山下社長「卓球を卒業してもいい仕事をする」リコーが企業スポーツを持つ理由 | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

写真:リコー社長 山下良則氏/撮影:伊藤圭

卓球インタビュー 山下社長「卓球を卒業してもいい仕事をする」リコーが企業スポーツを持つ理由

2020.09.10

この記事を書いた人
1979年生まれ。テレビ/映画業界を離れ2020年からRallys編集長/2023年から金沢ポート取締役兼任。
軽い小咄から深堀りインタビューまで、劇場体験のようなコンテンツを。
戦型:右シェーク裏裏

2018年、創部60年来初めての日本リーグ総合優勝を果たしたリコー卓球部。
そのグループを率いる社長が、大学時代、卓球に打ち込んだ経験者であることは、果たして偶然だったのか。

パッと、その場所が明るくなる人柄だ。
せっかく社長に時間を頂いたのだからと、リコーの社業について、私が力んだ質問から始めると「それより俺の卓球の話聞きに来たんだろ」と悪戯っぽく笑って、楽しい取材がスタートした。

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毎日辞めようかと

――山下社長は広島大学の卓球部出身とお伺いしました。
山下良則社長(以下、山下)
:広島大学の卓球部に、ほぼ初心者で入りました。高校の時ちょっとやってたけど体育会系じゃなかった。


写真:リコー社長 山下良則氏/撮影:伊藤圭

今は広島大学は西条に移ったけど、我々のときは広島市内にあって、平和公園から自転車で10分くらいだったの。

卓球部の練習場が古い2階建ての校舎の1階に、卓球台が4台。それしかない。部員は50人くらいいたから、ほとんど練習できない。

夏休みまで、1回も台についたことがなかった。毎日辞めようかと思ってたよ(笑)。


写真:リコー社長 山下良則氏/撮影:伊藤圭

――練習は厳しかったですか
山下
:毎日夕方6時くらいに集まって、体操して、走る。広島市に比治山(ひじやま)という小さい山があって、そこまで大学から5キロ、もうちょっとむこうに黄金山(おうごんざん)って山があって、これが頂上まで8キロくらい。確か木曜日が黄金山だったな。

とにかく、よく走った。夏までは素振りと走るしかなかった。


写真:広島大学卓球部時代の山下良則氏(写真左)/提供:山下良則氏

「初心者の山下でも勝てないこともない」戦型に

――現役時代、カットマンだったと伺いました
山下
:やっと台につけた頃、尊敬する先輩が4年生にいて、彼が「山下、初心者のお前で勝てないこともない、カットマンという戦型がある。これは勝てる」と言う。それで、カットマンになった。後になって聞くと、俺の学年にカットマンを作りたかっただけなんだけど(笑)。
ま、足も速かったし、それだけ走ったからね。卓球は足腰だ、そう思った。
カットマンって、最後はテクニックもあるけど、まず足が動かない選手は勝てないから。

――でも、なぜ大学から体育会の卓球部に入ろうと思ったんですか
山下
:最初、エスペラント語のクラブとも迷ったけど(笑)。当時、世界中みんな喋る言葉はエスペラントになりますっていうのを聞いて、これはすごいと。

でも、やっぱり、体育会系のほうが友人関係が深まるんじゃないかと思って。で、熱心に誘ってくれた卓球部に、仲の良い同期と入った。

ただ、そいつは中学から卓球やってたから、気づいたら台についてる。俺は全然台につけずに、ひたすら素振りとマラソン。陸上部に入ったのかと思った(笑)。


写真:リコー社長 山下良則氏/撮影:伊藤圭

でも、続けて良かったですよ。今でも同じ学年の仲間とは本当に仲が良い。卓球続けてる人も多いよね。

山下もまた卓球やれよって言われて「俺はやらないよ」って言ってるんですが、ホントのこと言うと、日本ではやってないけど、アメリカ駐在の頃はやってました。

「よし。卓球やろう」

――え、アメリカで卓球ですか?
山下
:2008年から11年までカリフォルニアに駐在してまして、1400人くらいの社員は、20以上の国にルーツを持っていました。メキシコ系が30%くらい、ベトナム系が10%強、西欧系がいて中国系も韓国系もいて。

いろいろ指示出しても、まあ社長だからって言うことは聞くんだけど、どうもまとまりがない。


写真:カリフォルニア駐在時代の山下良則氏(写真左)/提供:リコー

「よし。卓球やろう」ってベトナム系の社員に言ったら、やるやると。昼休みに、毎日卓球を始めた。食堂に卓球台2台くらい置いてあって、やりだしたら仲間が増えた。

だんだん人が増えていって、2年目からカリフォルニア地区、全社卓球大会ってのを始めた。

そうするとジョージア工場が、なんでカリフォルニアばっかりやるんだって。それが面白いってことになって、マラソン部作って、次はソフトボール部って。クラブ活動を重視することで、社員に一体感が出てきた。

ああ、卓球やっててよかったって思った。


写真:カリフォルニア駐在時代の山下良則氏(写真後列左から6番目)/提供:リコー

――卓球は人をつなぐ、ですね
山下
:日本に帰ってきてからはやるところがないね(笑)。そしたら工藤(リコー卓球部監督)が誘ってくれて。体育館がいま改装中なのと、このコロナの状況で、結局まだ腕前を見せてない(笑)。

卓球とビジネスの共通点は、足腰と間(ま)


