前代表監督、村上恭和に聞く「打倒中国」の決め手とは?【Tリーグ開幕直前インタビュー後編】


*写真は村上恭和氏

日本生命卓球部が2016年9月に拠点を移した大阪府貝塚市には、かつて“東洋の魔女”と呼ばれた女子バレーボールの強豪「ニチボー貝塚」(現社名・ユニチカ)があった。日本生命の総監督を務める村上恭和氏は「バレーボールの街として知られた貝塚を、今度は卓球タウンにしたい」と公言してきた。Tプレミアリーグ開幕に向けて準備を進める一方、地域に密着しながらジュニアの育成システムにも新たな一石を投じ続けている村上氏に、前編に続いて日本卓球界の未来図を描いてもらった。

インタビュー前編はこちらから
 

問題は卓球場に通い始めた子どもたちを教えられる指導者がいないこと

――指導者の育成こそが、打倒中国の決め手になるという前回の続きの話から聞かせてください。

村上恭和氏(以下、村上):現在、日本には協会に登録していないところも含めて、卓球場が2000カ所ほどあると言われています。では、それぞれの卓球場に指導者はどれくらいいるのか。フリーターではないですが、時間制で地域のママさんたちに卓球を教えている人は、おそらく大阪府下でも100人近くいるでしょう。でも、問題は卓球場に通い始めた子どもたちを教えられる指導者がいないことです。これまでの日本のトップ選手たちは、福原愛や伊藤美誠、平野美宇たちがそうであったように、卓球に情熱を持つ親が幼少期に正しい指導をしてくれたから、それを土台に強くなった。しかし、これからは親が卓球をまったく知らない子どもたちの中からも、才能を見いだし、育てていくべきです。そうなると、全国の卓球場でその年代の子どもたちに卓球を教える指導者の質が問われてくる。

――Tプレミアリーグも、参加チームにジュニアの育成を求めていますね。

村上:各チームに2年の猶予をつけて6歳以下の子どもたちを育成するシステムを構築するように求めています。6歳以下というカテゴリーはこれまでなかったですが、個人的にはもっと下に絞ったほうがいいと思ったぐらいです。ともかく、繰り返しになりますが、大事なのは、そうした子どもたちに初めて卓球を教える指導者の質です。私たちが始めた全国の幼稚園・保育園に卓球台を贈る取り組みも、そうしたTプレミアリーグのジュニア育成の構想と根っこの部分でつながっています。

――村上総監督が近藤欽司・サンリツ総監督らと昨年3月に設立した一般社団法人「卓球ジュニアサポートジャパン」が打ち出された事業ですね。発足時の会見では、全国1000カ所に子供用に開発されたオリジナルの卓球台を寄贈したいということでしたが、現段階で事業はどれぐらい進んでいますか。

村上:これまでに南は沖縄の石垣島から北は北海道の幼稚園や保育園に約150台を贈りました。日本生命の地元である大阪の泉州地区では、貝塚、岸和田、熊取町の幼稚園や保育園に計26台贈っています。貝塚には公立の保育園が11施設あるのですが、日本生命の選手やコーチによる巡回指導も行っています。最近は2週間に一度、うちのコーチが保育園の保育士さんたちに卓球の教え方を指導しています。プロの指導者がいなくても、幼稚園や保育園の現場で子どもたちに卓球を教えてほしいからです。今は地元の貝塚だけの試みですが、目標としている全国1000カ所に同じような取り組みが広がれば……。

「打倒中国」には卓球という競技にふれる入り口を充実させることが重要

――そうなれば、明らかにこれまでとは違う育成の環境が生まれますね。

村上:とにかく、卓球という競技にふれる入口を充実させることが重要です。福原愛の活躍を見て、伊藤や平野、早田ひなの“17歳トリオ”が頑張ったように、これからはTプレミアリーグで活躍する選手たちの姿を見た子どもたちが自分もああいう風になりたいと憧れるのはもちろん、お父さんやお母さんたちも、子どもに卓球をさせたいと思うようになるでしょう。そのとき、自分たちに卓球のプレー経験がなくても、子どもたちが幼いころから卓球の適切な指導を受けられる環境があれば、その子もトップ選手になれる可能性が広がっていく。卓球という競技の底辺の拡大を目指す取り組みですが、それがそのままトップレベルの強化につながっていきますから。

――Tプレミアリーグの開幕で、貝塚を卓球タウンにする構想にも弾みがつくでしょうか。

村上:貝塚市の教育委員会の人たちがとても熱心に取り組んでくれていますし、日本リーグのときは地元で試合ができませんでしたが、Tプレミアリーグでは地元のみなさんに試合を見ていただく機会があるのがありがたい。貝塚、岸和田、羽曳野のホームで計6試合あるはずです。日本リーグではどうしても会社関係の人たちの応援が中心でしたが、Tプレミアリーグでは、地元の人たちにどれだけ会場に足を運んでもらえるのかが重要になってきます。そのためにも、選手たちにはトップリーグにふさわしいプレーでアピールしてほしいですね。

――各チームで地域密着とジュニア世代の育成が進んでいけば、Tプレミアリーグの未来は明るく思えてきます。

村上:いずれ、中国との間でそれぞれのリーグに選手が行き来できるようになれば、さらにレベルがあがっていくでしょう。そうなれば、世界1のリーグを目指すというTプレミアリーグの目標も決して夢でなくなるはずです。

――もし、そうなれば……。

村上:そんな時代がくれば、日本の卓球が中国を一時的ではなく、完全に凌駕するかもしれません。もし、そうなったとしたら、中国は文化大革命後に国際舞台に復帰した1971年の世界選手権名古屋大会のときと同じように大事なのは勝敗ではなく、『友好第一』だと言い始めるかもしれません(笑)。冗談半分ですが、そんなことを私の頭の中だけでも想像できるようになったことも、Tプレミアリーグのスタートとともに日本の卓球が明らかに新しい時代を迎えていることの証明かもしれません。もちろん、新たな挑戦ですから、いろんな場面で壁にぶち当たることもあるでしょうが、関係者のすべてが日本の卓球人気を盛り上げたい――。その思いを1つにして前に進んでいきたいですね。(了)

文・取材:城島 充
写真:ラリーズ編集部

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