは嫌」エースは地元に残った“ペンドラの星”前出陸杜 高田高卓球部に潜入

2021.10.30

この記事を書いた人
Rallys副編集長。学生卓球を愛し、主にYouTubeでの企画を担当。京都大学卓球部OB。戦型:右シェーク裏裏

中学時代日本一に輝きながら、地元に残り戦う選択をした男がいる。

三重県・高田高校卓球部の前出陸杜だ。今は珍しいペンホルダーとしてプレーする前出は、2021年のインターハイでもシングルスベスト16とランク入りを果たした。

今回は高田高校卓球部の練習にお邪魔し、“ペンドラの星”であり“地元の星”でもある前出陸杜のこれまでの卓球人生に迫るとともに、前出陸杜の兄・前出祐杜監督に高田高校卓球部の特徴を伺った。


【高田高校卓球部】三重県の卓球強豪校。「人間的成長なくして技術的進歩なし」をモットーに活動しており、2021年のインターハイでは学校対抗で初戦を突破、エースの前出陸杜はシングルスでベスト16とランク入りを果たした。

地元に残って「落ちたな」と言われるのは嫌


写真:前出陸杜(高田高校)/撮影:ラリーズ編集部

――インターハイではシングルスベスト16でランク入りおめでとうございます。ご自身としてはどうでしたか?
前出陸杜:ベスト8を目指していたので、あともう一回勝ちたかったというのが本音です。

岡野(俊介・愛工大名電高)選手に負けて、名電の選手に勝つには実力不足だなと感じました。

――名電など名門校の選手と戦うときは燃える、みたいな気持ちはありますか?
前出陸杜:逆に向かっていける気持ちでできます。名門校の選手に負けてしまって「落ちたな」と言われるのは嫌なので、「何が何でも勝ちたい」という気持ちで試合をしています。


インターハイ学校対抗でもシングルス全勝でチームを牽引した

――自分より上のレベルの選手が少ない地元三重の環境で、工夫している点はありますか?
前出陸杜:強豪校の選手に勝とうと思ったらラリー戦では厳しいと思い、中学まではラリーをする前に決める意識を持っていました。

ただ、高校に入ってからそれだけでは勝てなくなったので、ラリーする前に決める意識は持ちながらも、大きいラリーになったときに負けないように体づくりにも取り組んでいます。


練習後には体幹トレーニングに取り組んでいた

――そもそもなぜ地元の三重県に残ることを選んだのでしょうか?
前出陸杜:今年開催予定だった三重国体に向けて、小学生のときからずっと三重県に強化支援していただいてたので、自分は地元で頑張っていこうと思って残りました
――では、三重国体が中止になったときは…?
前出陸杜:やってくれることを信じて待ってたんですけど、コロナの影響で中止となって「あー、やっぱりか」という感じでした。

ただ、今まで強化してもらったことには変わりはないので、自分が違う大会で結果を出して三重県に恩返ししたいと思っています。


「結構あっさり中止になっちゃったなって感じです」

怪我から復活できたのは「卓球が好き」という思い


写真:前出陸杜(高田高校)/撮影:ラリーズ編集部

――前出選手が卓球をしてきて一番辛かった時期は?
前出陸杜:中2で全日本カデット優勝して、これからというときに腰の疲労骨折をしたことです。練習もトレーニングもできないし、周りと離されていく実感があったので、そこが一番苦しかったです。
――そこからどう立ち直ったのでしょうか?
前出陸杜:もうダメかなと思ったんですが、治って練習をすると「自分は卓球が好きだな」と改めて思って。

純粋に卓球が楽しいという気持ちでもう一回頑張ろうと思いましたね。


インターハイでの前出陸杜

高田高のモットーは「人間的成長なくして技術的進歩なし」

続いては、前出陸杜の兄・前出祐杜監督に、チームの特徴や取り組みを尋ねた。


写真:前出祐杜監督 高田高校から三重大学を経て3年前から男子卓球部監督に就任/撮影:ラリーズ編集部

――高田高校卓球部の特徴を教えて下さい。
前出監督:文武両道をモットーにやっています。スポーツ推薦の選手は一人もいなくて、全員が地元三重県から通っている形です。


高田高校卓球部の練習の様子 最近では大阪大学へ進学する部員も出ている

前出監督:また、学校で練習してから松生卓球道場さんに夜練習に行かせてもらっています。そこでは高校生だけでなくて、一般の社会人の方にも相手をしていただく場面があります。

