文・取材・写真:赤羽ひな(ラリーズ編集部・欧州特派員)
近年、ロンドンのショッピングセンターに異変が起きている。
オンラインショッピングの台頭に押され、空きテナントが増加する問題が深刻化しているのだ。そんな寂れたショッピングセンターを活気づける起爆剤として、卓球台が話題を呼んでいる。
寂しくなったショッピングセンター
今回取材に訪れたのは、ロンドン西部のハマースミス駅前にある「キングス・モール ショッピングセンター」だ。
住宅街が広がる駅前は、ぼんやりとしていると人とぶつかってしまいそうな程度には人通りがある。しかし、目の前のショッピングセンターに足を踏み入れる人は少なく、日曜の午後とは思えないほど閑散としていた。
店内は大手スーパーマーケットにファストファッション店、そしていくつかの雑貨屋があるほかは、空きテナントが目立つ。空いたテナントの閉まった壁には「近日オープン予定」と書かれた張り紙は一切ない。
このショッピングモールの近隣に6年近く住む人は、「5年ほど前までは比べ物にならないほど栄えていたのに、今はみんなネットで何もかも買ってしまうから随分寂れてしまった」とこぼした。
フロアの1/3を占める部分はフィットネスジムの建設中で、ショッピングのためのモールではなくなりつつある。
突如現れた卓球台
そんな空いたテナントを利用して、2016年8月に「ピンポンパーラー」という無料の卓球スペースがオープンした。
20畳程度の空間に卓球台が3台あり、周りのベンチには台の利用を待つ人もいた。スペースを拡大すべく、隣のテナントもまさにピンポンパーラーをオープンするために工事している最中だった。
近隣に住む人は「どの曜日のどんな時間帯に通っても、モールの中でここだけはいつも賑わっている。あまりの人の多さに、ここで遊んでいる人たちはちゃんと仕事しているのかと疑いそうなくらいだ」と語った。
利用者は、老若男女で人種も様々だ。
管理者はおらず、利用申請の必要はない。ラケットとボールの貸し出しもないため、利用者は全員自ら道具を持参していた。日本の温泉卓球のようにハイレベルではなく、体育館ではない屋内外の公共の卓球台でのみプレイするという人が多かった。
屋内だけでなく、ショッピングモールから徒歩3分ほどの場所にある広場にも卓球台が置かれている。夏には屋外の卓球台でプレイして、寒くなるにつれて屋内の卓球台を利用する人が多くなるという。
作ったのは誰か?
ピンポンパーラーを運営するのは、Ping!という団体だ。
イギリス全土に約770台もの屋内外の無料卓球スペースを設置し、毎年夏には各地で200種類以上の卓球イベントを行う「ピンポンフェスティバル」を開催している。夏季にはいくつかの場所ではラケットの貸し出しも行われ、誰もが気軽に卓球を楽しむための空間を提供している。
かつて16-7世紀の王室の庭園として利用されていたロンドン屈指の歴史的な公園として知られるホワイトホール・ガーデンにも設置され、卓球をしない人々も目を引く取り組みとなっている。
Ping!の事業の一環として位置付けられるピンポンパーラーは、現在7ヶ所存在し、屋外の卓球台と共に今後も増えてゆく見込みだ。
イギリスでは、ソーシャルな空間としての卓球場が各地で生まれ始めている。屋外卓球がイギリスの夏の風物詩として定着するのも時間の問題かもしれない。
単純なスポーツとしての意味合いに留まることなく、1年に78万人もの人々に卓球の醍醐味を届けているPing!の活動は、日本も見習うべきエッセンスが詰まっている。
夏季にイギリスを訪れる際には、Ping!の公式サイトをチェックして、卓球の祭典に参加してみるのも良いだろう。
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