「Tプレミアは100点中80点」元女子代表監督・村上恭和が語る、卓球界の現状【Tリーグ開幕直前インタビュー前編】


*写真は村上恭和氏

もし、この人がいなければ、日本の女子卓球界は今とは違う道を歩んでいたかもしれない。指揮する日本生命を実業団の常勝チームに育てあげ、オリンピックでは女子代表監督として2012年のロンドン、2016年のリオデジャネイロと二大会連続で日本チームを団体戦メダル獲得に導いた村上恭和氏である。村上氏は輝かしい功績を持つ一方で、現在はチームの総監督としてジュニア育成の種を撒き続ける。そんな名将の視界に、10月に開幕するTプレミアリーグの現状、そして未来はどのように映っているのだろうか。日本卓球界の悲願である“打倒中国”へのアプローチと重ねながら、さまざまな質問をぶつけた。
 

Tプレミアが「100点満点中80点」の真意

――Tプレミアリーグが10月に開幕します。成否のポイントはどこにあると思われていますか。

村上恭和氏(以下、村上):参加する選手の質がすべてだと思います。ファンの人たちや、卓球に興味を持ち始めた人たちが会場に足を運んでそのプレーを見たいと思うようなトップ選手たちが何人リーグでプレーするのか。今のところ、100点満点の80点ぐらいはつけられるというのが私の印象です。世界1のリーグを目標にしているわけですから、中国のトップ選手が参戦できないことがマイナス20点の要因です。それでも、事前に想像していたよりも、日本のトップ選手たちの多くが参加してくれる意義は大きい。トップ選手やその周囲にいる人たちが、日本の卓球界をより発展させたいという思いを共有しているからだと思います。

――現時点(7月14日)では、交渉中の選手が多いせいか、特に女子のチームにどんな選手が参加するのか、なかなか正確な情報がメディアにも伝わってきません

村上:私たちにも、リーグの運営などに関してなかなか情報が伝わってこないことがありました(笑)。でも、この2ヶ月ぐらいで、ようやくスピード感が出てきたのではないでしょうか。私が知り得たところでは、女子もトップ選手のほとんどが参加してくれるはずです。日本生命に関しては、近く正式に発表できる選手も含め、望みうる最高のメンバーで開幕を迎えることができます。

卓球を取り巻く環境は劇的に変わった

――日本に卓球のプロリーグが誕生すること自体に、特別な感慨があるのでは。

村上:私たちの世代が中学の部活で卓球を始めたころは、卓球のプロリーグなんて想像もできませんでしたからね。夢物語だったプロリーグ構想が現実味を帯びてきたのは、ロンドン五輪で女子代表が銀メダルを獲ってからだと思います。それまでは世間で知られている選手は福原愛だけでしたが、メダルを獲って平野早矢香や石川佳純たちの名前も広く知られるようになった。第3代国際卓球連盟会長で、卓球を五輪種目にするために尽力された荻村伊智朗さんが『オリンピックでメダルを獲れば、日本の卓球界は変わる』とおっしゃっていましたが、その通りになった。日本リーグを30年続けても、観客は増えなかった。世界チャンピオンだった小野誠二も、福原もコートに立ったのに、人が集まらなかった。でも、ロンドン五輪に続き、4年後のリオ五輪で男子が水谷のシングルス、団体でもメダルを獲って、世間の注目度が劇的に変わった。そうしたなか、2020年の東京オリンピックの前にスタートするタイミングもいいと思います。

――それはどんな思いからですか。

村上:東京オリンピックでメダル獲得が期待される卓球の人気はピークまで盛り上がるでしょう。でも、オリンピックが終われば、必ずその熱は冷めていきます。そのときに受け皿となって卓球界を支えるのがTプレミアリーグです。受け皿として機能させるためには、オリンピックの前にすでに土台となる実績を作っておくべきだとずっと考えていました。

――東京オリンピック後も見通して、1年目のTプレミアリーグにはどのような動きが求められるのでしょう。

村上:大切なのは、ファンやメディアへの情報発信だと思います。リーグ、各チーム、選手たちが積極的に情報発信をしていくことです。1993年に発足したサッカーのJリーグも、ジーコやアルシンドといった海外の選手の活躍もありましたが、日本人選手の顔ぶれは日本リーグ時代から変わっていないのに、1年目から集客が日本リーグ時代の10倍以上になった。これはリーグやチーム、選手たちが情報を積極的に発信したからだと思います。同じように、私たちも情報発信には敏感かつ熱心であるべきです。日本生命も日本リーグ時代とは違う形で、情報発信のあり方を追求していきたい。

打倒、中国。名将はどう見る?

――村上総監督はリオ五輪後に女子代表監督を退かれましたが、東京オリンピックで日本が打倒中国の悲願を果たす可能性についてはどうお考えですか。

村上:正直に言って、少し前まではその可能性は低いと思っていました。まだ、明らかに力の差があるな、と。でも、今、そう言うのは選手たちに失礼でしょうね。女子はアジア選手権で平野美宇が中国のトップ3に勝ち、伊藤美誠も世界選手権団体戦決勝のコートで劉詩文に勝った。男子も張本智和が中国オープンで張継科に、ジャパンオープン荻村杯で馬龍に勝った。これまでも中国選手に勝つことはあったけど、これだけ続いてくると、中国もこれまでと同じ感覚ではいられなくなったのでしょう。今の中国は、日本を過剰意識していると思います。日本の選手は中国の超級リーグに参加させない、中国のトップ選手も日本には行くな、と。

――中国の対応がこれまでとは明らかに違う、と。

村上:中国がワールドツアーにどんどんジュニア世代の選手を出場させるようになったのも、ここ一年の大きな変化です。指導者も若返りを図っているのか、私の知らない顔がベンチコーチをしたりしています。そしてそうした中国のジュニア世代に日本のトップ選手が負けるケースも、ここ最近のワールドツアーで見られるようになりました。中国の壁を越えるのは、容易ではないということです。

――そうした変化のなか、日本が最も力を注ぐべきことは何でしょう?

村上:指導者の育成です。中国に対してパイの大きさでは勝てません。向こうが一万人の中から選手を選抜するとすれば、こちらは千人からといった感じでしょうか。日本はパイが小さいからこそ、優秀な指導者が数少ない才能を見いだし、育てる必要があります。それなのに、今の日本にはプロフェッショナルの指導者がいない。高校の卓球部の指導は教員が務め、大学はOB、社会人はコーチの肩書きを持つ人が他の仕事と兼務しながら指導している。選手に注目が集まるのは当然ですが、Tプレミアリーグはプロの指導者を日本で育成するきっかけにもなると思っています。(後編に続く)

文・取材:城島 充
写真:ラリーズ編集部

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