そこでまずは積極的にコミュニケーションを取って、アドバイスを求めに行く。強くなるのはもちろんですし、卓球を通じて目上の人とコミュニケーションをとるなどは、社会人になってからも活きてくると思っています。


学校での練習後、松生卓球道場で練習する前出陸杜(高田高校)

――積極的に年代を越えて関わる機会が増えるので、卓球面も人間面も成長する、ということですね。
前出監督:そうですね。また、大人だけではなく小中学生もいるので、目上の方はもちろん下の立場にどうやって接するかも気をつけるように言ってますね。


練習場の壁に貼られた「人間的成長なくして技術的進歩なし」の文字

「チームの限界を上げてくれる」 “大エース”前出陸杜の存在


写真:前出祐杜監督(高田高校)/撮影:ラリーズ編集部

――今のチームだとエースの前出陸杜選手の存在が大きいと思います。チームで前出選手はどういう存在ですか?
前出監督:まず全国大会に出ても、陸杜が勝ってくれる。そのことで「自分たちもできるんじゃないか」という風に、チーム全体にプラスの方向に働いている部分はあります。

自分たちのチームの限界を上げてくれる存在。チーム的にはそんな感じですね。


インターハイシングルスではベスト16とランク入りを果たした前出陸杜(高田高校)

――監督としてではなく、兄から見た前出選手はどういう感じですか?
前出監督:まず卓球に関しては、小さい頃から集中力が凄いです。

小学生だと試合のカウントをよく間違えるんですけど、弟は絶対に間違えないし逆に相手が間違えてたら訂正する。そういうところが昔から違うなとは思ってました。

あとは高校生になって、練習相手で自分より強い相手もなかなかいない中でも、100%、120%の集中力で練習ができるのは強みだと思いますね。


集中して練習に臨む前出陸杜

――卓球面以外だと?
前出監督:性格面は基本的にのほほんとしてます(笑)。みんなからも結構いじられて愛されるキャラですね。


今はチームの主将兼エースとして戦う

“ペンドラの星”として

最後に“ペンドラの星”前出陸杜に、用具についてや今後の目標を尋ねた。


写真:稀少なペンホルダーとして戦う前出陸杜(高田高校)/撮影:ラリーズ編集部

――ペンホルダーで戦うことについてはどう感じてますか?
前出陸杜:ペンは勝つのは厳しいですが、強くなったら周りの人からも注目されます。周りと違うのは良いとこだと思うので、ペンで卓球を始めて良かったなと思います。
――用具にも結構こだわっていると伺いました。
前出陸杜:自分は結構わがままなので、いつも迷惑かけてるんですけど、契約メーカーのミズノさんにいろんな用具を送ってもらっては試してを繰り返しています。

ラケットも本来中ペンはなかった種類なのですが作ってもらいました(笑)


現在はアルティウスST5を使用している

――今回、ラバーも試打されてましたね?
前出陸杜:フォア面は、打ったときに落ちる感覚があるラバーが嫌で、加えてもう少し反発を強くしてほしいというのを前から要望してました。

今日打ったのはミズノの新ラバー「Q QUALITY」なのですが、今までで一番好感触でした。


取材時にフォア面用の新ラバーの試打を繰り返し、「これは良い」と驚きの声をあげていた

――今後はどういう選手になっていきたいですか?
前出陸杜:中ペンが少なくなってきてる中で、自分が世界でも活躍できる選手になって、ペンでも勝てることを知ってもらい、中ペンの人がもっと増えたらいいなと思います。

憧れられる選手になりたいです。

愛されキャラのエース兼新主将は、“地元三重県の星”、“ペンドラの星”、そして“日本卓球界の星”の三ツ星を手にできるか。三重での挑戦は続く。

取材動画はこちら

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