写真:リコー社長 山下良則氏/撮影:伊藤圭

――卓球とビジネスの共通点は何だと思われますか
山下
:仕事との共通点というと現場だろうね。社長になる前から僕は現場主義。かっこいいパワーポイント書くのもいいんだけど、結局わかんないの。現場にいくと資料無くてもわかる。だから現場に行って、議論をする、意思決定するってのが自分の主義です。
ビジネスの足腰ってのは現場なのかなと。生産現場だったり営業現場だったり。


写真:リコー社長 山下良則氏/提供:リコー(2018年5月撮影)

あとは、卓球あんまり強くなかったけど、間(ま)が大事。
卓球も当時21本制だったから、結構長いのね1ゲームが。サーブするときの間だとか、相手がピン球拾いに行ったときのしぐさとか、結構大事。俺そういうのばっか見てた。この人どういう気持ちでやってんだろなって。

仕事と似てるよね

ビジネスもある意味の間が必要で、ある仕事、会議の間に、5分でも10分でも間があって、その時の切り替えが大事。他のスポーツもそうかもしれないけど。


写真:リコー社長 山下良則氏/撮影:伊藤圭

――ご自身はどういう風に間を取っていますか
山下
:細かい話で言えば、会社にいるときは、社長室を一昨年閉鎖して、一般の社員のいる普通のオフィスで仕事して、打ち合わせや会議はその人の席に自分から行くってのを基本にしてること、それが一つ。


写真:リコー社長 山下良則氏/提供:リコー(2018年5月撮影)

もう少し大きく言えば、ビジネスマンはどうしても日常が固定化しちゃうから、できるだけ非日常を作った方がいい。卓球やればいいんだけど(笑)。

僕で言えば、5,6年前から小唄をやってて、このときだけは会社のことは忘れられる。なぜかというと、小唄は音符がない。歌詞はあるんだけど。今日はこの歌をというときに、曲を覚えないといけない、これがなかなか難儀なんだ(笑)。週1回行って、その時だけは非日常。

まあそういうのがないとね、ビジネスマンも疲れちゃうよね。


写真:リコー社長 山下良則氏/撮影:伊藤圭

リコー卓球部「仕事と卓球」の両立

――リコー卓球部のお話も聞かせてください。全選手にオンラインインタビューをして「仕事と卓球の両立」を本当に実践していることに驚きました
山下
:うん、よくやってると思います。


写真:リコー社長 山下良則氏/撮影:伊藤圭

リコーには、皆さんよくご存じのラグビー、ここにはプロの要素もありますけど、それでも他のチームに比べれば圧倒的にアマチュアの選手が多い。あとは卓球、テニス、将棋、野球部、これ全て社員で、プロを一人も入れていません。

夕方5時半まで仕事して、それから練習。大変だと思いますよ。でも、だからこそ社員が応援してくれるし、試合をやると地域の人も来てくれる。だって、仕事場で隣で一緒に仕事してるやつなら、応援行こうと思うじゃん(笑)

写真:リコー社長 山下良則氏/撮影:伊藤圭

――そこは山下社長のこだわりですか
山下
:私自身もそうですけど、過去の社長も一貫して、企業スポーツは社員として誇りをもってやってほしいし、他の社員も仲間として応援してほしいという気持ちがある。

だから、配属も普通はある部門に集めてってなるけど、うちはバラバラです。

仕事をしながらやってきたっていう誇り

――確かに、選手が皆、所属部署も業務も全く違うことに驚きました
山下
:選手たちは仕事も別々だから大変だよね。でも、卓球でもテニスでも、新人を毎年採用するから、選手はある年齢になるとサポート役になるんですね。

写真:リコー社長 山下良則氏/撮影:伊藤圭

仕事しながら選手をやってきた誇りがあるから、卓球をある程度卒業しても、いい仕事するのよ。だって、圧倒的にそっちの方が長いんだから。

60歳まで働くとする。選手を45までできないよねさすがに。30代になる頃には既にサポート側になってる。そこから初めて仕事だっていっても、同期の人たちだって10年仕事してきている。

卓球と仕事両方をやってる何年かはしんどい。でもそこを頑張ってやることが、卓球部との仲間や応援してくれる仲間との人間関係、仕事のスキルという意味でも、必ず本人のためになると思います。


写真:リコー社長 山下良則氏/撮影:伊藤圭

――これからの卓球部に期待することは
山下
:やっぱり勝たなきゃね。プロだとかアマだとか、練習量が少ないとかいろんな言い訳ができるけど、それってどのチームも一緒なの。

やっぱり、勝とうとするそのこだわりでチームワークが生まれるし、その熱意は周りにも浸透する

だって公休で試合行くこともあるでしょう。そのときの仕事は会社の他の人がサポートしてくれるわけ。そこに同好会的な雰囲気があると助けないんだ。でも熱意があればサポートも、応援もしてくれる。

しんどいけど、これからもやっぱり勝つってことについてはこだわってほしいね。

――お忙しいところ、本当にありがとうございました。

現場主義の人

自身と卓球、そして企業とスポーツについて、現場主義の人ならではの実体験に基づいた話に、終始引き込まれていた。

ふと気づくと、山下社長は、取材用に準備したラケットを、まるで大切な相棒のように優しく握ったまま、話していた。

写真:リコー社長 山下良則氏/撮影:伊藤圭

「スイングしてください」写真撮影でお願いする私たちに「俺、カットマンなんだよ」と和ませてくれた、山下社長。

この明るさが、日本卓球リーグ実業団連盟、創部60余年のリコー卓球部を照らしていること。
卓球ニュースを報じる人間として、それが妙に嬉しかった。


写真:リコー社長 山下良則氏/撮影:伊藤圭

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写真:リコー卓球部/撮影:ラリーズ編集部

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